認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

発達障害ともの忘れ(9)

前回は、まず発達障害の気質のある人が「もの忘れ」を訴えるようになるパターンを整理し、それは「注意障害」と「覚醒度の低下」が大きく関与していることが多いということをお話ししました。

また、注意欠陥多動性障害ADHD)で「注意障害」や「覚醒度の低下」といった特徴的な症状が生じる原因の1つに、脳内における神経伝達物質(ホルモン)のドーパミンの「流通量」が少ないことが挙げられることや、実際にドーパミンがどのような働きをしているのかについてもお話ししました。

今回はその続きになります。

 

ドーパミンの別名は「幸せホルモン」「やる気ホルモン」

前回お話ししたように、精神面にも大きく関与するドーパミンは、体内に増えてくると、うれしさや喜びを感じたり、ワクワクしたり、モチベーションが上がって「何かをやろう!」という意欲が湧いてきたりします。

そのためドーパミンは別名「幸せホルモン」や「やる気ホルモン」ともいわれているのですが、このドーパミンには、何か目標を達成した時や誰かに認められたり褒められたりした時、うれしいことや楽しいことがあった時、おいしい物を食べた時、誰かのことを愛おしく感じたり、逆に誰かの愛情を感じた時、好きな音楽を聴いた時、新しいことに挑戦した時などにたくさん分泌されるという性質があります。

このようなうれしい気持ちや楽しい気持ち、ワクワク感、適度な緊張や興奮といったものが脳を刺激して、ドーパミンが分泌されるというのです。

そしてドーパミンが体内に増えてくると、さらに「幸福感」や「やる気」が湧いてくるというわけです。

このような気持ちというのは、当然ながら誰もが何度でも味わいたいと願っています。

そのため、人はドーパミンを増やしてくれる活動に熱心に取り組むようになり、これが学習につながったり、集中力や意欲の向上、ポジティブな態度をもたらしてくれたりするのです。

 

ドーパミンが不足がちの人は「刺激的な活動や物質」に依存しやすい

このように、ドーパミンは精神的に「幸福感」や「やる気」を与えてくれる、いわば「生きる活力源」になるものなので、私たちが生きていくうえで欠かせないホルモンだといえます。

しかし、分泌される量が多ければ多いほど良いというわけでもありません。

分泌され過ぎるとかえって害になることがあるからです。

確かにドーパミンはたくさん分泌されて体内に増えてくると、それだけ私たちが感じる「幸福感」や「やる気」も大きくなります。

しかし「幸福感」や「やる気」というのは、私たちにとっては「快楽」にもなるため、人によっては、この「快楽」に依存してしまうことがあるのです。

するとドーパミンを大量に分泌してくれる特定の活動ばかりを繰り返し行うようになってしまうので、これが様々な「依存症」を引き起こす原因になりうるのです。

そしてこの傾向は、もともとドーパミンが不足がちの人に強く見られるということが分かっています。

これは、ドーパミンが不足している分だけ強く、脳がドーパミンを欲するようになるからではないかと考えられています。

実際に、ドーパミンが不足して発症するパーキンソン病の人は、パチンコや競馬などのギャンブルにのめりこみやすい傾向がありますし、ドーパミンがもともと不足がちな発達障害の人も、ギャンブル依存はもちろん、アルコール依存、ニコチン依存、カフェイン依存、薬物依存などになりやすい傾向があるのです。

実はギャンブルなどの刺激的な活動や、アルコール・ニコチン・カフェイン・麻薬には、ドーパミンを分泌させる作用があることが分かっています。

そのため、もともとドーパミンが不足がちなパーキンソン病発達障害の人は、ドーパミンを大量に分泌してくれる「刺激的な活動や物質」に依存しやすくなっているのではないかと考えられるのです。

さらに、人間の脳には同じような「刺激的な活動や物質」が繰り返されると、それにだんだん慣れていってしまうという性質があります。

すると、当然ながら私たちが感じる「快楽」もだんだん少なくなってしまうため、それまで得られていたような「快楽」を味わうには、それまでよりもさらに「刺激的な活動や物質」へとエスカレートさせていかなくてはなりません。

このことがさらに「依存症」を引き起こしやすくさせていると考えられるのです。

 

ドーパミンは「喜ばしいこと」がこれから起こりそうだと予測される時にも分泌される

また、ドーパミンには、これから起こりそうなうれしいことや楽しいことを想像しただけでも分泌されるという性質があります。

これにはドーパミンを分泌する細胞と脳内の「報酬系」と呼ばれる神経ネットワークが大きく関与しており、うれしいことや楽しいことを実現させた時ばかりでなく、その実現が予測できた時にも同じ「報酬系」が作動してドーパミンが分泌されるというのです。

つまり、「報酬が得られそうだ」と予測できた時には、もうドーパミンが分泌されており、体内のドーパミンが増加するにつれて、行動する意欲も上がってくるというわけです。

ちなみに、人を行動させる原動力になるものとしては、その人にとって「喜ばしいこと(=報酬)が実現した時の気持ち」もありますが、それよりも「喜ばしいことが実現しそうな時に感じる気持ち」の方が大きいのではないかといわれています。

