前回は、ドーパミンは体内に増えてくると「幸福感」や「やる気」が湧いてくるため、それが別名「幸せホルモン」「やる気ホルモン」ともいわれる由来になっているけれども、もともとドーパミンが不足がちなパーキンソン病や発達障害の人には、このようなドーパミンがもたらしてくれる「快楽」を求めて、ド―パミンをたくさん分泌させてくれるギャンブルやアルコール、ニコチン、カフェイン、麻薬といった「刺激的な活動や物質」に依存しやすい傾向があるというお話をしました。
また、ドーパミンは「喜ばしいこと」がこれから起こりそうだと予測される時にも分泌される性質があり、ドーパミンが不足がちなパーキンソン病や発達障害の人は、もともとドーパミンが少ない分だけ「喜ばしいこと」が実現した時やその実現が予測できた時に分泌されるドーパミンの影響を受けやすく、そのため心身ともに「気分」や「気持ち」に左右されやすい傾向があるというお話もしました。
今回は、その続きになります。
パーキンソン病や発達障害の人は「気分」や「気持ち」に左右されやすい
前回までにお話ししてきたように、パーキンソン病や発達障害の人は、もともと体内にあるドーパミンの量が少ない傾向があるため、その分、分泌されるドーパミンに影響を受けやすくなっています。
というのも、ドーパミンの分泌量が減ってしまうと、それまでも少ないドーパミンをやりくりして何とか活動してきたのが、さらにドーパミンが減ってしまうことでいよいよ行き渡らなくなり、それで身体面・精神面ともに一気に活動が鈍くなってしまうのではないか、また反対にドーパミンの分泌量が増えてくると、あたかも乾いた土に水が吸い込まれるようにドーパミンを渇望していた神経細胞に使われるようになり、それで身体面・精神面ともに一気に活動がスムースになるのではないかと考えられるからです。
すると、ドーパミンが不足している人は、ドーパミンの分泌量を変動させるような要因に、とても影響を受けやすいということになります。
そして、このドーパミンの分泌量を変動させる要因の最たるものが、昔から「病は気から」といわれているように、本人の「気分」や「気持ち」ではないかと考えられるのです。
さらに、ドーパミンを分泌させる細胞は、予測に反して報酬が与えられた時にはドーパミンの分泌を促す興奮性の反応をし、予想に反して報酬が得られなかった時にはドーパミンの分泌を抑える抑制性の反応をすることが分かっています。
加えてこの興奮性の反応も抑制性の反応も、予測と実際の結果の隔たりが大きいほど強くなるという性質があるそうです。
みなさんもきっと、期待していたよりも結果が悪かったりすると、期待していた分だけがっくり気落ちしたり、反対に期待していたよりも結果が良かったりすると、期待していなかった分だけうれしさが倍増したといったような経験があるのではないでしょうか。
これには、ドーパミン分泌細胞が持つそのような性質も少なからず関与しているのではないかと思われるのです。
すると、この傾向はドーパミンがもともと不足しているパーキンソン病や発達障害の人であれば、なおさら強くなると考えられます。
「予測」と「期待」は表裏一体であるように、「予測」にはどうしても何かしらの「気分」や「気持ち」が伴うものです。
すると、「結果」が「予測」に反していた場合には、その分だけ「気分」や「気持ち」が大きく揺れ動いてしまうのは当然のことであり、これがドーパミンの分泌量を左右するのであれば、パーキンソン病や発達障害の人ではもともとドーパミンが不足している分だけ、その影響を強く受けやすくなるからです。
心身ともに「気分」や「気持ち」に左右されやすいということは「ストレスに弱い」ということ
このようにパーキンソン病や発達障害の人は、心身ともに「気分」や「気持ち」に影響されやすいため、これが
「ストレスに弱い」ことにもつながっていると考えられます。
なぜなら、「ストレス」とは私たちにとって肉体的にも精神的にも苦痛やプレッシャーになるものであり、そのような出来事や言動があったりすると、どうしても「気分」や「気持ち」が落ち込みやすくなります。
すると、パーキンソン病や発達障害の人では、この「気分」や「気持ち」の落ち込みによってさらにドーパミンの分泌量が減ってしまうことになり、そうなると、もともとドーパミンが不足している分だけ、一気に心身の活動が鈍くなってしまうからです。
それゆえ、パーキンソン病や発達障害の人は「ストレスに弱い」といえるのですが、前々回の記事で、発達障害の気質のある人が「もの忘れ」を主訴に受診されてくる場合には、本人の「注意障害」と「覚醒度」に注視するとともに、最近それらを変動させるような出来事がなかったかどうか、つまり本人に「ストレス」がかかるようなことがなかったかどうかを必ず確認するとお話ししたのは、まさしくこのためなのです。
ドーパミンには、脳幹網様体賦活系や大脳基底核に作用して、覚醒・睡眠サイクルを整える働きがあります。
そのため、ドーパミンが少なくなるとパーキンソン症状が出現しやすくなくなるのはもちろん、「覚醒度」や「意識レベル」が落ちてボーっとしたり、「注意散漫」になりやすくなってしまうからです。
したがって、発達障害の人は何らかの「ストレス」を受けると、それがきっかけでドーパミンの分泌量が減少してしまい、それが「注意障害」の前景化や「覚醒度」の低下をもたらし、結果的に一見「もの忘れ」が出てきたように感じられることがあるということなのです。
そして実際に、そういった症例があとを絶たないのです。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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