認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「目」に表れる認知症の徴候(1)

認知症があるかどうかは「目」からも気付ける

前回までの「まなざしによるケア」では、「まなざしには人を癒す大きな力が秘められている」というお話をしました。

また「目は口ほどに物をいう」というように、人は「目」という「心の窓」を通して「心の動き」を表出し、相手に多くのメッセージを発しているということもお話ししました。

今回お話ししたいのは、「目」には「心の動き」だけでなく、認知症を伴う変性疾患が疑われるような徴候もいくつか表れるということです。

そのため認知症外来の初診では「目の表情や動き」を必ず確認しています。

身近にいる人が、本人の「目の表情や動き」に違和感を覚えて受診に至るということもありますが、「目に表れる徴候」には全く気付いていないということが圧倒的に多いので、今回は「目」に表れる認知症の徴候についてご紹介していこうと思います。

 

「意識の変容」が疑われる「目の表情」

・目に力がなく、うつろな目になっている

・一点を見つめて固まっている

・ボーっとしてどこを見ているのか分からない

・テレビを観ていても、観ているのか観ていないのか分からない

「目の表情」には覚醒度が反映しますが、上記のような場合には明らかに覚醒度が下がっています。

診察中にも、たった今まで会話をしていたのに、急にスイッチが切れたように固まってしまい、呼びかけても反応しなくなったり、カクッと落ちて居眠りしてしまうような患者さんが多くいらっしゃいます。

それで「もしもし」と呼びかけたり、身体を叩いたりするとハッと我に返ったりするのです。

これまでにも何回かお話ししてきましたが、認知症の人に高頻度に合併する症状として「意識の変容」があります。

実は、上記したようなこれらの症状は「意識の変容」があるために起こっていると考えられます。

「意識の変容」とは、覚醒度が波打ってしまう症状のことであり、この症状があると起きていても意識が「はっきりしている時とボーっとしている時」が入れ替わってしまうのです。

入れ替わるスパンは人それぞれであり、秒単位、分単位、時間単位、日単位、長いと週単位で覚醒度が変動することもあります。

また、覚醒度が落ちる程度もさまざまで、ひどいと一過性の意識消失発作を起こしてしまうこともあります。

「意識の変容」があって覚醒度が落ちると、一見普通そうに見えていても、実は意識がもうろうとしており、そのために認知機能や判断力、思考力、記銘力といった精神機能も全般的に低下してしまい、当然「普段できているようなこと」もできなくなったりします。

それで「しっかりしている時とそうでない時がある」と周りの人に気付かれたり、意識が落ちている間の記憶も当然あいまいになってしまうために「もの忘れがある」と表現されたりします。

この「意識の変容」が合併しやすい病気としては、レビー小体型認知症が有名ですが、実はその他の認知症疾患でも高頻度に合併します。

しかし、高齢者では覚醒度が波打っていても、周りの人からは「ただ眠いだけだろう」だとか、「疲れているんだろう」「お年寄りだから」などと思われがちで、それほど気にされずに見過ごされてしまうことが多いようです。

しかし「認知症疾患には『意識の変容』が合併しやすく、日中も覚醒度が変動しやすい」ということを知っていれば、そのような目で上記したような症状を捉えられるようになり、大事な人の「異変」にいち早く気付くことも可能になると思います。

 

不機嫌な「目の表情」の時にも覚醒度が落ちていることがある

・目つきが険しく、眉間にしわが寄っていて不機嫌になっている

・目つきが豹変して、スイッチが入ったように激昂する(しばらくしたら何事もなかったようにケロッとしている)

このような場合にも覚醒度が落ちている可能性があります。

「意識の変容」で覚醒度が下がると、急にイライラして不機嫌になったり、怒りやすくなることがあるのです。

これは、普通の人でも眠くなると不機嫌になりやすくなるというのと同じなのかもしれません。

皆さんも、ボーっとして頭がうまく回らないような時に、周りの人からアレコレ言われたら、うっとおしくなって、普段なら我慢できることでも「うるさい!」となってしまうのではないでしょうか。

そのため、一見起きているようでも覚醒度が落ちている時には、難しい顔をして、何となく重たい雰囲気になっていることがあるのです。

そのような時には、いわゆるスイッチが入って怒りやすくなったり、妄想や幻覚の世界に入って落ち着かなくなったりもします。

そんな時の「目の表情」は、普通の時のものとは明らかに違いますので、周りにいる人が見ればすぐに分かると思います。

ちなみに「意識の変容」は「てんかん」が原因で起こる場合があります。

もし本人の覚醒度が落ちていると思われる時に、口をもぐもぐさせたり、ウロウロ歩くといった一見無意味な行動をしていたり、顔や手・足が勝手に動いていたり、ピクついたりしていたら「てんかん」が起きている可能性が非常に高くなります。

そのような症状が認められたら、すぐに専門医を受診することをお勧めします。

もし「てんかん」であれば、薬で治療できることが多く、「てんかん」による「意識の変容」が原因で二次的に認知症様の症状(もの忘れなど)が出ているのであれば、「てんかん」の治療によってそれらの症状も改善できる可能性が高いからです。

ちなみに認知症疾患によって、もの忘れが出たり、何かができなくなったような場合には「しっかりしている時とそうでない時が明らかに入れ替わる」というようなことはほとんどありません。

そのような場合にも「てんかん」が原因になっている可能性が高くなりますので、注意深く様子を観察してみて下さい。

もし治療がうまくいって「意識の変容」の症状が改善されると、あたかも憑き物がとれたように「目の表情」がスッキリして、全体的に雰囲気が軽くなったりします。

てんかん」や「意識の変容」については、これまでも繰り返しお話ししてきましたので、ご興味のある方は是非そちらもご参照ください。(→過去記事のカテゴリー「認知症と『てんかん』」「認知症と『意識の変容』」

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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