みなさんもきっと「喜ばしいこと」を実現させた時よりも、その実現を予測しながら過ごしている時の方が、ワクワクして楽しかったという経験があるのではないでしょうか。

いざ休日を迎えた時よりも、実際にクリスマスの朝にプレゼントを手にした時よりも、ようやく念願のデートを実現できた時よりも、その前の方が楽しく過ごせていたというような経験です。

つまり、わたしたちは喜びや達成感、やりがいを求めて行動するものですが、実はそれらの実現が予測できた時にはもうすでにドーパミンがたくさん分泌されているため、実現前であっても実現した時と似たような気持ちを、もしくはそれ以上の気持ちを体感しているのです。

これは、体内のドーパミンが不足がちなパーキンソン病発達障害の人も変わりありません。

しかし、もともとドーパミンが少ない分だけ、「報酬を実現した時」はもちろん「報酬を予測した時」に分泌されるドーパミンの影響が大きくなる傾向があり、これが心身の活動状態がその時の気分や気持ちに左右されやすいという特性にもつながっていると考えられるのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

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発達障害ともの忘れ(8)

前回は、発達障害の人は覚醒度が低下することで、もともと持ち合わせている「注意障害」が前景化し、そのために「もの忘れ」を訴えることもあり得るというお話をしました。

さらにその原因として、発達障害の人は「覚醒度」を保つうえで中心的な役割を果している「前頭葉」機能がそもそも低下傾向にあることが考えられるというお話もしました。

今回は、その続きになります。

 

発達障害の気質のある人が「もの忘れ」を訴えるようになるパターンを整理すると

前回までに、20~50歳代で発達障害の気質のある人が「もの忘れ」を主訴に受診されてくる場合、その「もの忘れ」は認知症疾患が原因で生じたものではないことが多く、何らかの原因でもともと持っていた「注意障害」が悪化することによって「注意の容量・ワーキングメモリ(作業記憶)」がさらに低下し、本来入力されるはずの情報が入力されないために「記憶」そのものが形成されず、一見「もの忘れ」を発症したかのようになる、ということをまずお話ししました。

また、発達障害の気質のある人は「覚醒度」を保つうえで中心的な役割を果している「前頭葉」機能がもともと低下傾向にあり、そのため状況に応じて「覚醒度」をコントロールしたり、適正な範囲に保つことが苦手で「覚醒度」が低下しやすくなっていることから、それで二次的に「注意障害」が前景化して一見「もの忘れ」を発症したかのようになる、ということもお話ししました。

つまり、発達障害の気質のある人が「もの忘れ」を訴えるようになるパターンとしては、

①もともとの「注意障害」が悪化することで、一見「もの忘れ」を発症したかのようになるパターン

②「覚醒度」が低下することで二次的に「注意障害」が前景化し、一見「もの忘れ」を発症したかのようになるパターン

の2通りが考えられるということです。

もちろん「注意障害」の悪化と「覚醒度の低下」の両方が起こり、一見「もの忘れ」を発症したかのようになるパターンもあるでしょう。

いずれにしても、発達障害の気質のある人が「もの忘れ」を主訴に受診されてくる場合には、本人の「注意障害」と「覚醒度」に注視するとともに、最近それらを変動させるような出来事がなかったかどうか、つまり本人にストレスがかかるようなことがなかったかどうかを確認することが不可欠なのです。

 

ADHDではもともと脳内のドーパミン「流通量」が少ない傾向がある

このように発達障害の気質のある人が「もの忘れ」を訴えている場合には、「注意障害」と「覚醒度の低下」が大きく関与していることが多いのですが、ではそもそも「注意障害」や「覚醒度の低下」はなぜ生じるのでしょうか。

注意欠陥多動性障害ADHD)では、注意力や集中力の低下、多動性といった症状が特徴的に見られますが、実は、これらの症状が生じる原因の1つに神経伝達物質(ホルモン)のドーパミンの関与が考えられています。

というのも、ADHDの約3割以上の人で「ドーパミントランスポーター」の働きに異常があり、脳内のドーパミン量がもともと少ない傾向があるといわれているからです。

神経伝達物質とは、神経細胞の神経終末から少し離れた次の神経細胞へ信号を伝える働き(伝達)をしている物質です。

ドーパミンも信号の強さに応じて一定量、神経終末から次の神経細胞へ向けて分泌されるのですが、その過程において、どうしても次の神経細胞に受け取ってもらえず、使われないまま余ってしまうドーパミンが出てきます。

それらのドーパミンを無駄にしないように回収し、再利用するために元の神経細胞へ戻す働きをしているのがドーパミントランスポーターになります。

ただADHDでは、このドーパミントランスポーターが過剰に働いている傾向があるというのです。

ドーパミントランスポーターの働きが過剰になると、次の神経細胞に到達するはずのドーパミンもどんどん元の神経細胞に戻されてしまいます。

すると、脳内におけるドーパミンの「流通量」が少なくなってしまい、本来伝えられるべき信号が次の神経細胞に伝わりにくくなってしまいます。

そのため、全体的にドーパミンを介した神経伝達の作用が不十分になり、結果として様々な症状が生じると考えられているのです。

 

ドーパミンはどんな働きをしているの?

