前回は、認知症疾患で高頻度に合併する「意識の変容」が疑われる「目の表情」についてお話ししました。
今回はその続きになります。
「目」に表れるパーキンソン症状
当院を受診されるほとんどの認知症患者さんがパーキンソン症状を合併されています。
パーキンソン症状とはパーキンソン病関連疾患(パーキンソン病、レビー小体型認知症)や大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症などの神経変性疾患、正常圧水頭症、脳血管障害、一部の薬の副作用などで出現しやすい症状のことです。
具体的なパーキンソン症状としては、安静時振戦(手足の震え)、固縮(手足や体幹筋群のこわばり)、姿勢反射障害(バランス不良)、無動・動作緩慢(動作が鈍くなる・寝返りしない)、小刻み・すり足歩行、すくみ足(歩きはじめの一歩や目的地に近づくと足が出なくなる)、斜め徴候(座位や立位で身体が傾く)、自律神経障害(体温・血圧調整不良、便秘)、思考緩慢などが有名ですが、実は「顔」に表れる症状もいくつかあります。(パーキンソン症状については過去記事カテゴリー「認知症とパーキンソニズム」の記事もご参照ください。)
それらは、
・表情が乏しくなった(仮面様顔貌)
・瞬目(まばたき)が減り、目が大きい印象を与える
・顔がテカテカしている(脂漏性顔貌)
・顔のしわが少なく、年齢より若く見える
といったものです。
パーキンソン症状があると、全身の筋肉がこわばって動きづらくなりますが、「顔」の筋肉も例外ではありません。
表情筋がこわばってしまうと、表情が乏しくなったり、皮膚がぴっちりして顔のシワが少なくなったりするのですが、「目の表情」についても、いつも目を見開いたようになって、まばたきが減ってしまうのです。
そのため、いつもびっくりしたような表情をしている人もいます。
また、脂漏性顔貌があると、いわゆるオイリーフェイスになって皮膚がツヤツヤしているようにも見えるので、目も大きくて顔のシワも少なかったりすると、実際の年齢よりずっと「若く」見えたりします。
このように「顔」には、いくつか特徴的なパーキンソン症状が表れるため、診察室に入ってきた患者さんをパッと見ただけでも、パーキンソン症状の有無や強弱について、おおよその判断ができるのです。
それで、もしパーキンソン症状があると疑われるような場合には、さらに「マイヤーソン徴候」の有無を確認します。
「マイヤーソン徴候」とは、患者さんの眉間を指先で軽くトントン叩いた時に、その刺激でまばたきや眼輪筋の収縮が誘発される徴候のことであり、パーキンソン症状があると出現します。
この徴候は比較的簡単に確認できるので、当院ではパーキンソン症状が疑われるような患者さんがいたら必ず実施しています。
皆さんも、もしパーキンソン症状が疑われるような人がいたら、是非試してみてください。
「目」の動きが悪い
認知症を伴う神経変性疾患では、病気の進行に伴って眼球運動が制限されることがあります。
そのため当院では、認知症外来の初診時には必ず「目」の動きをチェックしています。
やり方としては、患者さんの顔の前に人差し指を立てて指先を見てもらい、そのままゆっくり左右上下に指を動かします。
この時患者さんには、顔を動かさないようにして「目」だけで動く指先を追ってもらうのです。
それで眼球が左右上下にしっかり動くかどうかを確認します。
当院の認知症外来では、ほとんどの初診患者さんに対して「目」の動きを確認するテストを実施していますが、何かしらの眼球運動制限が合併している患者さんが半数以上の割合でいらっしゃいます。
その中で一番多く認められるのが「目」が上を向かない「上転制限」であり、それに次いで多いのが「目」が上下ともに向かない「上下転制限」になっています。
もし眼球運動を支配している脳神経に障害があれば、当然「目」の動きも制限されます。
そのため眼球運動制限が認められる場合、認知症をもたらす脳の変性が、眼球運動をつかさどる脳神経にまで及んでいることが示唆されるのです。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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