認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「お父さん!違うでしょ!」が症状を進行させる(14)

認知症治療における投薬と家族によるケアについて強調しておきたかったこと

ここまで数回にわたって、認知症の投薬治療について少し詳しくお話ししてきました。

そのため「『お父さん!違うでしょ!』といったような家族の対応が認知症患者さんの病状を進行させかねない」という今回のテーマからは少し離れてしまったようにも感じられます。

しかしそれは、認知症の投薬治療では実際にどのような点に苦心しているのか、そしてそれはどんな理由からなのかについて知っておくことが、適切な認知症ケアの理解を深めるうえで、とても役に立つと考えたからです。

それでは、今回どうしてもお伝えしておきたかったことを以下の6点に整理しておきます。

認知症治療においては「投薬治療とケアは両輪」であるけれでも、家族の不適切なケアによって治療が妨げられるケースが少なくなく、私どもが治療に最も難渋しているのが家族が勝手に薬を調整してしまうケースであるということ。

認知症患者さんは、もともとの気質や体質において「過敏性」というものをベースに持ち合わせていることが多く、自分の体調変化に対してはもちろん、周囲の方の言動も含めた生活環境の変化にも過敏な傾向があるので、認知症治療が上手くいくかどうかは本人に対する家族の言動も大きく影響するということ。

認知症患者さんが持ち合わせている「過敏性」の対象については薬も例外ではなく、これは「薬剤過敏性」と呼ばれているけれども、この「薬剤過敏性」こそが認知症治療の難易度を上げている主要な要因の一つであり、そのため少量の投薬でも副作用が出現しやすいことから、治療においては使用する薬の種類や量は最小限にし、薬以外のケアや生活環境の改善といったアプローチを最大限活用していきたいということ。

④投薬治療の進め方についても、「薬剤過敏性」によって予期せぬ薬の効果が出ていないかどうかを注意深く見極めながら、おかしな兆候があればすぐにそれを察知して、減薬・中止などの適切な対応ができるよう、微量で投薬調整を重ねていくしかなく、さらには一度に複数の症状に対して複数の薬をいじってしまうと、結果的に「何が良くて何が悪かったのか」が分からなくなってしまうので、1回の診療で1~2種類の薬しか調節できないことが多く、そのため困った症状を落ち着かせるまでにどうしても「時間がかかってしまう」ことも多くなっており、少なくても数か月は覚悟しておいた方が良いということ。

⑤それにも関わらず、家族が「薬剤過敏性」などには構わずに自己判断で認知症薬を調節してしまうことは、当然ながら認知症の症状を悪化させかねないばかりか、「悪性症候群」という命に関わる状況を引き起こすこともあるので絶対に避けなければならないということ。

⑥そもそも認知症を呈する疾患には多くの種類があり、疾患によって「薬剤過敏性」が伴いやすいかどうかなども含めて治療法が異なるため、安全で適切な投薬治療を進めていくには、まず何の疾患なのかをしっかり「診断」しなくてはならないということ。

 

家族と医療従事者が同じ土俵で協力し合えるかが分岐点

以上が、ここ数回にわたってお伝えしておきたかった内容の要点になりますが、これらのことを患者さんの家族がしっかり理解し、それを実際のケアに活かすことができれば、認知症の困った症状というのは、数か月以内に落ち着いてくることがほとんどです。

逆に言えば(もちろん投薬調整が上手くいかないために困った症状がなかなか落ち着かないということもありますが)、いつまでたっても患者さんの症状が落ち着いてこないような場合は、家族によって不適切なケアがなされていることが多いということです。

それだけ認知症治療においては「普段家族がどのように患者さんに接しているのか」ということがいかに大切なことであり、実は「投薬以外のアプローチによって得られる効果というのは非常に大きいものがある」ということなのです。

認知症治療において「投薬治療とケアは両輪」であるというのは、まさしくこのためだからです。

したがって、認知症を良くするには普段一緒に生活している「家族の協力が不可欠」であり、家族と医療従事者が同じ土俵に立って想いを共有し、同じ目標に向かって協力していけるかどうかが、治療がうまくいくかどうかの大きな分岐点になるとも言えるのです。

 

治療には時間がかかることを理解し、協力してくれる家族とそうでない家族

繰り返しになりますが、薬にはどうしても副作用があるので、認知症治療においては家族の協力を得ながら投薬以外のアプローチを最大限に活用し、そのうえで初めて困っている症状に対して最小限で投薬治療を行っていくというのが理想です。

ただ実際には、できるだけ早く困った症状を落ち着かせなければならないほど、家族にとっては生活状況が切迫しているというケースも少なくなく、そのような場合には何の疾患なのかをしっかり「診断」する前に、いわば「対症療法的」に投薬治療を開始せざるを得ないということも珍しくありません。

そのような場合においても、やはり認知症患者さんの多くが「薬剤過敏性」を有していることから、投薬効果について注意深く見極めながら微量で薬の調整をしていくしかないため、治療にはどうしてもある程度の時間がかかってしまいます。

そのため、たとえ生活状況が切迫していたとしても、症状が落ち着くまでにはどうしても時間が必要であることを家族には是非理解していただき、投薬治療と並行して適切なケアを続けていってもらうしかないのです。

そうすると治療を開始できたとしても、当面は同居している家族にかかる負担は大きいままだったりします。

私たちもそのような家族の気持ちに寄り添いながら、介護負担を減らすために積極的な社会的資源の活用を図ったり、介護・医療スタッフとの連携を深めたりなどといった後方支援を通じて、困った症状が落ち着くまでの大変な時期を共に乗り越えていこうと応援していくのですが、実はそのような過程で家族との間に信頼関係が生まれ、少しずつ同じ想いを共有しながら協力し合えるようになったりもします。

一方で、いつまでたっても家族の協力が得られないケースでは、当然ながら治療が思うように進むことはありません。

そして、その最たるものが「家族が勝手に薬をいじってしまう」ケースなのですが、実はそのような家族には似たような特徴や傾向があったりします。

それらについては、次回お話しすることにいたします。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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