前回は、まず発達障害の気質のある人が「もの忘れ」を訴えるようになるパターンを整理し、それは「注意障害」と「覚醒度の低下」が大きく関与していることが多いということをお話ししました。
また、注意欠陥多動性障害(ADHD)で「注意障害」や「覚醒度の低下」といった特徴的な症状が生じる原因の1つに、脳内における神経伝達物質(ホルモン)のドーパミンの「流通量」が少ないことが挙げられることや、実際にドーパミンがどのような働きをしているのかについてもお話ししました。
今回はその続きになります。
ドーパミンの別名は「幸せホルモン」「やる気ホルモン」
前回お話ししたように、精神面にも大きく関与するドーパミンは、体内に増えてくると、うれしさや喜びを感じたり、ワクワクしたり、モチベーションが上がって「何かをやろう!」という意欲が湧いてきたりします。
そのためドーパミンは別名「幸せホルモン」や「やる気ホルモン」ともいわれているのですが、このドーパミンには、何か目標を達成した時や誰かに認められたり褒められたりした時、うれしいことや楽しいことがあった時、おいしい物を食べた時、誰かのことを愛おしく感じたり、逆に誰かの愛情を感じた時、好きな音楽を聴いた時、新しいことに挑戦した時などにたくさん分泌されるという性質があります。
このようなうれしい気持ちや楽しい気持ち、ワクワク感、適度な緊張や興奮といったものが脳を刺激して、ドーパミンが分泌されるというのです。
そしてドーパミンが体内に増えてくると、さらに「幸福感」や「やる気」が湧いてくるというわけです。
このような気持ちというのは、当然ながら誰もが何度でも味わいたいと願っています。
そのため、人はドーパミンを増やしてくれる活動に熱心に取り組むようになり、これが学習につながったり、集中力や意欲の向上、ポジティブな態度をもたらしてくれたりするのです。
ドーパミンが不足がちの人は「刺激的な活動や物質」に依存しやすい
このように、ドーパミンは精神的に「幸福感」や「やる気」を与えてくれる、いわば「生きる活力源」になるものなので、私たちが生きていくうえで欠かせないホルモンだといえます。
しかし、分泌される量が多ければ多いほど良いというわけでもありません。
分泌され過ぎるとかえって害になることがあるからです。
確かにドーパミンはたくさん分泌されて体内に増えてくると、それだけ私たちが感じる「幸福感」や「やる気」も大きくなります。
しかし「幸福感」や「やる気」というのは、私たちにとっては「快楽」にもなるため、人によっては、この「快楽」に依存してしまうことがあるのです。
するとドーパミンを大量に分泌してくれる特定の活動ばかりを繰り返し行うようになってしまうので、これが様々な「依存症」を引き起こす原因になりうるのです。
そしてこの傾向は、もともとドーパミンが不足がちの人に強く見られるということが分かっています。
これは、ドーパミンが不足している分だけ強く、脳がドーパミンを欲するようになるからではないかと考えられています。
実際に、ドーパミンが不足して発症するパーキンソン病の人は、パチンコや競馬などのギャンブルにのめりこみやすい傾向がありますし、ドーパミンがもともと不足がちな発達障害の人も、ギャンブル依存はもちろん、アルコール依存、ニコチン依存、カフェイン依存、薬物依存などになりやすい傾向があるのです。
実はギャンブルなどの刺激的な活動や、アルコール・ニコチン・カフェイン・麻薬には、ドーパミンを分泌させる作用があることが分かっています。
そのため、もともとドーパミンが不足がちなパーキンソン病や発達障害の人は、ドーパミンを大量に分泌してくれる「刺激的な活動や物質」に依存しやすくなっているのではないかと考えられるのです。
さらに、人間の脳には同じような「刺激的な活動や物質」が繰り返されると、それにだんだん慣れていってしまうという性質があります。
すると、当然ながら私たちが感じる「快楽」もだんだん少なくなってしまうため、それまで得られていたような「快楽」を味わうには、それまでよりもさらに「刺激的な活動や物質」へとエスカレートさせていかなくてはなりません。
このことがさらに「依存症」を引き起こしやすくさせていると考えられるのです。
ドーパミンは「喜ばしいこと」がこれから起こりそうだと予測される時にも分泌される
また、ドーパミンには、これから起こりそうなうれしいことや楽しいことを想像しただけでも分泌されるという性質があります。
これにはドーパミンを分泌する細胞と脳内の「報酬系」と呼ばれる神経ネットワークが大きく関与しており、うれしいことや楽しいことを実現させた時ばかりでなく、その実現が予測できた時にも同じ「報酬系」が作動してドーパミンが分泌されるというのです。
つまり、「報酬が得られそうだ」と予測できた時には、もうドーパミンが分泌されており、体内のドーパミンが増加するにつれて、行動する意欲も上がってくるというわけです。
ちなみに、人を行動させる原動力になるものとしては、その人にとって「喜ばしいこと(=報酬)が実現した時の気持ち」もありますが、それよりも「喜ばしいことが実現しそうな時に感じる気持ち」の方が大きいのではないかといわれています。
みなさんもきっと「喜ばしいこと」を実現させた時よりも、その実現を予測しながら過ごしている時の方が、ワクワクして楽しかったという経験があるのではないでしょうか。
いざ休日を迎えた時よりも、実際にクリスマスの朝にプレゼントを手にした時よりも、ようやく念願のデートを実現できた時よりも、その前の方が楽しく過ごせていたというような経験です。
つまり、わたしたちは喜びや達成感、やりがいを求めて行動するものですが、実はそれらの実現が予測できた時にはもうすでにドーパミンがたくさん分泌されているため、実現前であっても実現した時と似たような気持ちを、もしくはそれ以上の気持ちを体感しているのです。
これは、体内のドーパミンが不足がちなパーキンソン病や発達障害の人も変わりありません。
しかし、もともとドーパミンが少ない分だけ、「報酬を実現した時」はもちろん「報酬を予測した時」に分泌されるドーパミンの影響が大きくなる傾向があり、これが心身の活動状態がその時の気分や気持ちに左右されやすいという特性にもつながっていると考えられるのです。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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