前回は、認知症患者さんを不安にさせたり、興奮させるようなやりとりが病状を進行させてしまうので、認知症治療にとっては同居している方による適切なケアが不可欠なのですが、実は周りの方が本人を落ち着かなくさせる「スイッチ」を入れてしまっていることが少なくないというお話をしました。
そして「同居している相手の方が不適切なケアを改めることは難しい」と判断される場合には、その相手の方と2人だけでいる時間をできるだけ減らしていくようアプローチしていくとお話ししました。
今回はその続きになります。
まずは介護保険サービスの導入と拡充を
認知症患者さんと同居されている方が、どうしても本人の気持ちを逆なでしてしまい、それを改めるのが難しい場合には、第三者に入ってもらってできるだけ2人だけでいさせないようにしたり、物理的に2人を離す時間を確保してもらうようにしています。
他の家族の方の協力が得られる場合には、できるだけ本人のところに顔を出してもらって、とにかく2人だけでやりとりをする時間を作らせないようにしてもらいます。
ただ他の家族の方が同居していたとしても、その方にも仕事や家庭があったりするので、なかなかいつも一緒にいてもらうという訳にはいきません。
他の家族が同居していない場合には、なおさらハードルが高くなるでしょう。
そのため生活環境を整えていくためには、介護保険サービスを導入・拡充していくのが現実的な場合がほとんどです。
介護保険を利用すれば、ヘルパーさんや訪問看護・リハビリスタッフ、薬剤師などが自宅を訪問したり、本人をデイサービスやデイケアに通わせることもできるため、2人だけで過ごす時間を減らせるようになります。
そして第三者である他人が定期的に介入することで、変わり映えのない生活に新しい風が入り、他人と会話をする機会を確保できるとともに、体調や病状の変化をいち早く察知してもらえるなど本人の安全を担保することにも繋がるので、在宅生活を続けていくうえで非常に助かります。
また定期的に家族ではない他人と交流する機会を持てるようになると、脳が活性化されて認知症の症状が落ち着いてくることもあります。
さらには同居している相手の方や家族の介護負担・ストレスの軽減にも繋がるので、気持ちに少し余裕ができて本人に対する対応も改善できたりするのです。
そのため介護保険サービスの導入と拡充は、認知症の治療を進めていくうえでは欠かせないものになっています。
各種訪問サービスのメリット
利用をお勧めしている介護保険サービスには、スタッフが自宅に来てくれる訪問型のものと、本人が施設に通う通所型のものがあり、それぞれにメリットがあります。
まず訪問サービスについてですが、例えば訪問介護サービスを利用すれば、ヘルパーさんに家に来てもらって掃除や洗濯、食事の準備といった家事、買い物の付き添い、薬の内服援助などお願いすることができます。
また訪問看護・リハビリサービスを利用すれば、主治医の指示のもと薬の内服管理や体調管理、必要な医学的処置、リハビリなどが可能になります。
看護師さんが介入できれば、認知症の大敵である便秘が続いている時には適宜便通を促す座薬や浣腸をしてもらえるなど、体調の異変があればすぐに気付いてもらえるばかりか、主治医と連携してすぐに必要な処置をしてもらうこともできます。
一人での入浴が危なかったり、難しければ入浴させてもらうことも可能で、その際に全身の皮膚状態も確認してもらえますし、また褥瘡の処置や点滴を受けることも可能になります。
リハビリスタッフが介入できれば、運動やストレッチなどの機能訓練や自主トレ指導はもちろん、自宅内での動作や動線を確認して家具やベッドの配置を工夫したり、必要な福祉用具の導入や手すりの設置などについて具体的なアドバイスを受けることも可能になります。
また、本人も家族も薬の内服管理をするのが難しい場合には、主治医の指示のもと薬剤師が自宅に訪問することも可能です。
薬剤師が定期的に処方薬を補充しながら内服状況を確認し、本人が内服しやすい方法を検討しながら、主治医と相談して内服薬を一包化したり、お薬カレンダーに分けて入れたりしてくれます。
そもそも認知症の治療は、まずは本人に薬を飲んでもらわなければ始まりません。
そのため内服を忘れがちな患者さんで家族が内服管理できない場合、ヘルパーさんによる内服補助や看護師による内服管理と同じく、この薬剤師による訪問サービスにはとても助けられています。
またこれらの訪問サービスでは、スタッフが本人の自宅に訪問するので、実際の生活の様子を把握したり、問題点を見つけやすいというメリットがあります。
さらに本人が引きこもりがちな場合も利用が可能であり、他人が来てくれることで自宅にいながら少し「よそ行き」で張りのある気分を定期的に味わえるので、それが本人の生活のリズムを整えたり、脳を活性化することにも繋がるのです。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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