認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

便秘が認知症を悪化させる(1)

「排便」を整えることが認知症治療の第一歩

前回は、睡眠の質を上げることは認知症の予防と改善につながるため、認知症疾患に対する治療の第一歩は、生活習慣の改善や投薬治療を通じて、いかに夜間しっかり寝てもらうかになる、ということをお話ししました。

しかし、認知症の予防と改善にとって、実は「睡眠」と同じくらい大切なことがもう一つあります。

それが「排便」です。

当院では、認知症疾患の治療の第一歩は「睡眠」と「排便」を整えることだと皆さんにお伝えしています。

それだけ「便秘」を症状に持つ認知症患者さんが多く、さらに「便秘」によって症状を悪化させている認知症患者さんが多いということでもあるのですが、このブログでも「排便」の重要性についてはこれまでに何度かお話ししてきました。

しかし、認知症患者さんにとって、いかに「排便」を整えることが大切であるのかについて、しっかりと認識されている人が、医療従事者も含めて、まだまだ少ないという印象があります。

そのため今回から再び、認知症を伴う神経変性疾患の治療にとって「排便」を整えることがどれだけ大切なのか、ということについてお話ししていこうと思います。

 

そもそも「便秘」とは

よく「便秘は美容や健康の大敵だ」などといわれますが、まさしく認知症にとって「便秘」は大敵です。

「便秘」があると確実に症状が悪化したり、波を打ってしまうからです。

逆に「便秘」が解消されただけで、困った症状が落ち着いてきたり、一気に改善されることもあるほどです。

そのため当院では、診察時には毎回必ず「便秘」をしていないかどうかを確認し、もし患者さんが「便秘」をしていたら、その治療を最優先にします。

このように認知症治療において、「便秘」には細心の注意を払っていくのですが、そもそもどのような状態のことを「便秘」というのでしょうか。

共通の「便秘」の定義というものはありませんが、日本内科学会では「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」とされています。

 また、慢性便秘症診療ガイドライン2017によると「本来体外へ排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。

つまり、3日以上排便がない場合、もしくは十分な排便量がない場合が「便秘」だといえるのでしょう。

しかし臨床経験的に、認知症患者さんにとって3日は長すぎます。

1日排便がないだけで、身体の動きが悪くなったり、覚醒度が落ちてボーっとしたり、幻覚・妄想が前景化してしまうような患者さんが少なくないからです。

そのため当院では、患者さんやご家族に「2日出なければイエローカード、3日出なければレッドカード」とお伝えしているほどです。

そして、もし便が3日出ていなかったら、浣腸や座薬を使ってでもすぐに「排便」させるようお願いしているのです。

当院で目指しているのは「できれば毎日、少なくても1日おきの排便習慣」になります。

それを投薬治療はもちろん、生活習慣の改善を指導したり、サプリメントの併用をお勧めするなどして目指していくのです。

 

認知症患者さんの半分以上が「便秘」がちである

当院の認知症の初診外来では、患者さんに「便秘」の有無について必ず問診しています。

すると「2~3日出ないのは当たり前で、1週間出ない時もある」「下剤を飲んでもなかなか出ない」「若い時から便秘がちだった」といったことが頻繁に聞かれます。

では、どのくらいの割合で認知症患者さんは「便秘」の症状を持っているのでしょうか。

今回、2020年4月から9月までの半年間に、認知症の疑いで当院を受診されたすべての初診患者さん98人について実際に調べてみました。

すると何と61人が「便秘」の症状を持っていたことが分かりました。

これは全体の約6割にあたります。

2016年度国民生活基礎調査によれば、日本人の「便秘」の有訴者率は2~5%程度だとされています。

また、「便秘」の有訴者率は年齢とともに増加し、40歳代と50歳代では1~4%、60歳代では2~5%、70歳代では6~9%、80歳以上では11%程度とされています。(「慢性便秘症の診断と治療より)

今回調査対象にした当院の認知症初診患者さんの年齢は46歳から97歳で、年齢層は幅広くなっていますが、中心になっているのは70歳代と80歳代でした。

上記したように、一般的な日本人における70歳代と80歳代の「便秘」の有訴者率は10%前後です。

すると、患者さんの年齢別にみても、当院の認知症初診患者さんが「便秘」の症状を持っている割合は、一般的な日本人の割合に比べて少なくとも6倍以上になっていることが分かります。

このことから「認知症になると『便秘』になりやすい」もしくは「そもそも『便秘』の人が認知症になりやすい」ということがいえるのかもしれません。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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