前回は、認知症患者さんに新たに薬を始めたり投薬量を調節した場合には、様々な要因による日々の小さな変動を差し引いたうえで、全体的に症状が良くなったのか悪くなったのかを判断するために、最低でも1~2週間はそのままで様子をみたいということ、治療の過程においては時折必ず困った症状が「爆発」するものであり、段々とその大きさや頻度が減っていくことと併せて家族に伝えておけば、「爆発」にもあたふたせず適切に対応できるようになり、家族に何があっても動じない心構えができてくれば、患者さんの症状は自然に好転していくるということをお話ししました。
一方で、薬を勝手にいじってしまうような家族の場合は、どうしても目の前の事象に振り回されやすく、さらにはすぐに結果を求めたがる傾向があるため、自分の気持ちを抑えながら経過を見守ることが苦手な「待てない」気質であることが多いということもお話ししました。
今回はその続きになります。
治療に難渋する患者さん家族の傾向
勝手に薬をいじってしまったりして治療に難渋するような患者さんの家族には、ある一定のパターンや傾向というものがあります。
それらを大まかにまとめると「話が主観的でまとまりがない」タイプと「熱心で細かく要求が高い」タイプの2つに分けられるのではないかと思っています。
以下にそれぞれのタイプについて、その傾向や特徴を整理してみます。
①話が主観的でまとまりがないタイプ
このタイプの傾向や特徴を挙げていきますと、
・話にまとまりがない、話がよく飛ぶ
・主観的な訴えが多い
・症状を誇張する
・質問に対して的確に答えられない
・説明しても理解できたのかどうか分かりにくい
といったものになります。
まず、話の内容にまとまりがなく、よく話が飛ぶことが挙げられ、病歴や症状を時系列に把握するのに苦労したりします。
また、話の主語が抜けていたり、「自分はこう思う」といったような主観で話すことが多かったりもします。
そして話されていることの内容を突き詰めてみると「こんな認知症の症状があるから自分はこんなにも大変なんです!」という主観的な訴えであることが多く、さらには症状を誇張して話す傾向もあります。
そのため実際の患者さんの状態を把握するのに苦労することも少なくなく、そのような家族の場合には「話半分」で聞いて、ある程度「差し引いて」受け止めることも大切なのではないかと考えています。
そしてこちらから「訴えている困った症状はいつから出現したのか」、「投薬調整をしてから症状が出てきたのか、その前から出ていなかったのか」「投薬調整によって症状が強くなったのか、弱くなったのか」などについて1つずつ確認していくのです。
複数の症状について訴えられている場合には、症状別にそれらを確認していかなくてはなりません。
もしそのような家族の訴えを「鵜呑み」にして投薬に反映させてしまったら、本当は必要のなかった薬や薬の量を投与することにつながり、症状を抑えすぎてしまって無為無欲状態で何もしなくなってしまったり、足が出にくくなって歩けなくなってしまったり、その他予期せぬ副作用を出してしまいかねないからです。
また、そのような家族に症状について質問しても、答えが少しズレていたり、こちらがいくら説明しても期待したような反応が返ってこなかったりするので、会話のキャッチボールがしっくりいかずに「暖簾に腕押し」になってしまうこともあります。
②熱心で細かく要求度が高いタイプ
一方で「治療に熱心すぎる」家族も要注意だったりします。
このタイプの傾向や特徴を挙げていきますと、
・病状や経過について詳細な情報をびっしり書いてくる
・病気や薬のことについて非常に詳しい
・要求度が高い
・頻繁に電話をしてくる
・転医を繰り返している
・通院に数時間以上もかかるような遠方の病院でも連れていく
といったものになります。
このような家族は、まず初診時に病歴などについて詳細なメモを持参されることが多いです。
患者さんを良くしたいという思いが強く、治療に熱心なため、病気や薬のことについてよく勉強しており非常に詳しかったりしますが、その分主治医に対する要求度が高く、何かあるとすぐ病院に電話してきたりします。
それで期待するような治療を受けられないと、パッタリ通院してこなくなり、何度も転医を繰り返していたりもします。
また患者さんを「どうしても良くしたい」という思いが強いため、通院に数時間以上もかかるような病院であっても本人を連れてきたりするので、そういう意味ではとてもエネルギッシュです。
それだけ愛情深い家族であるとも言えるのですが、なかなか「自分にとって大切な人が認知症であることをなかなか受け入れられない」といった面もあるかもしれません。
キーパーソンが夫婦の一方であるということもありますが、2人暮らしで独身の娘や息子が世話をしているというのが典型例になっています。
そのような場合には、患者さんとキーパーソンが「共依存関係」になっていることも多く、ちょっとした症状に対してもキーパーソンの人が敏感に反応してしまったりします。
すると患者さんもキーパーソンの人の反応にさらに反応してしまい、お互いに「共鳴」し合って結果的に症状を増強させてしまうことになり、なかなか症状が治まらなかったりするのです。
上記に挙げたような①と②の両方の傾向や特徴を併せ持つタイプももちろんあります。
いずれにしてもこのような家族の場合には、主治医が処方した薬を自己判断で勝手にいじってしまう傾向があるので、それを踏まえながら対応していくようにしています。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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