認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

本当に「耳が遠い」だけですか?(2)

前回は、「意味性認知症」についてご紹介し、その主要な症状である「失語」症状が「難聴」と間違われやすいことと、「失語」症状は少しずつ進行していくために「意味性認知症」はある程度進行するまで、周りの人たちには気付かれにくいということをお話ししました。

今回はその続きになります。

 

いわゆる「都合耳」じゃないですか?

まず、前回の話の補足から始めようと思います。

前回お話ししたように、話が相手に伝わらない原因が「難聴」だけであれば、こちらが話す声の大きさを変えない限り、相手にはすべての話の内容が伝わらないはずです。

しかし、あえて同じ声の大きさで問診やテストを行った時に、質問によって「伝わるもの」と「伝わらないもの」があるという患者さんが少なくありません。

これは、日本で昔から言われている「都合耳」そのものだと思われます。

「都合耳」とは、本人にとって都合の良いことは聞こえるけれども、都合の悪いことは聞こえないというものです。

また逆に「なぜか悪口だけは聞こえるんだよな~」ということもあります。

いずれにしても、本人に話は聞こえているはずなのに、内容が理解できる場合と理解できない場合があり、理解できる質問については答えられるということです。

もっとも「実際には聞こえているのに聞こえていない振り」をしていたりして、本人がとぼけていない限りですが…。

したがって「都合耳」というのは、話された言葉の意味が分からないために、つまり「失語」症状のために起きている可能性が十分に考えられるのです。

脳血管障害(脳梗塞脳出血など)が原因ではなく、認知症疾患で「失語」が生じる場合には、言語中枢のある側頭葉の病変は少しずつ進行していきます。

そのため、一度に多くの言葉が分からなくなるという訳ではなく、少しずつ意味の分からない言葉が増えていくことになります。

すると「失語」症状が出現して進行していく過程において、話された話の内容は大体分かるけれど、部分的に分からないところがあるという「都合耳」の状態が十分に生じうるのです。

したがって「都合耳」がだんだんひどくなるようであれば、その原因は「失語」である可能性が高く、しかも「もの忘れ」が全くないか、軽度であるならば「意味性認知症」が始まっている可能性がさらに高まるといえます。

 

「失語」があると「電話が苦手」になりやすい

「失語」症状というのは「難聴」に間違われやすく、周りの人に気付かれにくいというお話をしましたが、それでも本人の分からない言葉の割合が全体の1割2割とだんだん増えていくと、当然ながら「あれっ?」「変だな」ということが日常生活の中で目立ってきます。

特に日常生活の中で、周りの人が「失語」の存在に気づきやすい場面があります。

それが「電話での会話」です。

「対面での会話」では、顔の表情や身体の仕草、全体的な雰囲気などの情報もお互いにやり取りしています。

そのため、たとえ話の中で「分からない言葉」がいくつかあったとしても、「言葉」以外の情報を手がかりにして全体的な話の流れをつかんだりすることもできるのですが、それが「電話での会話」になると、お互いにやり取りする情報が「言葉」や「口調」に限られてしまいます。

確かに「口調」という声の表情からは、相手の気持ちや感情を推し量ることができます。

しかし、感情のやり取りだけを目的にした電話だったらまだしも、実際にはそのような電話というのは少なく、誰かに電話をする時というのは、事務的な内容の伝達や報告を伴うことがほとんどなのではないでしょうか。

そのような電話では「口調」から得られる情報というのはあまり役に立たず、お互いの間でやり取りされる「言葉」がもろに問われることになります。

すると、話のやり取りの中で、もし相手が話した「言葉の意味」が分からなかったら、会話がちぐはぐになったりして、すぐに「話が通じてない」ことが相手に露呈してしまいます。

そのため「失語」があると「電話が苦手」になりやすいのです。

それで、もし電話をしたとしても「自分の話したいことだけを一方的に話して、すぐに電話を切ってしまう」ことになったり、そもそも「自分から電話をかけない」「電話がかかってきても出ない」といったことも起こってくるのです。

実際、これらは「意味性認知症」の患者さん家族から頻繁に聞かれる典型的なエピソードであり、もしこのような話が聞かれたとしたら、私たちはまず「失語」の存在を疑います。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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