認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

高齢者ほど「和式生活のススメ」(8)

前回は、そもそも体力が落ちている高齢者では、身体に負荷がかかるような運動を長い時間行うのはなかなか難しいため、高齢者にリハビリを実施する際のキーワードは「低負荷・少量・頻回」になるけれども、そのような「低負荷・少量・頻回」のリハビリとして活用しやすいのが、毎日生活の中で繰り返し行っている「生活動作」であるというお話をしました。

そして「生活動作」を活用したリハビリは、生活の流れの中で自然に促すことができるので本人の負担感が少なく、リハビリをしたくない人や話の理解が難しい認知症の人にとっても実施しやすいといったメリットがあること、さらには、週1~2回専門的なリハビリを受けるよりも「低負荷・少量・頻回」に実施できる「生活動作」を活用して運動していく方が、得られる効果がずっと大きかったりするというお話もしました。

今回は、どのようにして「生活動作」をリハビリに活用していけば良いかについてお話ししていこうと思います。

 

「生活動作」を活用したリハビリ例

では次に、「生活動作」活用したリハビリの具体例について、それらによって「期待できる主な効果」とともに6つご紹介いたします。

 

【具体例その1】

「ベッド上で終日過ごしている人の場合、少しでも起きられるようになってきたら、食事の時は車椅子に移乗し、座った姿勢で食べるようにしてみる」

※期待できる主な効果

・離床時間の確保を通じて、座位保持に必要な全身の抗重力筋群の活動を促すとともに、心肺機能に負荷を与えられるので、抗重力筋群の筋力と循環・呼吸器機能の向上、座位耐久性の向上を図ることができる。

・頭部が挙上されることで嚥下しやすくなるとともに、食事がおいしく感じられるようになる。

・座位になることで上肢が使いやすくなり、食事動作がしやすくなる。

・臥位よりも座位の方が脳への血流量が増えるので、身体を起こす時間を確保することで意識がはっきりするとともに、目線が上がることで刺激量が増えたり、自発的な活動も増えてくるので、精神面も含めて全身の機能を賦活できる。

 

【具体例その2】

「排泄にオムツを使用している人の場合、少しでも尿意や便意があって座位が可能になってきたら、まずはベッドサイドにポータブルトイレを設置したり、車椅子でトイレに連れて行って排泄を促してみる」

※期待できる主な効果

・トイレを使用するたびに移乗動作と立位保持の機会ができるので、座位よりもさらに下肢~体幹の抗重力筋群や心肺機能の活動を促すことができる。それによって、さらなる抗重力筋群の筋力と循環・呼吸器機能の向上、立位耐久性の向上を図ることができる。

・オムツを使用することの心理的負担感を軽減させることができるとともに、本人の心身活動全般に対する意欲の向上を図ることができる。

→「廃用症候群」の改善や予防のためには、生活の中でいかに立位になる機会を確保し、定期的に下肢への荷重を通じて、全身の抗重力筋群を活動させることができるかということが非常に大事になります。そのため「生活動作」の中でも、この「トイレに行っているどうか」が「廃用症候群」の改善や予防においては、まさに「キーポイント」になります。介助でもトイレを使えるようになれば、1日の中で移乗動作や立位保持をする機会が飛躍的に増えることになり、さらにトイレまで歩いて行くようになれば、トイレの回数分だけ歩行機会も多く確保できるようになるからです。

 

【具体例その3】

「普段車椅子を利用している人の場合、食堂では必ず椅子に座り替えるようにする」

※期待できる主な効果

・朝昼晩3回食事をしていれば、食事前後で往復6回移乗機会を増やすことができるので、その分だけ全身の抗重力筋群の活動量を増やすことができる。

・車椅子の座面は畳めるようにシート状の素材を使っているので、人が座るとどうしても中央部がたわんで沈み込んでしまい、体幹筋群や骨盤周囲筋群の筋力が低下しているような人では姿勢が左右に傾きやすくなる。椅子であれば座っても座面がたわむことなく平らのままなので、それだけでも姿勢をまっすぐに保持しやすくなり、食事動作や嚥下もしやすくなる。

→原則的に、通常の車椅子はあくまで「移動する」ためのものであり、「ずっと座っているものとしては適していない」のです。

 

【具体例その4】

「普段は車椅子を利用しているけれども、介助で少しでも歩けるようになったら、トイレやベッドといった目的地までの数メートル手前からは歩くようにしてみる」

※期待できる主な効果

・歩行では、立位保持や移乗動作に比べてさらに下肢~体幹の抗重力筋群や心肺機能の活動が促されるため、全身の筋力と循環・呼吸器機能をより一層向上させることができる。

・歩行時には、片足ずつしっかり重心移動をしないと一方の足を前に振り出すことができないので、バランス機能の向上を図ることもできる。

・日常生活で移動する機会は非常に多く、介助でも歩行できるようになれば、その都度自然な形で歩行機会を確保できるようになるため、飛躍的に運動量を増やすことができる。

 

【具体例その5】

「目的の階までの1階分はエレベーターを使わず、行きと帰りに階段昇降してみる」

※期待できる主な効果

・階段昇降では、ただ歩行するだけに比べると身体にかかる負荷量が格段に増えるので、下肢筋力や心肺機能を短時間に効率良く鍛えることができる。

・階段昇降時には、片足ずつしっかり重心移動して段を昇降しなければならないので、バランス機能の向上を図ることもできる。

 

【具体例その6】

「生活の中に和式の生活様式を取り入れ、日常的に床から立ち座りをする機会を作ってみる」

※期待できる主な効果

・床からの立ち座り動作は上下肢・体幹の全身の筋力とバランス機能を要求される比較的難易度の高い動作なので、効率良く全身の運動機能の向上を図ることができる。

→高齢者やパーキンソン症状のある人では、特に股関節周囲筋群や下部体幹筋群とバランス機能が衰えやすい傾向があるけれども、床からの立ち上がり動作は、それらの筋群やバランス機能を鍛えるのに非常に適している。

 

どのような「生活動作」を選択するのかはもちろん、実施する頻度や介助量、方法などは、その人の生活習慣や生活環境、体力や動作能力に応じて設定すれば良いと思います。

そして本人の心身状態が向上してきたら、それに合わせて徐々に運動の負荷量が増えるよう調節していけば良いのです。

もちろん「本人の負担感が少なく、生活の中で無理なく実施できる範囲で」ということが大切です。

「生活動作」を活用したリハビリは、安全に繰り返し行うことで徐々に効果が得られるものだからです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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