前回は、「意味性認知症」になると「失語」だけでなく「視覚性失認」も呈しやすいということをお話しし、当院で実施している「視覚性失認」の有無を確かめるテストをご紹介しました。
今回はその続きになります。
「意味性認知症」は「アルツハイマー型認知症」に間違われやすい
以前もお話したように、特に「意味性認知症」は「失語」症状が「もの忘れ」に勘違いされやすいため、「アルツハイマー型認知症」に誤診されやすくなっています。
そのため「意味性認知症」の患者さんに「アルツハイマー型認知症」治療薬が投与されているケースが少なくありません。
「意味性認知症」は「前頭側頭葉変性症」に含まれているように「前頭葉症状」が合併しやすい疾患なのですが、「アルツハイマー型認知症」治療薬を内服すると、そのような症状を引き出したり、前景化させてしまう場合があるのです。
すると、患者さんが怒りっぽくなったり、落ち着かなくなって多動になったり、興奮しやすくなったりしてします。
「意味性認知症」の患者さんに限らず、このような「前頭葉症状」のある認知症患者さんに「アルツハイマー型認知症」治療薬を内服させることは、いわば「火に油を注ぐ」ことになりかねないので、実はとても注意が必要なのです。
いわゆる「前頭葉症状」が前景化してくると、周りにいる人たちは本当に困ってしまい、在宅生活の継続が難しくなることもあります。
また、認知症患者さんを怒らせたり、不隠にさせるようなことは、いわば「もっと悪くなれ」と病気の背中を押すようなものであり、本人の病状をどんどん進行させてしまうことにもなるので、できるだけ避けなければいけません。
したがって、当たり前のことかもしれませんが、特に認知症疾患の治療においては、正しい診断に基づく適切な治療が受けられるよう、スタートラインを間違わないということが非常に大切なのです。
ただ、これまでにお話してきたことを踏まえて出現している症状を観察すれば、少なくとも「意味性認知症を疑う」ことは可能になるのではないでしょうか。
そうすれば「意味性認知症」の診断を受けられる可能性はもちろん、正しい診断に基づく適切な治療を受けられる可能性も高くなります。
繰り返しになりますが、「アルツハイマー型認知症」の場合は、「記憶障害」つまり「もの忘れ」が発症早期から前景化することがほとんどであり、「失語」症状が出現してくるのは病状がある程度進行した中期以降になります。
また、頭部MRI検査で海馬の萎縮が認められたり、さらに脳SPECT検査で後部帯状回の血流低下が認められる場合には「アルツハイマー型認知症」である可能性が非常に高くなります。
ちなみに「アルツハイマー型認知症」の脳SPECT検査では、後部帯状回に加えて頭頂葉や楔前部の血流低下も認められることがあり、それらが認められる場合には「アルツハイマー型認知症」の疑いがさらに高まります。
このように「アルツハイマー型認知症」があるかどうかを判断するには、脳SPECT検査が非常に有用なのです。
これらの検査を通じてしっかり診断できれば、「意味性認知症」の患者さんやその家族が、少なくとも「アルツハイマー型認知症」内服薬の安易な投与によって、その副作用に苦しむようなことは避けられるのではないでしょうか。
他の認知症疾患に「アルツハイマー型認知症」が合併することも少なくない
ただ「アルツハイマー型認知症」は単独で発病することもありますが、その他の認知症疾患に合併することも少なくありません。
特に「レビー小体型認知症」では、「アルツハイマー型認知症」が約6割合併するという研究報告もあるほどです。
ちなみに「レビー小体型認知症」の親戚である「パーキンソン病」も、経過中に認知症を合併してくることがあり、その場合には「パーキンソン病認知症(PDD)」と臨床診断されますが、「レビー小体型認知症」を発見した小阪憲司先生によれば「パーキンソン病認知症」と「レビー小体型認知症」はほとんど同じ病態だそうです。
そうすると「パーキンソン病」の患者さんが経過中に「レビー小体型認知症」に移行したり、「アルツハイマー型認知症」を合併してくることは十分にありえることであり、実際臨床的にもとりわけ珍しいことではないのです。
同じく、「大脳皮質基底核変性症」や「進行性核上性麻痺」そして「意味性認知症」を含む「前頭側頭葉変性症」といったその他の神経変性疾患であっても、「アルツハイマー型認知症」を合併していることがたびたびあります。
そしてそれらを診断する時には、「アルツハイマー型認知症」の病態が存在しているかどうかを判断するうえで、特に先述した脳SPECT検査が威力を発揮するということは言うまでもありません。
「意味性認知症」は医療費助成を受けられる指定難病
「意味性認知症」は「前頭側頭葉変性症」に分類される疾患で難病に指定されているため、役所に難病申請をして認められれば医療費助成を受けることができます。
そのため「意味性認知症」が疑わる場合には難病申請ができるかどうかについて主治医に相談すると良いでしょう。
文末に、難病指定センターによる「意味性認知症」を含む「前頭側頭葉変性症」の診断・治療指針のリンク先を記載しておきますので、是非ご参照ください。
ただ、ここで示されている診断基準の中で申請時に留意すべき点があります。
それは「意味性認知症」は高齢での発症が少なく、発症年齢65歳以下の患者さんを対象にしているという点です。
このため発症・診断の時期が65歳を大幅に越えている場合には、難病認定を受けるのが難しくなるかもしれません。
ただ、家族が症状に気付いて受診し、診断を受けた時には65歳を越えていたとしても、過去を振り返ってみて、実は数年前から発症していたと判断できる場合もあります。
その場合も主治医に相談してみると良いと思います。
※難病指定センター「前頭側頭葉変性症(指定難病127)」診断・治療指針ページ(https://www.nanbyou.or.jp/entry/4841)
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
↑↑ 応援クリックお願いいたします