認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

高齢者ほど「和式生活のススメ」(4)

前回は、和式生活からベッドや椅子を使う洋式の生活様式に切り替わると、生活の中で床から立ち座りする機会が減ってしまい、全身の運動機能が低下しかねないというお話をしました。

実は床からの立ち座り動作というのは全身の筋力やバランス機能を多く使うため、特に高齢者にとっては難易度の高い動作であると言え、この動作を日常的に行うことがリハビリにもつながるので、和式生活を続けるだけでも体力の維持・向上を図りやすくなるということもお話ししました。

今回はその続きになります。

 

しゃがんだ姿勢を楽にとれない人が増えている

「使わない機能は衰える」ことの分かりやすい例が「和式トイレ」の話だと思われます。

今やトイレは洋式トイレが主流となり、日常生活の中で和式トイレを使うことはほとんどなくなってしまいました。

そのため和式トイレを使えない人が増えてきたという話も聞かれます。

「使えない」というのは、若い人の中には「和式トイレを一度も使ったことがない」というような人もいて「使い方が分からないから」という理由もあるのですが、実はそもそも「しゃがんだ姿勢を楽にとれないから」という理由もあるようなのです。

和式トイレを使うには、便器をまたいでしゃがまなければいけません。

それが「楽にしゃがめない」という人が増えてきているというのです。

しゃがんだ姿勢になるには股関節と膝関節、足関節を深く曲げなければいけません。

それが特に足関節が硬かったりして、しゃがんでも踵が浮いてしまったり、踵を着けたまましゃがむとそのまま後ろに倒れてしまったりするのです。

これはふくらはぎの筋肉が硬くて伸びが悪かったり、足関節そのものの可動域が狭いために、しゃがんだ時に踵が浮いてしまったり、踵を床に着けたまましゃがむと足関節を深く曲げられないために重心を前方へ移動できず、そのまま後ろに倒れてしまうことになるからです。

数十年前には、あまり行儀の良くない人たちがコンビニの前などでしゃがんでたむろしているのをよく見かけたりもしましたが、今ではそんな光景を目にすることはほとんどなくなりました。

もちろん昔は「よし」とされていたことが今ではなかなか許容されなかったり、あまり格好が良くないと思う人が増えてきたからということもあるでしょう。

しかし、どうやら楽にしゃがめない人が増えてきたということも関係しているようなのです。

そして、この楽にしゃがめない人が増えてきた大きな原因の1つに、今では日常的に和式トイレを使うことがほとんどなくなってしまったことがあると考えられるのです。

つまり、洋式トイレが主流になったことで、毎日和式トイレを使うたびにしゃがむという習慣がなくなり、しゃがむために必要な股関節と膝関節、足関節の可動域、さらにはバランス機能や筋力までもが低下してしまったという人が増えてきたということです。

 

ベッドの弊害

和式生活をしている高齢者の人がベッドを導入しようとする際にも、是非気を付けてほしいことがあります。

それはまず前回お話ししたように、生活の中で床から立ち座りする機会が減ってしまうことで、全身の運動機能が低下してしまう恐れがあるということです。

それに加えて、目の前にベッドがあると日中でもついつい「横になりたくなってしまう」ということがあると思います。

そうすると、昼寝をしたり横になっている時間が増えたりして、どうしても日中の活動量が減って体力が落ちやすくなってしまうのです。

高齢者の人が入院したり、施設入所したりすると、目の前にいつも「寝てなさい」といわんばかりにドーンとベッドがあるので、体調の良し悪しに関わらず、横になったり寝て過ごす時間が増えてしまい、いつの間にか心身ともに衰えてしまったという話もよく聞かれます。

やはり昼間はしっかり起きて活動し、夜はしっかり寝るということが、心身ともに人間の健康にとってはとても大切なことなのでしょう。

ちなみに昼寝は長くても30分以内にしないと体内時計が乱れやすくなると言われています。

日中1時間以上もぐっすり眠ったりしていると体内時計が乱れてしまい、夜になっても眠気を促すメラトニンなどのホルモンがうまく分泌されなくなったり、身体も疲労感がなくて眠りにくくなるばかりか、眠ったとしても眠りが浅くなって、夜中に何度も目が覚めたりしてしまうなど、睡眠の質・量ともに落ちやすくなってしまうのです。

そのような睡眠状態が毎日のように続いていると、以前もお話ししたように、認知症疾患を発症しやすくなってしまいますし、認知症患者さんでは症状が増強してしまったり、様々な症状を出現させやすくなってしまうのです。(以前の記事カテゴリー:認知症と「睡眠」参照)

それで夜眠れないからと睡眠薬に頼るようになったりしたら、元も子もありません。

これも以前お話ししましたが、高齢者にとって睡眠薬を使うことのリスクは決して少なくないからです。(以前の記事:「睡眠薬」を長年使用していると「認知症」になりやすくなる!?参照)

したがって、和式生活で布団を使用していた高齢者の人がベッドを導入しようとする際には、それによって日中の活動量が減って体力が落ちたり、昼寝が増えて生活リズムも崩れやすくなるといったリスクがあるということも、是非心に留めておいてほしいのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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