このドーパミンの働きを理解するためには、ドーパミンが不足することで生じる一連のパーキンソン症状を見るのが手っ取り早いかもしれません。

まず運動面における主なパーキンソン症状としては、無動や動作緩慢、固縮(筋肉のこわばり)、安静時振戦(手足の細かく震え)、姿勢反射障害、すり足、すくみ足、小刻み歩行、仮面様顔貌などが挙げられます。

これらの症状は、ドーパミンが不足することで運動神経ネットワークの働きがうまくいかなくなり、筋肉の力を抜くのが難しくなって筋肉がこわばったままになったりするので、身体をスムースに動かせなくなったり、バランスをとるのが難しくなって生じると考えられます。

精神面における主なパーキンソン症状としては、覚醒度の低下や思考緩慢、意欲低下、うつ、感情の平坦化、認知機能の低下といったものが挙げられます。

これらもドーパミンが不足することで、思考や意欲、感情、認知機能に関わる神経ネットワークがうまく働かなくなるために生じると考えられます。

つまりドーパミンは、このような一連の症状が起こるのとは逆の働きをしていると考えればいいのです。

このようにドーパミンは脳の神経細胞間の伝達という重要な働きをしていることから、運動面や精神面に限らず、あらゆる人間活動を遂行するうえで欠かせない存在になっています。

しかしADHDでは、この重要な働きをしているドーパミンの「流通量」がもともと少ない傾向があることから、結果的に「注意障害」や「覚醒度の低下」が生じやすくなっていると考えられるのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

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「認知症診療あれこれ見聞録」記事一覧

おかげさまで2019年6月から書き始めたこのブログも、もう少しで記事数が200に到達します。

当初は日々認知症外来で学んでいることを記録に残すとともに、「認知症」で苦しむ多くの人たちに少しでも役に立てばと考えて書き始めたブログですが、いざ文章を書こうとした時に自分では分かっているつもりだったことが実はあいまいで調べ直すことができたり、しっかり説明しようとしてあれこれ考えることが自分自身の理解や知識の整理につながったり、そうすることでさらに新たな疑問や気づきが生じたりと、いまではブログを通じて自分自身が受ける恩恵が一番大きいのではないかと思うようになりました。

また、書きたいけれども、うまくまとめられずに保留したままのテーマがたまっていく一方、日々の診療の中で新たに書きたいテーマが生まれてきたりするので、正直それらに追われているような気持ちになることもありますが、それでも自分なりに楽しんで書き続けてこれたと思っています。

これもすべてはこの拙いブログを読んでくださる皆さまがいらっしゃるおかげです。

自分にとっては皆さまが読んでくださることが大きな励みになっており、それがあったからこそ、これまで書き続けてくることができたのでしょう。

本当にありがとうございます。

まだまだ拙い文章で分かりにくい面もあるかと思いますが、これからもできるだけ分かりやすくなるよう心掛けていきますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

 

さて今回ですが、思い切ってこれまで書いてきた記事の一覧を作成してみました。

というのもこれまでに私自身、記事が増えてくるにつれ、過去の記事を振り返りたくてもすぐに目的の記事にたどり着くことができなくなり、それで何度かもどかしい思いをしてきたので、ずっとすべての記事の題名が同じページに記載された一覧があればいいなと思っていたからです。

ただ、いざ作り始めてみると結構大変な作業で、途中で何度かくじけそうになりましたが、それでも何とか完成させることができましたので、是非ともご活用いただければ幸いです。

この記事一覧は、定期的に更新していくつもりです。

それでは、今度ともよろしくお願いいたします。

 

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▽「認知症診療あれこれ見聞録」記事一覧(2021/3/31)

 

認知症診療あれこれ見聞録」を始めます! (記事)

 

多発する高齢者の自動車事故。本当に認知症の症状はなかったの?(前・後)

(前)(後)

 

「睡眠」が不十分だと認知症が発症・進行しやすくなる!?①~③

 

認知症予防につながる快眠習慣を持つために (記事)

 

やっぱり認知症で多い「寝言」「イビキ」「意識の変容」 (記事)

 

認知症の治療とケアがうまくいくためには (記事)

 

認知症を「悪く」させるには①~③

 

認知症の症状が急激に出現・悪化する時は①~③

 

認知症薬が症状を悪化させることがある!? (記事)

 

認知症治療のための投薬調整 (記事)

 

「便秘」が認知症を悪化させる!? (記事)

 

腸内細菌とエサを分け合って健康に! (記事)

 

「水溶性食物繊維」で腸内を「発酵」させよう! (記事)

 

人間の身体は食べた物からできている (記事)

 

脳と腸の密接な関係 (記事)

 

認知症になると甘いものが大好きになる!?①~④

 

認知症改善のために「糖質制限」を導入する際の留意点 (記事)

 

糖質制限」は「意識の変容」の改善に効果的!?①・②

 

「低栄養状態」が認知症を発症・進行させる!? (記事)

 

食事で効率良く栄養を摂るためには①~③

 

「リーキーガット」があると認知症になりやすくなる!?①・②

 

「リーキーガット」を予防・改善するには?①~⑬

 

こんな症状があったら認知症が疑われます【認知症チェックリスト】 (記事)

 

①手の使いにくさがあり、明らかな鏡像運動が出る【認知症チェックリスト】(前・後)

(前)(後)

 

認知症発達障害(前・後)

(前)(後)

 

②パーキンソニズム(パーキンソン症状)がある【認知症チェックリスト】(前・中・後)

(前)(中)(後)

 

③意識の変容があり、ボーッとしている時とはっきりしている時の波がある【認知症チェックリスト】 (記事)

 

