前回は、「失語」症状のある人は、言葉の意味が分からなくても、そのことを相手に悟られないように「聞こえないふりをする」「笑ってごまかす」「話をそらす」「急に不機嫌になって怒り出す」「その場からいなくなる」といったふるまいをすることがよくあるというお話をしました。
また、「失語」症状は「もの忘れ」に間違われることがよくあるということもお話ししました。
今回はその続きになります。
当院で実施している「失語症スクリーニングテスト」
前回までにお話ししてきたように、「失語」症状は周りにいる人たちから「難聴」や「もの忘れ」に間違われやすいため、「難聴」や「もの忘れ」として表現されることが少なくありません。
そのため当院の認知症外来では、「失語」症状が疑われる患者さんに対して簡単な「失語症スクリーニングテスト」を実施しています。
以下に、実際のテストの課題と失語症が疑われるよくある回答や反応についてご紹介していきますが、これらはすぐに実施できるものばかりですので、もし「失語症」が疑われるような方がいらっしゃったら、是非ご活用していただければと思います。
【課題1】
「アフリカに住む首の長い動物は何ですか?」(正答:キリン)
※失語症が疑われるよくある回答や反応
「えっ!?」「ゾウ」「知りません」「そんなとこ行ったことないから…」
【課題2】
「『利き手』はどちらですか?」
※失語症が疑われるよくある回答や反応
「『利き手?』…(家族の方を見て助けを求める)」「『利き手』って何ですか?」
【課題3】
「『ことわざ』の上を言いますので、下を言ってください」
①「猫に」(正答:小判)
②「猿も」(正答:木から落ちる)
③「弘法も」(正答:筆の誤り)
※失語症が疑われるよくある回答:そもそも「ことわざ」という言葉の意味や指示内容が分からない場合もよくあります
①「猫に(オウム返し)」「かつおぶし」「鈴」
②「猿も(オウム返し)」
③「弘法も(オウム返し)」
続けて
「『猿も木から落ちる』の意味は何ですか?」(正答例:何かが「得意・上手」な人でも「油断」すると「失敗」することがある→「 」のような言葉が使えるかどうかを診る)
【課題4】
「左手で右の肩を叩いてください」
※失語症が疑われるよくある反応
「左右を間違える」「左右を認識するのに時間がかかる」「肩を叩く力を加減できない」
【課題5】
「電話」「はさみ」「鉛筆」「スプーン」「歯ブラシ」などの写真や物品を順番に見せて「これは何ですか?」と名称を言ってもらう
※失語症が疑われるよくある反応
「名称が出ずに物品を使うジェスチャーをする」「名称が出るまでに非常に時間がかかる」
【課題6】
「次の漢字を読んでください」
①「団子」②「海老」③「土産」④「七夕」⑤「流木」⑥「喫煙」
※失語症が疑われるよくある回答
①「だんし」②「かいろう」③「どさん・とさ」④「しちゆう」⑤「ながれき・りゅうき」⑥「きんえん」
続けて
「『喫煙』の意味は何ですか?」
※失語症が疑われるよくある回答
「タバコを吸ってはいけない」「タバコをやめる」「タバコを吸うところ」
【課題7】
「次の文章を読んでそのようにしてください『右手をあげてください』」と書いてあるカードを見せる
※失語症が疑われるよくある反応
「文章を読み上げるだけで何もしない」
【課題8】
「『みんなで力を合わせて綱を引きます』と言ってください」
【課題9】
書き取り課題:「犬」「イヌ」「猫」「ネコ」「今日は外が晴れています」
言葉の視覚的理解よりも聴覚的理解の方が先に障害されやすい
「失語症」には様々なタイプがありますが、これらの一連の課題を通じて、言葉の聴覚的理解や視覚的理解、発話、復唱、呼称、書字などに障害がないかどうかを大まかに確認することができます。
これまで1000人以上の患者さんにこのテストを実施してきましたが、その印象として認知症患者さんは言葉の視覚的理解よりも聴覚的理解の方が障害されやすいと感じています。
実際、書かれている文字や文章を見て理解することよりも、相手が話した言葉を聴いて理解することの方ができないことが多いからです。
そのため、このテストを実施するまでもなく、診察中の簡単な会話や問診の段階で「あれっ?」と思うことも少なくありません。
皆さんも相手に「もしかすると意味の分からない言葉があるのではないか?」という視点さえ持ち合わせていれば「失語」症状の有無に気付きやすくなるはずです。
そしてもし「失語」が疑われるのであれば、改めて上記のテスト【課題1】から【課題4】までを実施すれば良いのです。
テスト項目の中でも【課題1】の「キリン」の課題や【課題2】の「利き手」の課題、【課題3】の「ことわざ」の課題は特に引っ掛かりやすい印象があります。
これらの課題は何の道具を準備することもなく、ただ口頭で質問すれば良いだけなので簡単に実施できると思います。
また、「失語」症状のある人でも、これらの課題に全て引っ掛かるという訳ではありません。
特に認知症疾患によって「失語」症状を呈している場合には、全ての言葉の意味が一気に分からなくなるのではなく、脳の病変の進行に伴って意味の分からない言葉が少しずつ増えてくるからです。
そのため実際にテストを実施しても、その時点において当然できる課題とできない課題が出てくるのです。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
本年から毎週1回の更新になりますが、どうぞ今年もよろしくお願いいたします。
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