前回は、治療に難渋する家族に共通する傾向として、診察では悪いことばかり強調して良いことは話さなかったり、また医療従事者が熱心に応対してもなかなか話が通じなかったり急に来院しなくなることもあるということをお話ししました。
そのためあらかじめそのことを心に留めておかないと、薬を出し過ぎてしまって患者さんの症状をさらに悪化させてしまったり、医療従事者がいわば振り回されて疲弊しかねないというお話もしました。
今回はその続きになります。
認知症の治療には家族の健康が不可欠
認知症患者さんの治療には家族の協力が欠かせません。
以前にもお話しした通り、認知症治療においては「薬とケアは両輪」になります。
患者さんの気持ちを波立たせると、認知症の症状も同じように波立って落ち着かなくなるため、認知症治療にとっては、一緒に生活している家族の言動がネックになるということはもちろん、投薬治療を進めていくにしても、薬の内服管理をしたり、その結果症状がどのように変化したかについて、経過を観察して主治医に報告するなど、家族が担う役割というのはどうしても大きくなってしまいます。
そのため、治療を進めていくうえでは家族の協力が不可欠であり、家族にも健康でいてもらわないといけません。
「家族が健康でいること」が認知症治療の「土台」になるということです。
しかし、認知症患者さんの介護をしていくというのは本当に大変なことです。
さらに認知症の治療にはどうしても時間がかかってしまうことが多いため、家族としては長期戦を覚悟せざるを得ません。
そのため、治療を進めている中で、介護のストレスによって心身のバランスを崩してしまう家族の方も少からずいらっしゃいます。
不安で不眠がちになったり、いつもイライラして怒りっぽくなってしまうという方が多いですが、積み重なる精神的なストレスが何かしらの身体症状を引き起こしてしまうこともあり、そうなると患者さんの介護やケアにも影響しかねません。
家族が心身ともに健康でなかったら、適切な介護やケアなどは望みようもないですし、患者さんの治療がスムースに進まなくなってしまうということです。
したがってそのような場合には、患者さんと一緒に家族にも治療を受けるようお勧めしています。
そのため診察時には患者さん本人は当然ですが、必ず家族の様子もしっかり診ていくようにしています。
もちろん今までお話ししてきた治療に難渋するような家族であっても、そのことに変わりはありません。
ただ治療に難渋するような家族に対しては、場合によっては患者さんと同じような応対を心掛けなければいけません。
間違っても家族のやり方を一方的に否定したり、ダメ出しするようなことはしてはいけないということです。
そして家族に寄り添いつつ、励ましながら、時間をかけてお互いの信頼関係を構築していくことで、少しでも家族が患者さんに対して望ましいケアが行えるようにバックアップしていくのです。
このように、それぞれの家族が可能な範囲で治療に協力できるようバックアップしていくことが、医療従事者にとっては非常に大事なことだと考えています。
適切なケアが難しい家族には通所サービスの利用を積極的にお勧めします
それでもどうしても適切なケアを行うのが難しい家族がいらっしゃいます。
そのような場合には、あまりこちらから求めすぎないようにすることが大切だと考えています。
その代わり介護保険サービスの利用を積極的に促すのです。
介護保険サービスに従事しているスタッフは介護のプロなので、安心して本人の世話を任せられますし、認知症の方の対応に不慣れな家族が世話をするよりも、良い影響をたくさん本人に与えてくれます。
さらに言えば、長年一緒に過ごしてきた家族では、どうしても本人に対して愛情を含めた色々な感情を持っているため、一歩引いた適切なケアをするのが難しいということもあります。
それを第三者の他人であり、しかも介護のプロでもある人たちに任せれば、日常生活の中で適切なケアを受ける時間を確実に増やせると同時に、家族から受けているだろう不適切なケアも減らすことができます。
利用することでこのようなメリットが考えられる介護保険サービスですが、その中でも当院で一番利用をお勧めしているのが、デイサービスやデイケアといった通所サービスになります。
通所サービスを導入できるかどうかが、その後の認知症の進行や病態を大きく左右すると言っても過言ではないほどです。
それだけ通所サービスの導入は、認知症治療においては非常に効果的であり、「治療の中核の1つである」とも言えるのですが、とりわけ治療に難渋するような家族の場合には有効で不可欠なアプローチになっています。
しかしながら治療に難渋する家族の場合は、通所サービスを導入すること自体がなかなか難しかったりするのです。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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