④言葉の理解や発語がスムースでなかったり(失語)、人の顔や名所などが分からない(視覚性失認)【認知症チェックリスト】(前・後)

(前)(後)

 

睡眠障害レム睡眠行動異常・睡眠時無呼吸症候群)がある【認知症チェックリスト】(前・後)

(前)(後)

 

⑥自律神経障害がある【認知症チェックリスト】(前・後)

(前)(後)

 

前頭葉症状がある【認知症チェックリスト】(前・後)

(前)(後)

 

前頭葉症状と発達障害(前・後)

(前)(後)

 

⑧原因不明の手足の痛み・しびれ・違和感・むくみがある(特に左右差がある)【認知症チェックリスト】 (記事)

 

⑨焦燥感・不安感・うつ症状がある(ドクターショッピングをしている)【認知症チェックリスト】(前・後)

(前)(後)

 

発達障害傾向の強い方に特徴的な診療経過(前・中・後)

(前)(中)(後)

 

➉幻覚(幻視・幻聴・実体意識性など)や妄想がある【認知症チェックリスト】

(前)(後)

 

認知症チェックリスト】のまとめと使い方 (記事)

 

「もの忘れ」に間違われやすい「認知症」症状(前・後)

(前)(後)

 

「もの忘れ」を生じさせやすい「発達障害」の症状(前・後)

(前)(後)

 

「もの忘れ」を主訴に受診された「発達障害」傾向のある症例(その1~3)

(その1)(その2)(その3)

 

ASD(自閉症スペクトラム障害)とパーキンソン症状 (記事)

 

「パーキンソン症状」を主訴に受診された「発達障害」傾向のある症例(その1~3)

(その1)(その2)(その3)

 

パーキンソン症状を生じさせる疾患や原因 (記事)



認知症治療と薬剤性パーキンソニズム (記事)

 

認知症治療薬の副作用について (記事)

 

最も多いアルツハイマー認知症の診断について (記事)

 

レビー小体型認知症を知れば「認知症」が理解しやすくなる(1~4)

(1)(2)(3)(4)

 

睡眠薬」を長年使用していると「認知症」になりやすくなる!? (記事)

 

夜も昼も「夢」を消すのがレビー小体型認知症治療の第一歩(前・中・後)~レビー小体型認知症を知れば「認知症」が理解しやすくなる(5~7)~

(前・5)(中・6)(後・7)

 

睡眠を整えて「意識の変容」を改善させるための生活習慣~レビー小体型認知症を知れば「認知症」が理解しやすくなる(8)~ (記事・8)

 

「睡眠不足」は「認知症」への第一歩!(前・後)

(前)(後)

 

便秘になるとボーっとなって認知症症状が悪化する(前・後)~レビー小体型認知症を知れば「認知症」が理解しやすくなる(9~10)~

(前・9)(後・10)

 

「意識の変容」と「高齢者てんかん」の類似性(1~4)~「認知症」と「てんかん」~

(1)(2)(3)(4)

 

てんかん」から「認知症」を診る(1~9)~「認知症」と「てんかん」~

(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)

 

免疫力を強化して新型コロナと向き合おう(1~3)

(1)(2)(3)

 

ビタミンDが新型コロナ感染症の重症化を防ぐ可能性がある(1~10)

(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)

 

「お父さん!違うでしょ!」が症状を進行させる(1~21)

(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(13)(14)(15)(16)(17)(18)(19)(20)(21)

 

高齢者ほど「和式生活のススメ」(1~15)

(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(13)(14)(15)

 

まなざしによるケア(1~3)

(1)(2)(3)

 

「目」に表れる認知症の徴候(1~5)

(1)(2)(3)(4)(5)

 

便秘が認知症を悪化させる(1~8)

(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)

 

本当に「耳が遠い」だけですか?(1~7)

(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)

 

発達障害ともの忘れ(1~ )

(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)

 

<20210331現在>

 

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発達障害ともの忘れ(7)

前回は、20~50歳代で「もの忘れ」を主訴に当院を受診される発達障害の気質が強い人の場合、「ストレス」が原因でさらに「注意障害」が増悪し、その結果「もの忘れ」を訴えるのに至ったのではないかと考えられるケースがほとんどだというお話をしました。

これは「ストレス」が加わったことで、もともと低下している「注意の容量・ワーキングメモリ(作業記憶)」がさらに低下し、一度に処理できる情報容量が減ることで、本来入力されるはずの情報が入力されないために起こると考えられ、そのため「記憶」そのものが形成されていないので、厳密にいえば「もの忘れ」と表現するのは正確ではないというお話もしました。

今回はその続きになります。

 

発達障害の人は「覚醒度」が低下して「注意障害」が前景化する場合がある

前回まで、発達障害の気質が強い人が「もの忘れ」を訴えるようになるのは、何らかの原因でもともと有している「注意障害」が増悪してしまい、その結果、あたかも「もの忘れ」したかのようになるからではないかというお話をしましたが、実はもう一つ別の機序もあると考えています。

それが「覚醒度」が関与するものです。

ADHD注意欠陥多動性障害)をはじめとする発達障害の人は、もともと脳の活性が低く、その場その場の状況に応じて自分で覚醒度をコントロールするのが苦手な傾向があります。

これは脳の発達に偏りがあるからだと考えられていますが、覚醒度を適正な範囲に保てないと、当然ながら認知や思考、判断が適切に行えなくなったり、感情のコントロールもうまくいかなってしまいます。

