前回は、「失語」があるといわゆる「都合耳」になりやすいということと、電話が苦手になりやすいということをお話ししました。
今回はその続きになります。
言葉の意味が分からなくても、本人はそれを隠すことが多い
おそらく皆さんも誰かを話してる時に、相手の言っている言葉の意味がよく分からないということがあると思います。
そんな時、皆さんはどうするでしょうか。
相手に改めてその言葉の意味を尋ねることもあるでしょうが、そのまま流してしまうことも多いのではないでしょうか。
それはおそらく「失語」症状のある患者さんも同じで、本当は意味の分からない言葉があったり、話の内容をしっかり理解できなくても、相手の話に相槌ちを打ったり、頷いたりしてしまいがちなんだろうと思います。
そうすると、こちらも相手の様子からてっきり「理解してくれたもの」と思い込んでしまうのではないでしょうか。
さらに、分からない言葉が少ない時はまだしも、そのような言葉が増えてくると、患者さん本人は自分が分かっていないということを相手に悟られないように振る舞うようになってきます。
これはおそらく自己防衛的な反応なのでしょう。
よくある振る舞いとしては「聞こえないふりをする」「笑ってごまかす」「話をそらす」「急に不機嫌になって怒り出す」「その場からいなくなる」などが挙げられます。
特に多いのが、前回までにお話しした「聞こえないふりをする」というもので、それで周りの人が「耳が遠くなった」と勘違いしてしまうのです。
次に多いのが「笑ってごまかす」というものです。
これは診察場面でもよく遭遇します。
質問内容が分からないと「何でしたっけ?」「忘れちゃいました」などと笑顔で家族の方を見たりして(=Head turning sign)何気なく助けを求めたりすることもあります。
また、質問に明確に答えられないので、関係ない話を始めて「話をそらす」こともよくあります。
しかも長年培ってきた経験から、その場の雰囲気を和やかに保ちながら、質問に答えないまま会話を続けることができる人も少なからずいらっしゃいます。
このようないわゆる「取り繕い」がうまいのは、やはり女性の方が多いようです。
それに対して男性に多いのが「急に不機嫌になって怒り出す」というものです。
家族も何で急に不機嫌になるのかが分かっていなかったりするのですが、実は「失語」症状のために本人は何を言われているのかが分からずに混乱し、それを隠すために怒り出すということがあるのです。
さらに「その場からいなくなる」ということもあります。
家族から怒った理由を聞かれたり、家族に自分が分かっていないことを悟られないようにするために、その場から逃げるように立ち去る(=立ち去り行動)のです。
「失語」症状は「もの忘れ」と勘違いされることもある
認知症外来に「もの忘れ」を主訴にして受診される患者さんをいざ診察してみると、「記憶障害」は軽度で、実は「失語」症状が大もとの原因だったということがよくあります。
「失語」症状のために、そもそも「話が通じていなかった」ということです。
それを周りにいる人は「もの忘れ」があると感じてしまうのです。
本人も相手から「話したでしょ!」などと言われると「忘れちゃったのかな」と思ってしまうのでしょう。
そのため「失語」症状というのは、本人を含め周りにいる人から「もの忘れ」と表現されることがよくあります。
それで実際に「失語」症状の有無を確かめるテストをしてみると、見事に引っかかったりするのです。
ただテストをするまでもなく、実は診察時の問診の段階で「違和感」を感じることも少なくありません。
それは、私どもが「失語」症状を持つ患者さんに多く接していることから「そもそも言葉の意味が分かっていないのではないか?」という視点を普段から持ち合わせているからだと思います。
しかし一般の人たちは、まさか相手に「失語」症状があって「話が通じていない」などとは思わないので、ありふれた「もの忘れ」と勘違いしてしまいやすいのでしょう。
私たちの経験から言えば、認知症患者さんが「失語」症状を合併しているということは、「もの忘れ」と同じように「とてもありふれたこと」なのです。
では「失語」症状というのは、どのようにして見分ければ良いのでしょうか?
次回は、私どもが実際に診察時に実施している「失語のスクリーニングテスト」についてご紹介したいと思います。
次回に続きます。
今年も1年間ありがとうございました。
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