認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

発達障害ともの忘れ(1)

発達障害の気質がある人は意外に多い!?

当院で認知症と診断される患者さんの多くが、強弱の差こそあれ、もともと発達障害の気質を有しているということを、以前からお話ししてきました。(「認知症と発達障害」カテゴリー記事一覧

ここでいう発達障害とは、主に「自閉症スペクトラム症(ASD)」と「注意欠陥多動性障害ADHD)」の2つになります。

発達障害保有率としては、文部科学省によって2012年に全国の公立小中学校で約5万人を対象に実施された調査によれば6.5%(ASDが1.1%、ADHDが3.1%)とされています。

また米国のCDCの報告によれば、推定される子供のASD保有率は1.85%(2010~2016年;Data & Statistics | Autism Spectrum Disorders | CDC 米国)、ADHD保有率は6.1%(2016年; Data & Statistics | ADHD | CDC 米国)とされています。

ちなみにASDもADHDもおおよそ男:女=4:1となっており、男性の方が保有率が高くなっています。

これらの調査結果を見れば、発達障害というのは決して稀な気質ではないといえます。

さらに最近の研究によれば、ASDとADHDのどちらかの気質を単独で有しているというよりは、両者の気質を合併していることがほとんどであり、そのうえで、両者の気質が出ていたり、どちらか要素が強い方の気質が前面に出ているのだそうです。

そうすると、一概にどちらがどのくらいの割合で存在しているのかは単純にいえなくなりますが、いずれにしても当院の認知症外来を受診される実際の患者さんについていえば、家族の話からもともとASDやADHDの気質を持ち合わせていたという人が大多数であり、その割合は上記した調査報告の割合よりずっと大きいのです。

おそらくASDやADHDと「診断」はされていなくても、それらの気質傾向を強く持ち合わせているという人は、実際にはずっと多く存在していると推測されます。

 

発達障害の気質がある人は認知症になりやすい!?

中央大学文学部の緑川研究室(神経心理学研究室)による「発達障害認知症」についての報告では、「パーキンソン病レビー小体型認知症の人々に対して昔を振り返ってもらうと、発達障害の一つである注意欠陥多動性障害だった率が他の認知症に比較して有意に高いことが報告されています(中略)アルツハイマー病の人々と比べて、臨床的に前頭側頭型認知症と診断された人の中には、発症前に自閉症スペクトラム障害であった可能性が高いことを改めて確認しました」とされています。

これは認知症外来に長年携わってきた私どもの見解を後押しする内容になっています。

そもそも発達障害は幼少期から若い成人期において診断・治療されるものですが、この病態概念はまだ比較的新しいものなので、現在の高齢者が若い頃には一般的になっていませんでした。

そのため高齢者の中にも、発達障害の人は一定の割合で存在しているはずですが、ほとんどの人が診断されないまま高齢になっていると考えられ、そのような一群が少なくない割合で「認知症」に移行していくのではないかと推測されます。

また「診断」には至らないけれども発達障害の傾向が強く認められるという人は、それよりもずっと多く存在しているのではないかと思われます。

実は、そのような発達障害のある人というのは、脳の神経細胞脆弱性(ぜいじゃくせい)があるとされています。

そのためストレスに弱く、脳の神経細胞が変性しやいのです。

私たちはどうしても生活していく中で、肉体的にも精神的にもさまざまなストレスを受けます。

これは推論ですが、発達障害の傾向が強い人は、それらのストレスを長年受け続けることによって、脆弱性のある脳の神経細胞の変性が進みやすく、その結果として、認知症を発症しやすくなるのではないかと思われるのです。

 

発達障害の人はもともと神経軸索の髄鞘化機能が低下している

本来、脳の神経細胞同士を結んで電気信号を伝導・伝達させる軸索(じくさく)は、髄鞘(ずいしょう)という鞘(さや)に覆われた構造をしています。

この髄鞘は軸索を保護しながら絶縁体としての役割も果たすとともに、電気信号の伝導速度を速める働きをしているのですが、実は出生時の神経細胞の軸索には髄鞘がありません。

脳の神経細胞は、成長に伴って軸索が髄鞘化されていくのです。

そして髄鞘化が完成すると、その脳領域の脳神経ネットワークが成熟し、充分に機能するようになると考えられています。

このように脳の発達にとって神経軸索の髄鞘化は欠かせません。

しかし発達障害の人は、この髄鞘化機能がもともと低下しているというのです。

そのため脳の神経細胞とそれらのネットワークが成熟しにくく、特定の脳領域がうまく機能しない状態が生まれやすくなります。

これが発達障害を生じさせる器質的な要因の一つであると考えられるのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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