そのため、ADHDでは二次的にさまざまな症状を出現させやすいのです。

ちなみに覚醒度が低いと「ボーッとしている」「他の人の話を理解できない」「眠ってしまう」「一見、ハイテンションになる(眠い子供が、妙にハイテンションになるのと同じ)」といった状態になったり、逆に覚醒度が高くなりすぎると「ハイテンションになる」「興奮する」「拒否的な言動になる」「不安感が増す」といった状態になってしまいます。

このように、ADHDでは覚醒度のコントロールがうまくいかないために、自分の行動を自制できずに多動になったり、不注意になったりすることがあるのです。

つまり、覚醒度が低下することで、もともと持ち合わせている「注意障害」が前景化し、そのために「もの忘れ」を訴えることもあり得るということです。

 

発達障害の人は「覚醒度」を保つうえで中心的な役割を果たす「前頭葉」機能が低下傾向にある

なぜ発達障害の人は覚醒度をコントロールするのが苦手なのでしょうか。

まず、覚醒度を適切なレベルに保つ主な脳内機序としては脳幹網様体賦活系」の働きが知られており、覚醒度のコントロールの他に、意識や注意、覚醒と睡眠リズムのコントロールにも関与するとされています。

この「脳幹網様体賦活系」の中軸をなすのは、「前脳基底部(前頭葉底面の後端)」とそこに興奮性の投射を送る「青斑核(橋の背側)前域」および「結合腕傍核(橋の背側)内側部」にある神経細胞の集合体であることが分かっています。

つまり「前頭葉」にある「前脳基底部」が、覚醒度のコントロールにおいて中心的な役割を担っているのです。

しかしADHDの人は、もともと「前頭葉」の機能が低下傾向にあるとされています。

ADHDを対象にした多くの研究において、脳神経の未熟さが指摘されており、年齢不相応の脳波が確認されたり、中枢神経系や小脳の発達が未熟で小さかったり、「前頭葉前頭前野の活性や血流が低下している」ことが示されているからです。

脳の血流量とその部位の機能は相関していることから、ADHDにおいて「前頭葉」の血流量が低下傾向にあるということは、「前頭葉」の機能も低下傾向にあるということになります。

そもそも「前頭葉」は意思や計画性、判断、創造、記憶、抑制、集中など、人間活動を営むうえでは欠かせない重要な働きをしています。

また「前頭葉」は、自らの言動を抑制して理性的にふるまうようセルフコントロールを促す部位でもあり、その人が社会生活を送っていくうえでも欠かせない働きをしています。

そのため「前頭葉」は非常に高度で複雑な働きをしているといえるのですが、実は一番最後に成熟する脳の部位でもあるため、発達障害の人は「前頭葉」が未成熟になりやすい傾向があるのです。

そして当然ながら、この「前頭葉」が未成熟で機能低下があることが、発達障害に特徴的な気質や特性の由縁にもなっているといえます。

このようにADHDの人では、覚醒度を適切なレベルに保つ脳幹網様体賦活系」の働きにおいて、中心的な役割を担う「前頭葉」が未成熟でその機能も低下傾向にあるため、覚醒度のコントロールがうまくいかず、「注意障害」をはじめとしたさまざまな症状を前景化させやすくなっているのです。

しかもこれはADHDの人だけに限ったことではありません。

前回までにもお話しした通り、発達障害の人は程度の差こそあれ、ASD(自閉症スペクトラム症)とADHDの両方の特性を併せ持つことが多いからです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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発達障害ともの忘れ(6)

前回は、「注意障害」があって「注意の容量」や「ワーキングメモリ(作業記憶)」が低下すると、その人が行っているあらゆる活動において、その作業効率や精度、スピードなどが下がりやすくなるということをお話ししました。

また、そもそも発達障害の気質が強い人には「心身の状態」や「周囲の環境」の変動に敏感で影響を受けやすいという特性があり、ちょっとした変動でも過敏に反応し「注意の容量」が低下しやすいというお話もしました。

今回はその続きになります。

 

「注意機能」を低下させている主要な要因は「ストレス」がほとんど

前回お話ししたように、「注意機能」の低下を招く要因としては、「心身の状態」や「周囲の環境」を変動させるものであれば何でもあり得ます。

しかし、私たちの経験上、20~50歳代で「もの忘れ」を主訴に当院を受診される発達障害の気質が強い人の場合、「注意機能」を低下させている主要な要因が「ストレス」であるということがほとんどなのです。

そもそも発達障害の気質が強い人たちは、精神的にも器質的にも「ストレス」に弱い傾向があります。

ASD(自閉症スペクトラム症)の特徴として「感覚過敏」や「執着性・常同行為」などがありますが、感覚が過敏であるがゆえに周囲の「変化」を鋭敏に察知して影響を受けやすく、また同じことをずっとやり続けることが得意な反面、いつもと違うことをするのが苦手なため、全般的に「変化」に弱い傾向があります。

つまり、ASDの人は、ちょっとした「変化」であっても大きな刺激として捉えてしまい、それが「ストレス」になってしまいやすく、さらにその「ストレス」の影響を受けやすいのです。

