認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

発達障害ともの忘れ(13)

前回は、パーキンソン病の人は「暗示にかかりやすい」傾向があるため、治療ではそれを利用して得られる薬の効果を大きくするような声掛けをすることがあること、心配性の患者さんは診察時に悪いことしか言ってこないことがあり、そのような場合には治療に難渋しやすいこと、本来治療を進めていくうえで必要な協力が得られそうもない家族の場合には、スタッフはあらかじめそのことを心づもりして対応した方が良いことなどについてお話ししました。

今回はその続きになります。

 

家族が本人の訴えに「共鳴」することが、さらに本人の症状を「増幅」させる

前回までにお話ししてきたように、パーキンソン症状のある患者さんは総じて「ストレス」に弱く、普段一緒に過ごしている「家族の気質」や「家族による対応」には特に影響を受けやすいため、それらが患者さんの困った症状を前景化・増悪させていたりするケースが少なくありません。

一緒に生活している家族が本人の訴えを鵜呑みにしたり、訴えに振り回されてしまうと、いわば家族が本人の訴えに「共鳴」することになって、それがさらに本人の症状を「増幅」させてしまうからです。

そのため家族にはそうしないことはもちろん、できるだけ良くなった点を指摘したり「褒める」ことを心掛けるようお願いしているのですが、家族によってはそのことがどうしても理解できなかったりします。

また、たとえ理解はできていたとしても、それが実行できないのです。

目の前で何かが起こると、それにすぐ反応してしまい、どうしても「ひと呼吸」おいてから対応するということができなくなってしまうからです。

このような場合には、患者さん本人と同じように家族の気質にも何らかの特性があるものと理解しています。

 

「待てない」気質が治療を難渋させる薬の自己調整をもたらす

また、処方された薬を自分で勝手に調整してしまったりするのも、このような患者さんやその家族に多いという印象があります。

確かに薬の効果がすぐに表れる場合もありますが、薬によっては1~2週間飲み続けてみないと効果が分かりません。

ましてや、このような症例の患者さんの場合は「薬剤過敏性」を有していることが多いため、薬を開始するにしても微量(薬によっては常用量の10分の1くらい)からになったり、増量する時にも微量で調整していくことになります。

すると、内服薬の血中濃度が安定した状態で、さらには、本人が経過中に受ける様々な因子(他人の言動・体調・身近な人に起こった出来事・天候・気圧・月の満ち欠けなど)からの影響を差し引いたうえで、しっかり薬の効果を見定めていくためには、どうしても1~2週間は必要なのです。

それにも関わらず、このような症例の患者さんや家族の場合には、どうしてもそれまで「待つ」ことができず、目の前に表れる症状に振り回されて薬を勝手に調節してしまうことがあるため、それでさらに治療が難渋しやすくなってしまうのです。

 

患者さんや家族が自ら良くなった点を話すようになったら、それがターニングポイントになる

私たちは、このような患者さん本人や家族の持つ特性を理解し、時には我慢強く訴えに耳を傾けながら、褒めたり励ましたりして、まずはお互いの信頼関係を構築していくことを目指しますが、いわゆる「みんなが落ち着いてくる」までには、半年から1年以上かかることも珍しくはありません。

患者さんやその家族が自ら良くなった点を話すようになったら、それがターニングポイントとなってどんどん症状が好転していきます。

ただ、その前に突然通院してこなくなることも多くありますが・・・。

このようなことから、私たちは家族も含めて本人の気持ちを「前向き」にさせるような声掛けを特に心掛けていますが、これはすべて心身ともに「気分」や「気持ち」に影響されやすいからなのです。

実際に、家族の対応が変わるだけで、本人の症状が落ち着くばかりか、身体の動きも改善したりするので、それにはいつも驚かされます。

そして介護負担が軽減し、家族が落ち着いてくると、時間的にも体力的にも気持ち的にも余裕ができて、さらにケアの質が向上していくという好循環が生まれ、それによってさらに症状が改善してくると、本人も家族もさらに落ち着いていくことになるのです。

そうなればもうこっちのものです。

当然ながら投薬治療による効果も大きくなるため、それまで困っていた症状が大きく改善していくことになるからです。

認知症を伴う神経変性疾患の治療においては、まさしく「投薬治療」と「ケア」が両輪であり、両方がうまく回らないとなかなか症状が改善していかないのです。

発達障害タイプの人たちが訴える「もの忘れ」の治療も、この点についてはまったく同じです。

ましてや発達障害タイプの人が「もの忘れ」を前景化させる原因というのは、「ストレス」であることがほとんどであるため、家族をはじめとする周りの人たちの理解と協力が、治療においては大きな威力を発揮するのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

【これまでの「認知症診療あれこれ見聞録」記事一覧】

 

にほんブログ村 介護ブログ 認知症へ
にほんブログ村

↑↑ 応援クリックお願いいたします

f:id:kotobukireha:20190702092414j:plain