前回は、高齢者や認知症の人にとって有効な「生活動作」活用したリハビリの具体例を、それらによって「期待できる主な効果」とともに6つご紹介しました。
今回はその続きになります。
「床上動作」は認知症高齢者で衰えやすい筋群を鍛えてくれる
和式生活では、日常的に床からの立ち座り動作に代表されるような「床上動作」が必要になります。
前回も「生活動作」を活用したリハビリ例の【具体例その6】の中で少し触れましたが、「床上動作」というのは、上下肢・体幹の筋力とバランス機能を要求されるので、高齢者にとっては比較的難易度の高い動作になっています。
この「床上動作」でよく使われる筋肉としては、「股関節周囲筋群」や「下部体幹筋群」が挙げられますが、これらの筋肉は加齢によって衰えやすく、特にパーキンソン症状を呈する疾患の人では衰えやすい傾向があります。
実は、認知症を呈する変性疾患の多くが、姿勢反射障害をベースにしたすり足や小刻み歩行、すくみ足、ふらつき、動作緩慢といったパーキンソン症状を出現させます。
そのため、認知症のある高齢者ではこれらの筋群が特に衰えやすいのです。
したがって、認知症高齢者の運動機能を維持・回復させるには、これらの衰えやすい筋肉を頻繁に働かせることが効果的であり、そのためには日常的に「床上動作」を行ってもらうのが良いのです。
「床上動作」を利用した運動療法
実際、廃用症候群やパーキンソン症状のある高齢者に対して、専門のリハビリスタッフが運動療法を行う場合にも、訓練マットの上でよく「床上動作」を行います。
まず、仰向けから寝返りしてうつ伏せになり、そこから四つ這い、両膝立ち、片膝立ちを介して立ち上がってもらい、今度は逆に立位から仰向けになる動作をゆっくり行ってもらったりします。
もちろん仰向けから立位になるにつれて、段々と難易度が上がっていきますので、初めは本人がとれる姿勢まで仰向けから繰り返し練習していくのですが、随時必要な介助を入れながら、段階的に途中の姿勢を保持したり、その姿勢でバランス練習を追加したりもしています。
例えば、四つ這いで片手や片足を1つずつ床に平行に挙げて保持したり、それが可能になってきたら対角線上さらには同側の手足を挙げて保持するバランス練習などをします。
また、四つ這いから横座りになって、また四つ這いに戻る運動を交互に繰り返してもらったり、四つ這いでハイハイ歩きをしてもらうこともあります。
個人的には、この四つ這いでの運動は、上下肢・体幹を鍛えるのに非常に効果的だと考えています。
四つ這いが安定してきたら、今度は両膝立ちになってもらいますが、姿勢反射障害や下肢・体幹の筋力低下が強い人ほど、両膝立ちを保持できずに殿部が後ろに引けて体幹が前方へ倒れやすい傾向があるので、そうならないよう注意します。
次に両膝立ちが安定してきたら、バランス練習のためにバンザイをしてもらったり、その場で左右の膝を交互に浮かせて足踏みしてもらったりもします。
それができるようになってきたら、今度は両膝立ちの姿勢から交互に片膝立ちになって両膝立ちに戻る動作を繰り返し行ってもらい、それが安定してきたら、次はいよいよ片膝立ちから立ち上がってもらいます。
このように、その人の動作能力の向上に合わせて、徐々に姿勢や動作の難易度を上げていくのです。
「まっすぐ伸ばして荷重する」
この「床上動作」を利用した運動療法を実施する際、特に気を付けてほしいのが「姿勢」です。
もし体幹や腰が曲がったままの姿勢で何度も練習してしまうと、不効率で不安定なその姿勢を身体が覚えてしまうのです。
そして、一旦そのような不適切な姿勢の神経筋活動パターンを覚えてしまうと、後でそれを修正するのに大変苦労することになります。
そのため、初めは大変でも、できるだけ身体をまっすぐにした適切な姿勢になることを心掛けて、運動療法に取り組んでいくことが大事になります。
少し専門的になりますが、抗重力筋群の神経筋活動を賦活する運動療法を実施する際のキーワードは「まっすぐ伸ばして荷重する」ことだと考えています。
例えば、膝立ちの練習では、体幹と股関節をしっかり伸展させ、できるだけ姿勢がまっすぐになるようにすることが大事なのですが、廃用症候群やパーキンソン症状の強い高齢者ではそれが難しいことが多いため、そんな場合には、身体ができるだけまっすぐになるよう介助したり、椅子などを置いて身体を支えられる環境を設定していくことになります。
膝立ちが不安定な人を介助する場合、リハスタッフが後方に立って殿部を両膝で前方に押して支えながら、両手で肩を引いて股関節と体幹がまっすぐになるようにしたり、その姿勢を保持したまま両膝立ちから交互に片膝立ちになる練習を行ったりもします。
介助する人がいない場合は、前方に椅子などを置き、座面に両手をついて股関節と体幹をできるだけまっすぐ伸ばして保持するよう心掛けてもらうと良いでしょう。
立位での練習も同様です。
体幹・股関節・膝関節をできるだけ伸ばした姿勢を保持しながら、自分の体重を支えてもらうのです。
そうすることで適切な姿勢保持や動作に必要な神経筋活動を引き出していきます。
もちろんそのために必要な介助や誘導は随時行いながらです。
そして身体がしっかり伸びた状態を保持しながら、立位保持や立位バランス練習、足の振り出し、歩行までつなげていくのです。
これが「床上動作」から「歩行」までリハビリを効率良く進めていくコツだと考えています。
なぜなら、重力のある地球上で暮らす人間にとって、効率良くスムースに身体を動かしていくには、まっすぐ身体を伸ばした姿勢をとることが欠かせないからです。
立位でずっと腰を曲げていたり、股関節や膝関節を曲げていたら、身体に負担がかかってすぐに疲れてしまいますし、何よりもそんな姿勢では動きにくくなってしまいます。
したがって、適切な姿勢を保持するために必要な神経筋活動を引き出すには「まっすぐ伸ばして荷重する」ことが非常に大事になるのです。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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