しかし、この「変化」に過敏で「ストレス」に弱いという特性は、実はASDの人に限ったものではありません。

発達障害の気質を持つ人というのは、ASDとADHD注意欠陥多動性障害)のどちらかの気質を単独で有しているというよりは、両者の気質を合併していることが多いからです。

つまり、発達障害の気質を持つ人というのは、全般的にASDの特性である「過敏性」と「ストレス」に弱い傾向も持ち合わせていやすいのです。

すると、ちょっとしたことでも「ストレス」になって「注意障害」を増悪させやすいことから、そのような人では「注意障害」が前景化して「もの忘れ」を訴えるようになることも十分にあり得るということです。

そのため当院では、「注意障害」が原因の「もの忘れ」が疑われる場合には必ず「最近、生活で何か変わったことがありませんでしたか?」と本人や家族に確認するようにしています。

すると大抵の場合、「生活環境の急激な変化」や「体調不良」、「人間関係がうまくいっていない」など、本人にとって「ストレス」になり得る出来事があったりします。

そのような場合には「ストレス」が原因で「注意障害」が増悪し、「もの忘れ」を訴えるのに至ったのではないかと考えられるのです。

 

「注意障害」が増悪すると、なぜ「もの忘れ」を訴えることがあるのか?

では、なぜ発達障害の気質が強い人では「注意障害」の増悪によって「もの忘れ」を訴えることがあるのでしょうか。

このような「もの忘れ」を主訴に当院を受診される人たちは、もともと「注意の容量」もしくは「ワーキングメモリ(作業記憶」が低下している中でも、何とか仕事や家事などをこなして日常生活を送っていたのだと思われます。

しかし、そこに何らかの「ストレス」が加わったことで「注意の容量・ワーキングメモリ(作業記憶」がさらに低下し、一度に処理できる情報容量が、生活に支障が出るレベルまで減ってしまったと考えられるのです。

処理能力を超えた分の情報はどうなるかといえば、いわば「スルー」されて入ってこなくなったり、操作できなくなってしまいます。

すると、表面上は一見普通に会話したり、何か作業をしているようでも、実は本人は「うわの空」になっていて、外部からの情報が本人には入っていないばかりか、自分が行っていることでさえも把握できていなかったりするのです。

当然、その間に何か作業をしていれば、ミスが増えたり、作業効率が落ちることになります。

すると本人は「最近、前はやらなかったようなミスをするようになった」「やらなければいけない約束事や仕事がすっぽり抜けてしまう」「何かをしている時に別のことを頼まれると、もともとしていたことをすっかり忘れてしまったりする」などと訴えて受診されてくるのです。

そして周りの人も、確かにやりとりしたはずなのに、本人が「覚えていない」ということを何度か経験するうちに、「忘れっぽくなった」と思ってしまうわけです。

このようなことから、本人も周りの人もこれらの症状を「もの忘れ」と表現してくるのですが、実際のところ「もの忘れ」と表現するのは正確ではありません。

「忘れる」というのは、一度情報が入力されて「記憶」として保持されたものが失われることをいうからです。

しかし、実際には「注意障害」の増悪によって、そもそも情報が入力されておらず「記憶」そのものがしっかり形成されていないために、本人が「覚えていない」だけなのです。

つまり「もの忘れ」という「記憶障害」が原因なのではなく、「注意障害」が原因で起こった症状だということです。

しかし、「注意障害」が原因であるということを本人が自覚するのはなかなか難しく、周りにいる人にも気付かれにくいので、てっきり「もの忘れ」が出てきたものと勘違いされやすいのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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発達障害ともの忘れ(5)

前回は、発達障害の気質が強い人の「もの忘れ」は認知症疾患が原因でないことが多く、その原因として私たちは「注意機能」と「覚醒度」の関与を考えているというお話をしました。

そして、発達障害傾向の人が合併していることが多い「注意障害」の理解を深めるうえで、まずは「注意機能」は5つの機能に分けられるというお話ししました。

今回はその続きになります。

 

「注意障害」による「注意の容量」と「ワーキングメモリ(作業記憶)」の低下

「注意障害」は、前回お話ししたように「注意機能」の「選択性」「持続性」「転導性」「多方向性」「容量」の5つの機能が単独もしくは重複して低下することで生じます。

この5つの機能の中で「容量」とは、前回「目的に応じて注意の配分をバランスよく保つ機能」であると説明しましたが、これは同時に「その人が外界からの刺激を一度に明瞭化できる意識の範囲」であるともいえます。

この「注意の容量」は、「記憶」の視点から見れば「その人が明瞭に意識することで一時的に保持しながら操作できる情報量」に相当し、「ワーキングメモリ(作業記憶)」と呼ばれます。

つまり「ワーキングメモリ(作業記憶)」とは「一時的な記憶の容量」のことであり、「注意の容量」とほぼ同一のものと考えられます。

この「ワーキングメモリ(作業記憶)」で操作できる情報量、つまり「注意の容量」は、正常な人の場合では「7±2」とされており、言葉なら5~9語、数字なら5~9桁ほどになります。

しかし「注意障害」があると、この「注意の容量」が低下することで、一度に注意を向けて処理できる情報量が少なくなってしまうため、結果的に新たな情報を得る効率が悪化したり、長い会話や文章などの理解が不十分になったり、同時に複数のことを上手くこなせなくなったりするのです。

