前回は、認知症治療においては投薬以外のケアによる効果も非常に大きいため、治療がうまくいくかどうかは、家族と医療従事者が同じ土俵に立って協力し合えるどうかが大きな分岐点になるというお話をしました。
そのため認知症治療においては家族の協力が不可欠になるけれども、安全で適切な投薬治療にはどうしても時間がかかってしまうことを理解し、治療に協力してくれる家族がいる一方で、それができずに逆に治療の足を引っ張ってしまうような対応を続けてしまう家族もいること、そしてその最たるものが「勝手に薬をいじってしまう」家族であり、実はそのような家族には似たような特徴や傾向があるということをお話ししました。
今回はその続きになります。
新たに薬を始めたり投薬量を調節したら最低でも1~2週間は様子をみたい
「薬剤過敏性」を持ち合わせていることが多い認知症患者さんに対しては、細心の注意を払いながら投薬の微調整を重ねていくことで、少しずつ症状の改善を目指していくのですが、勝手に薬をいじってしまうような家族はそんなことなどにはお構いなしに、その場その場の患者さんの症状に合わせて薬を飲ませたり飲ませなかったり、飲ませる量を増やしたり減らしたりしてしまうのです。
そうすると当然患者さんの困った症状も大きく変動しやすくなってしまい、落ち着くものも落ち着きません。
ただでさえ認知症患者さんは色々なものに対して「過敏性」を持ち合わせていることが多いのです。
個人差はありますが、睡眠がしっかりとれているかどうか、便秘(3日出なかったらアウト)になっていないかどうかはもちろん、周囲の人の言動や生活環境の変化(天候や気圧、満月や新月、潮の満ち引き、太陽フレアなどにも)にも敏感に反応してしまうので、そもそも症状が波打ちやすいという傾向があります。
ましてや新たに開始した薬や投薬量の変化などに対しては非常に敏感なので、一度投薬調節を行ったら最低1~2週間はそのままで様子をみないと、上記したような様々な要因による日々の小さな変動を差し引いたうえで、全体的に症状が良くなったのか悪くなったのかを判断できません。
そのため、投薬によって明らかに症状が悪化したり、よほど「おかしくなった」ということでもない限り、薬の内容はできるだけそのままにしておきたいのです。
それを家族が日々の小さな変動に一喜一憂して、さらにはその場その場の困った症状に対して勝手に薬を増やしたり、今日はとても落ち着いているからといって薬を飲ませなかったりしては、投薬に対して全体的な症状がどうなったのかを適切に判断できなくなるばかりか、薬の体内濃度が毎日のように変動してしまうので、それによって動作や精神を司る神経活動も波を打ってバランスが崩れやすくなり、かえって全体的に症状が悪化しやすくなってしまうのです。
治療過程においては時々困った症状が「爆発」することを覚悟しておく
ちなみに治療によって認知症の症状が良くなっていく過程において、幻覚や妄想、多動、不穏、易怒性などの困った症状が時々「爆発」することがあります。
私どもは、そのような「爆発」が起こるのは、困った症状が落ち着いていく過程において、どうしても「ガス抜き」が必要になるからではないかと考えています。
それは、このような「ガス抜き」がないと、かえって患者さんにはストレスがどんどん溜まっていってしまい、それによって精神的な安定を保ちにくくなるからではないかと考えていますが、いずれにしても症状が沈静化していく過程においては、何かしらの「爆発」が出現するのは当然のことだと受け止めています。
そのため、治療過程においては時々「爆発」が起こりうるということを、患者さんの家族にはあらかじめ伝えておき、そのような時にはうろたえずにスルーしたり、深刻に受け止めてまともに相手にしたりすることがないようお願いしておきます。
治療が進んでいくにつれて「爆発」の大きさが小さくなっていくとともに、「爆発」が起こる間隔も長くなっていき、段々と困った症状が沈静化していくことが多いということも併せてお伝えしておきます。
そうすることで、たとえ患者さんが「爆発」しても、家族があたふたせず適切に対応できるようになります。
一緒に暮らしている家族に「何があってもドーンとして動じない」ような心構えができてくると、患者さんの症状は自然に好転していきます。
勝手に薬をいじってしまうのは家族の「待てない」気質が大きな要因
認知症の治療を進めていくうえでは、以上のようなことを家族に伝えて協力を求めていくのですが、薬を勝手にいじってしまうような家族の場合、自己判断による薬の調節をはじめとする不適切なケアを改めてもらうのはなかなか難しいという印象があります。
経験的にそのような家族は、どうしても目の前の事象に振り回されやすく、さらにはすぐに結果を求めたがる傾向があります。
そもそも大局的に物事を捉え、時には自分の気持ちを抑えながら経過を見守るということが苦手であり、要するに「待てない」気質であることが多いのです
そのため、じっくり腰を据えて相手の反応を見守るということができずに、その場その場の状況に応じて湧き上がってきた「こうしたい!」という気持ちを抑えられずに行動してしまいがちなのです。
さらに言えば、このような家族はもともと「こだわりやすさ」や「興味や注意の対象の移り変わりやすさ」があると同時に「相手の立場や気持ちになって考える」ことや色んなことを「我慢する」のが苦手なことが多いという印象もあります。
そのような気質をもともと持ち合わせているので、主治医に自己判断での薬の調節はやめるようにどんなに注意されても、薬をいじるのをやめられないのです。
そこで当院では主治医がそのことを理解したうえで、少しでも薬の勝手な調整による症状悪化のリスクを軽減させるために、「この薬についてはこの範囲で調節しても良い」とあらかじめ範囲を決めて家族に調節を任せるなどして対応しています。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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