認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

本当に「耳が遠い」だけですか?(6)

前回は、「失語」の具体的な症状についてお話しするとともに、「失語」症状は「意味性認知症」でなくても出現しやすいものであり、認知症患者さんが合併する症状としては決して珍しくないというお話をしました。

ただ、明らかな「記憶障害」を伴わずに病初期から「失語」症状が前景化している場合には、やはり「意味性認知症」が強く疑われ、その場合には「意味性認知症」において病初期から出現しやすいその他の特徴的な症状についても、簡単なテストで有無を確認していくというお話をしました。

今回は、その続きになります。

 

「意味性認知症」になると「視覚性失認」を呈しやすい

「意味性認知症」になると障害されやすい側頭葉には、言語機能を司(つかさど)る部位のほか、人の顔や建物、風景などを認識・識別する部位があります。

そのため「意味性認知症」では「失語」に加え、人の顔を認識・識別できなくなる「相貌失認」さらには建物や風景を認識・識別できなくなる「街並失認」といった症状が出やすいのです。

この「相貌失認」と「街並失認」は、まとめて「視覚性失認」ともいわれます。

言語機能を司る部位は、右利きの人では左側頭葉、左利きの人では右側頭葉にあることが多いのに対し、人の顔や建物、風景などを認識・識別する部位は、言語中枢とは反対側の側頭葉にあることが多いとされています。

つまり、右利きの人では右側頭葉を、左利きの人では左側頭葉を障害されると「視覚性失認」が出現しやすいのです。

ちなみに左右側頭葉の萎縮・病変の有無やその程度については、画像検査で確認していますが、形態学的には頭部MRIの前額面画像で確認しやすく、機能的な障害については脳血流シンチグラフィーで確認しやすくなっています。

ただ「視覚性失認」の症状があるかどうかについては、「失語」の場合と同じように簡単なテストで確認できます。

以下が、当院で実施している「視覚性失認」の有無を確かめるテストになります。

 

【相貌失認テスト】

有名人の顔写真を提示して「これは誰でしょうか?」

※提示する有名人については患者さんの年齢層を考慮して選択します。

<例>

石原裕次郎」「美空ひばり」「渥美清」「高倉健」「長嶋茂雄」「夏目漱石」「昭和天皇」「聖徳太子」など

 

【街並失認テスト】

国内外の有名な建物や場所の写真を提示して「これは何でしょうか?」

<例>

「東京タワー」「ピラミッド」「自由の女神」「金閣寺」「富士山」など

 

「視覚性失認」テストの実施にあたって

当院ではあらかじめ写真画像を印刷したテストバッテリーを使っていますが、いまはパソコンやスマホを使えば有名人や名所の画像を簡単に検索して提示できると思います。

また有名人や名所の画像でなくても、本人にとって馴染みのある人や場所の画像でも良いでしょう。

実際にこのテストを認知症外来で実施していますが、有名人の名前や名所の名称をスラスラ答えられるという患者さんはわずかしかいません。

大抵の場合、正答できないものがいくつかあります。

この時、テストを実施する側に必要とされるのは、提示した有名人や名所は認識・識別できているのに、その名前や名称が出てこないだけなのか、そもそも有名人や名所を認識・識別できていないのかを見極める視点です。

たとえ名前や名称は出てこなくても、それぞれの特徴を言うことができたり、ヒントで初めの言葉を出せば答えられるといった場合には、それらの認識・識別はできているということになります。

また、正答できなくても本人の様子から、提示された有名人や名所を認識・識別できているのかどうかを推察できることもあります。

これに対して「知らない」「分からない」だとか「誰でしょう?」「見たことない」「行ったことない」といった答えが連発するようであれば「視覚性失認」の存在が疑われます。

ちなみに「視覚性失認」があったとしても「富士山」が分からないという患者さんはほとんどいません。

「富士山」が分からないという場合には、重度の「視覚性失認」があることが疑われ、「意味性認知症」に限らず、その患者さんの認知症疾患の病状はかなり進行していると判断できます。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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