人は生活していく中で、実は「複数のことを同時に行う」ことが日常的に要求されています。

皆さんも普段の生活の中で、意識的にも無意識的にも、おそらく常に何かを考えたり、何か別なことを気に掛けながら仕事や家事などをこなしているのではないでしょうか。

そしてその際、同時に行うことができる活動数(身体活動・精神活動ともに)というのは、当然ながらその人が持つ「注意の容量」の範囲内になるはずです。

そのため「注意の容量」の大きい人は、同じ作業をしていても、同時により多くの処理を行うことができるので、作業の効率や精度、スピードが上がりやすくなります。

反対に「注意の容量」が低下している人では、何気なく行っている日常的な活動はもちろん、その人が行っているあらゆる活動において、その作業効率や精度、スピードなどが下がりやすくなります。

そのため「注意の容量」が低下することで、「物を失くしたり忘れ物することが多く、大事な書類や約束なども忘れてしまう」「集中力が続かず、周りの音などですぐに気が散ってしまう」「何かをやりかけたまま別のことを始める」「片付けや整理整頓が苦手」「人が話をしていてもボーっとして聞いていないように見える」といったことが起こりやすくなるのです。

これらは発達障害の気質がある人によく見られる特徴ですが、そうなるのは、発達障害の傾向が強い人はもともと「注意障害」の合併によって「注意の容量」が低下していることが多いからだと思われます。

 

「注意の容量」を低下させる要因は?

「注意の容量」はパソコンでいえば、一度に処理できる情報容量を表す「メモリ」に相当します。

パソコンも連続して長時間使っていると、作業履歴が膨大になっていわゆる「動きが重くなる」ことがありますが、基本的に余程のことでもない限り「メモリ」が変動することはありません。

しかし、人間の場合、「注意の容量」は「心身の状態」や「周囲の環境」などの変化によって、容易に変動してしまいます。

普通の人でも、例えば体調が悪い時や心配事や気になることがある時、憂鬱な時、周囲が騒がしくて落ち着かない時、暑い時などには、どうしても集中力が低下して注意散漫になりやすくなるのではないでしょうか。

すると、あちこちに注意がいきがちになり、何か仕事をしていても「あれっ?今何をしていたんだっけ?」といったことや、何か物を取りに来たはずなのに「あれっ?何をしに来たんだっけ?」といったことが起こったりします。

皆さんもきっとこのような経験をしたことがあるのではないでしょうか。

つまり、このようなことが起こる原因のひとつに「注意の容量」の低下があるということであり、「心身の状態」や「周囲の環境」に変化をもたらすものであれば何でも、その人の「注意の容量」を変動させる要因になり得るということです。

そうでなくても発達障害の気質が強い人は、もともと「注意の容量」が低下している傾向があります。

すると、「心身の状態」や「周囲の環境」の変化によってさらに「注意の容量」が低下することで、それまでできていた仕事や作業が途端にできなくなるということも十分起こり得るのです。

なぜなら、その仕事や作業の実行に必要な「注意の容量」の水準をギリギリで保っていたとすれば、たとえ「注意の容量」の低下が少しだけだったとしても、容易にその水準を下回ってしまうことになるからです。

さらに、そもそも発達障害の気質が強い人には「心身の状態」や「周囲の環境」の変動に敏感で影響を受けやすいという特性があり、ちょっとした変動でも過敏に反応してしまう傾向があります。

そのため、普通の人では気付かないようなちょっとした「心身の状態」や「周囲の環境」の変化であっても、すぐにその影響を受けてしまい「注意の容量」が低下しやすいのです。

すると「注意の容量」をベースにした「注意機能」の低下が前景化しやすくなり、そのために発達障害の気質が強い人では、生活に支障をきたすようなさまざまな症状も出現しやすくなるのですが、その症状のひとつにいわゆる「もの忘れ」もあるのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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発達障害ともの忘れ(4)

前回は、アルツハイマー認知症の発生機序に関する「ミエリン仮説」について少し詳しくお話ししました。

そのうえで、発達障害の人が有する「神経軸索の髄鞘化機能の低下」という特性と、アルツハイマー認知症の発生機序には「脱髄」と「再ミエリン化不全」が深く関与しているとする「ミエリン仮説」は、いずれもその病理学的背景が大きく共通していることから、もし「ミエリン仮説」が正しいとすれば、発達障害の人がもの忘れを発症しやすいのも納得がいくというお話をしました。

今回はその続きになります。

 

発達障害の気質が強い人の「もの忘れ」は認知症疾患が原因でないことが多い

20~50歳代でも「もの忘れ」を主訴に当院を受診される人がいますが、そういった人たちには共通して発達障害の気質が色濃く認められます。

それらの症例については今後紹介していくつもりですが、彼らは「もの忘れ」の病態について、私たちに色々な示唆を与えてくれます。

主訴に「もの忘れ」があるので、念のため若年性の認知症疾患を疑っていくつかの検査をするのですが、長谷川式認知症スケール(HDS-R)はほぼ満点であり、頭部MRI検査や脳血流シンチグラフィー(SPECT)検査を実施しても、例えばアルツハイマー認知症で認められるような海馬の萎縮や後部帯状回、楔前部、頭頂葉の血流低下といった所見が認められないということがほとんどだからです。

また「もの忘れ」を呈する疾患というのは、実は認知症疾患の他にも多くあるため、それらについても確認していくのですが、それでも異常がなかったりするのです。

ちなみに認知症を呈する代表的な原因疾患には、以下のようなものがあります。

 

