認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「お父さん!違うでしょ!」が症状を進行させる(9)

前回は、認知症患者さんがデイサービスやデイケアなどの通所サービスを利用するようになると、生活リズムが整って夜間の睡眠の質が上がり、それによってほとんどの認知症症状のベースになっている「意識の変容」が改善するので、認知症症状も全体的に落ち着きやすくなるというお話をしました。

また、通所サービスを導入すると同居家族の介護負担の軽減も期待できるので、それが家族の気持ちに余裕を生じさせることにもつながり、それによって家族が今まで気付けなかったような患者さんの症状や変化にも気付けるようになると、主治医も投薬治療をより的確に行えるようになるので、さらに患者さんの症状が改善されていくといった好循環が生まれやすい、というお話もしました。

今回はその続きになります。

 

患者さんの客観的な症状と変化を報告できない家族の場合

主治医が診察時に一番知りたいのは、前回投薬した結果、症状がどのように変化したのかということです。

なぜなら、それが分からなければどのように投薬を調整すれば良いか分からないからです。

このことを同居家族がどうしても理解してくれなかったり、また家族の気持ちに余裕がなかったりして、自分の主観的な判断や感情ばかりを訴えていたら、当然ながら主治医は的確な判断ができません。

それにも関わらず診察時に「こんな症状があっていつも大変なんです!」「こんな症状もあるんです!」と自分の感情や悪いことしかお話しされない家族が少なからずいらっしゃるのです。

主治医は、出現している症状やその変化に応じて、薬の効果ばかりでなく、その副作用についても注意深く鑑みながら、使用する薬を選択してその量を微調節していかなくてはなりません。

それが、家族のいわば大げさな話を鵜呑みにして、診察の度に薬を出し入れしたり、量の調整を過剰に行ってしまったら、良くなるものも良くならず、認知症の症状も間違いなく波打ってしまいます。

ちなみに私どもはそんな失敗を今までにたくさんしてきました。

そのため、自分の主観的な話ばかりを繰り返す家族の場合は、いわば話半分で判断して、こちらが振り回されないようにすることも大切だと考えるようになりました。

したがって診察時には、患者さん本人だけでなく家族の性格やキャラクターも見極めていくことが不可欠であり、家族からできるだけ客観的な情報を引き出したり、話の信頼性を判断する技量も必要になっています。

また患者さんの状態について客観的な情報を得るために、その他の家族やケアマネを初めとする医療・介護保険スタッフとも積極的に情報交換するよう心掛けています。

するとそれまで同居家族からは得ることができなかった患者さんを取り巻く実際の状況や、本当の問題点などが浮き彫りになることもたびたびあります。

そのような場合は、投薬治療だけで認知症の症状を落ち着かせるのにはどうしても限界があるので、その他の家族や医療・介護保険スタッフなどを巻き込んで、患者さんの生活環境を変えていくアプローチも同時に行っていくのです。

 

最も治療に難渋するのが家族が勝手に薬をいじってしまうケース

このように、周囲の人の言動が患者さんの症状を大きく左右してしまうのにも関わらず不適切な言動を繰り返してしまったり、同居家族が自分の主観的な考えや気持ちばかりを訴えて主治医に実際の患者さんの状態についてうまく伝えられない場合、認知症の治療はなかなかスムースには進みません。

認知症が薬だけで良くなるということもありますが、そういったことは稀であり、同居家族の適切なケアと協力があってこそ治療が上手くいくことがほとんどだからです。

そのため、なかなか患者さんの認知症症状が改善していかない場合は、もちろん投薬調整が不十分であるということもありますが、同居家族の言動や普段の生活環境にも問題があるかもしれないということです。

同居されているご家族には、是非このことを理解していただきたいのですが、自分の問題として受け止め、自身の対応を改められるというような人は実際のところ少数派かもしれません。

認知症治療においては「投薬治療とケアは両輪」であり、どんなに投薬内容が工夫されていてもケアが不適切だったり、どんなにすばらしいケアがなされていても投薬内容が不適切だったりすれば、症状はなかなか改善することはありません。

ましてや投薬治療もケアも不適切な状態であれば、認知症の症状が落ち着くようなことはまずないと言ってもいいでしょう。

そして私どもが最も治療に難渋するのが、同居家族によってケアばかりでなく、投薬治療についても不適切な状態にされてしまうケースなのです。

投薬治療を不適切な状態にされるというのは、つまり薬を主治医が処方した通りではなく、家族が勝手に調節してしまうということです。

実際、そのような家族が少なからずいらっしゃるのです。

主治医に相談することなく、家族が勝手に患者さんに「薬を飲ませたり飲ませなかったり」「飲ませる量を少なくしてしまったり」してしまうので、主治医は正確な投薬効果を把握できません。

そればかりか、内服する薬や量がその日の症状に応じて変動してしまうので、当然ながら認知症の症状も波打ってしまうのです。

それで家族がもっと困ってしまい、次の診察では「症状が全く良くなりません!かえって悪くなりました!それで大変なんです!」などと訴えられたりするので、こちらも本当に対応に苦慮してしまうのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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