▼「お父さん!違うでしょ!」が症状を進行させる(19)
前回は、認知症の治療を進めていくうえでは、家族の協力が不可欠であり、家族が健康でいることが認知症治療の「土台」になるとも言えるため、もし介護ストレスなどで家族が心身のバランスを崩しているようなら、患者さんと一緒に治療介入することもありますが、いずれにしても医療従事者は家族に寄り添ったり励ましたりしながら、時間をかけてお互いの信頼関係を構築していくことで、少しでも家族が患者さんに対して適切なケアが行えるようにバックアップしていくというお話をしました。
ただ、どうしても適切なケアを行うのが難しい家族の場合には、介護保険サービスの利用を積極的に促していきますが、中でも当院で一番利用をお勧めしているのがデイサービスやデイケアといった通所サービスであり、特に治療に難渋するような家族の場合には非常に有効で「治療の中核の1つ」にもなっているというお話もしました。
今回はその続きになります。
通所サービスを導入できるかどうかが、その後の病状経過や人生において大きな分岐点になる
前回の最後に、治療に難渋するような家族の場合は、通所サービスを導入すること自体に苦労することが多いというお話をしましたが、そもそも患者さんに通所サービスをお勧めした時に、初めから喜んで行ってくれるような方はほとんどいません。
大抵の患者さんが「あんな所には絶対行かない!」「行きたくない!」などと拒否されます。
それを家族が「本人が嫌がるので・・・」とすぐに断念してしまったら、状況は何も変わりません。
もちろん初めは本人の拒否や認知症の精神症状が強くて、とても通所サービスに通わせるなんて難しいといったような方もいらっしゃいますが、投薬治療を進めていくうちに、症状が徐々に落ち着いてきて何とか通えるようになるというケースもあるので、治療の経過を見ながら早期の通所サービスの導入を目指していくこともあります。
ただ家族には「本人の意思に関わらず、無理やりにでも通所サービスに通わせた方が良い」とお話ししています。
認知症治療においては、投薬による治療効果も大きいですが、それと変わらないくらい通所サービスの導入によって得られる効果も大きいからです。
特に日中ずっと一人で家にいたり、家にいると夫婦や家族間で不適切なやりとりを繰り返してしまっているようなケースでは、通所サービスの導入によって得られる効果はさらに大きいものになります。
それは「通所サービスを導入できるかどうかが、その後の病状の経過を大きく左右する」ものであり、「本人はもちろん家族みんなの人生においても大きな1つの分岐点になる」と言っても過言ではないほどです。
それだけ通所サービスには認知症の進行を防いだり、症状を改善させる効果があるのです。
実際に今回の新型コロナウィルス騒ぎで1~2か月もの間、通所サービスを利用できなくなってしまったら、ボーっとして活気や発語がなくなってしまったり、幻覚や妄想がひどくなってしまったという患者さんが何人もいらっしゃいました。
それが通所サービスが再開されたら、多くの方が元の状態にまで回復されたのです。
それで私どもも今回、改めて通所サービスの威力を思い知らされたという次第です。
拒否が強い場合には通所サービスのスタッフにすべてお任せしても良い
本人が望まないことを無理強いしたり、長年連れ添ってきた夫婦を離してしまうのは「かわいそうだ」と思う家族も当然いらっしゃいます。
しかし長い目で見れば、今のまま何もせずに認知症がどんどん進行していってしまう方が、本人にとっても家族にとっても不本意なことではないでしょうか。
確かに通所サービスを導入する当初は苦労が多いかもしれません。
しかし「本人が嫌がっていても通所サービスを導入する」ということさえ家族が決断してくれれば、あとはよほどのことがない限り、通所サービスのスタッフたちが何とかしてくれます。
また、あれだけ本人が嫌がっていたのにも関わらず、一旦通所サービスに行ってしまったら、スタッフから丁重な応対を受けたり、色々な人たちとの交流やアクティビティーを楽しんだりしてきて、いつの間にか普通に通ってくれるようになっていたりします。
通所サービスに行く当日の朝になって、本人が「やっぱり行かない!」と言い出すこともあります。
それで家族が困っているところに、いざスタッフが迎えに来たら、態度がコロっと変わって何も言わずに行ってくれたという話もよく聞かれます。
スタッフも通所サービスへ行きたがらない利用者さんを何人も経験しており、そういった方への対応には慣れているので、家族の方はすべてお任せしてしまってもいいと思います。
楽しんで通所サービスに通っている患者さんは、認知症があまり進行していかない
ちなみに通所サービスに通うのを「楽しい」と思ってくれる患者さんは、認知症があまり進んでいかない印象があります。
何でも本人が「楽しい」と思うことを続けていくということが、生きる活力さらには心身活動を保つことにつながるからだと思います。
また、長年一人で楽しめるような趣味を持っており、高齢になってもそれを続けている方も確かにいらっしゃいますが、そういう方は本当に限られています。
若い頃は何かに打ち込んでいたことがあったとしても、高齢になってやめてしまったり、仕事以外に趣味らしい趣味などなかったというような方が大半だからです。
ましてや認知症が発症したり、進行していったりすると、一人で何かを楽しむということ自体がなかなか難しくなっていきます。
さらに言えば、そもそも「楽しさ」というのは、家で一人でいるよりも色々な人たちと交わる中での方がずっと多く感じられるものではないでしょうか。
そうすると特に認知症患者さんにとっては、日々「楽しさ」を感じるためにも色々な人たちと交わっていくことが大切だと思われるのです。
その点、通所サービスを利用するようになれば、日常的にスタッフはもちろん他の利用者さんたちとも交流する機会ができますし、さらに担当のスタッフが色々なアクティビティ―や体操などを提案しながら、何とか本人が楽しんで時間を過ごせるようプログラムを工夫してくれたりします。
もともと着付けや書道、お花の先生だったような方に、それらを指導してもらえるような機会を作ったら、皆さん昔のようなキリっとした顔に戻ってイキイキされていたという話も聞いたことがありますので、あらかじめ家族から、本人が得意なことや好きなことをスタッフに伝えておくのも良いかもしれません。
このように、日常生活の中でたくさんの人と交流するという社会性を保ちながら、それぞれの人が「楽しさ」を感じながら時間を過ごすことを目指している通所サービスというは、認知症治療にとっては本当に欠かせない存在になっています。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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