認知症を呈する代表的な原因疾患】

1.神経変性疾患

アルツハイマー認知症レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症ハンチントン病、嗜銀顆粒性認知症、神経原線維変化型老年期認知症など

2.脳血管障害

脳梗塞脳出血といった、脳血管障害(脳卒中)による脳血管性認知症など

3.外傷性疾患

脳挫傷、慢性硬膜下血腫など

4.脳腫瘍

脳腫瘍(原発性、転移性)、癌性髄膜症

5.感染症

髄膜炎脳炎、脳膿瘍、神経梅毒、クロイツフェルト・ヤコブ病など

6.代謝・栄養障害

アルコール依存症・肝不全(=肝性脳症)、ビタミンB1欠乏症、ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏症、など

7.内分泌疾患

甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、副腎皮質機能低下症、反復性低血糖など

8.中毒性疾患

薬物中毒(向精神薬抗癌剤、抗痙攣薬など)、一酸化炭素中毒、金属中毒(水銀、マンガン、鉛など)

9.膠原病

ベーチェット病、シェーグレン症候群など

10.その他

特発性正常圧水頭症、慢性呼吸不全、その他

 

上記の「1.神経変性疾患」と「2.脳血管障害」を除いたこれらの疾患の中には、治療できるものが多く含まれています。

そのような疾患では、病状の進行に伴ってあくまで二次的に認知症様の症状が出現したり、前景化しているため、大もとの疾患を治療できれば、認知症様の症状も改善できることが多いのです。

そのため、これらは「Treatable Dementia(=治る認知症)」とも呼ばれています。

このような「Treatable Dementia」の中でも、当院では「甲状腺機能低下症」や「ビタミンB12欠乏症」、「葉酸欠乏症」などにはよく遭遇しますし、これらを治療することによって認知症の症状が劇的に改善するということも繰り返し経験しています。

そのため、当院では「症状の原因となっている病気は何なのか」を、まずはしっかり診断することを心掛けています。

また、上記した疾患の一覧には含まれていませんが、「貧血」や「脱水」なども認知症の症状を引き出したり、急激に悪化させることがあるため、受診時には家族の話や全身状態をしっかり確認するようにしています。

しかし、20~50歳代で「もの忘れ」を主訴に受診される発達障害の気質が強い人たちは、しっかり検査や診察を行っても、認知症疾患や上記したような疾患ではないことがほとんどなのです。

では、どうして彼らは「もの忘れ」を訴えて受診されてくるのでしょうか。

この疑問を解くカギは「注意機能」と「覚醒度」にあるのではないかと、私たちは考えています。

 

発達障害の気質が強い人は「注意障害」を合併していることが多い

前述したように、「もの忘れ」を主訴に当院を受診される比較的若い年代の人たちは、発達障害の気質を色濃く持っていることが多いのですが、ここでいう発達障害とは「自閉症スペクトラム症(ASD)」と「注意欠陥多動性障害ADHD)」の2つを指しています。

そのためここで「発達障害で『注意機能』に問題がある群は?」と聞かれれば、当然ADHDの方を思い浮かべると思います。

しかしこれも前述したように、発達障害の気質を持つ人は、ASDとADHDのどちらかの気質を単独で有しているというよりは、両者の気質を合併していることがほとんどであり、そのうえで、両者の気質が出ていたり、どちらか要素が強い方の気質が前面に出ていることが多いため、一見ASD気質の強い人でも、実はADHD気質も合併していて「注意機能」に何かしらの「弱さ」を持っていることが多いのです。

では、一旦ここで「注意機能」について整理してみたいと思います。

「注意機能」とは、次の5つの機能をまとめたものになります。

①選択性:複数の刺激の中から特定の対象に注意を向ける機能。

②持続性:特定の対象に振り向けた注意を一定時間持続させ、注意を集中し続ける機能。

③転導性:特定の対象に注意を向けつつ、必要に応じて他の刺激にも注意を向ける機能。

④多方向性:まんべんなく色々な対象に注意を向ける機能。

⑤容量:目的に応じて注意の配分をバランスよく保つ機能。

これらの機能に何らかの問題があると「注意障害」があるとされ、「注意障害」がある場合には、これらの5つの機能がそれぞれ程度の差はあれ、単独もしくは重複して障害されています。

例えば、複数の刺激の中から特定の対象や課題だけにうまく注意を向けられない「注意選択の障害」、特定の対象に注意を向けられても、注意を集中し続けることができない「注意集中困難・注意の持続の障害」、注意が他へ逸れやすく、それまでの流れやその場と関係のない刺激に引き込まれやすくなる「注意転導性の亢進」といった症状が出現します。

また、より高度で複雑な注意機能を要するとされる、ある刺激から他の刺激に注意を切り替えることができない「注意転換の障害・注意の固着」、2つ以上の刺激に対して同時に注意を配り続けることができない「注意分配の障害」といった症状も出現します。

これらの症状は、発達障害の人の特徴や認知症の症状としてよく見られる「1つのことに執着しやすい」「1つのことをずっとやり続けることができる」「複数のことを同時に行うのが苦手」といったものと深く関連しているのではないかと思われます。

いずれにしても、発達障害の気質を持つ人というのは、そもそもこのような「注意障害」を合併していることが多いのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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