認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

2020-01-01から1年間の記事一覧

本当に「耳が遠い」だけですか?(3)

前回は、「失語」があるといわゆる「都合耳」になりやすいということと、電話が苦手になりやすいということをお話ししました。 今回はその続きになります。 言葉の意味が分からなくても、本人はそれを隠すことが多い おそらく皆さんも誰かを話してる時に、相…

本当に「耳が遠い」だけですか?(2)

前回は、「意味性認知症」についてご紹介し、その主要な症状である「失語」症状が「難聴」と間違われやすいことと、「失語」症状は少しずつ進行していくために「意味性認知症」はある程度進行するまで、周りの人たちには気付かれにくいということをお話しし…

本当に「耳が遠い」だけですか?(1)

「意味性認知症」をご存じですか? 最近、当院ではなぜか「意味性認知症(Semantic Dementia:SD)」と診断される患者さんが多いのですが、皆さんは「意味性認知症」という病名を聞いたことがあるでしょうか? 「意味性認知症」は、我が国…

「目」に表れる認知症の徴候(5)

前回は、心の動きや頭の働きは「目」の動きと連動していることと、自閉症スペクトラム症の気質も「目」に表れることについてお話ししました。 今回はその続きになります。 眠っていても、まぶたごしに「目」が動いているのは脳が活動している証拠 前回までは…

「目」に表れる認知症の徴候(4)

前回は、「目」の動きが制限されたり、指などをしっかり追視できなくなるのも認知症を伴う神経変性疾患の症状であるというお話をしました。 今回はその続きになります。 心の動きや頭の働きは「目」の動きと連動している 心がきれいな子供の「目」はとても澄…

「目」に表れる認知症の徴候(3)

前回は「目」に表れるパーキンソン症状についてと、認知症になると「目」の動きが悪くなりやすいことについてお話ししました 今回はその続きになります。 「目」が上下に動きづらくなるのが進行性核上性麻痺 脳の神経障害によって眼球運動が障害される主要な…

「目」に表れる認知症の徴候(2)

前回は、認知症疾患で高頻度に合併する「意識の変容」が疑われる「目の表情」についてお話ししました。 今回はその続きになります。 「目」に表れるパーキンソン症状 当院を受診されるほとんどの認知症患者さんがパーキンソン症状を合併されています。 パー…

「目」に表れる認知症の徴候(1)

認知症があるかどうかは「目」からも気付ける 前回までの「まなざしによるケア」では、「まなざしには人を癒す大きな力が秘められている」というお話をしました。 また「目は口ほどに物をいう」というように、人は「目」という「心の窓」を通して「心の動き…

まなざしによるケア(3)

前回は、認知症の人にとって、相手が「自分の目を見てくれないこと」は大きなストレスになるため、「目を見ない」応対は認知症の病状を悪化させたり、進行させかねないというお話をしました。 さらに「メラビアンの法則」によれば、コミュニケーションにおい…

まなざしによるケア(2)

前回は、まず認知症の人は相手の表情や態度に意外と敏感であるというお話をしました。 それは、失語症状が出て相手が何を言っているのか分からなかったり、自分の置かれている状況が分からないと、会話をしている相手や周りにいる人たちの表情などから、必死…

まなざしによるケア(1)

認知症の人は相手の表情や態度に敏感である みなさんは認知症の人と接する時に、しっかり相手の目を見ているでしょうか。 「認知症の人だから・・・」と、あまりそんなことには気を払わずに接している人も多いかもしれません。 以前は私もそれほど意識はしてい…

高齢者ほど「和式生活のススメ」(15)

前回は、「寝たきり」状態から回復された高齢者に共通していたのは、「できるだけ早期からトイレの使用を始めていた」ことと、「『絶対に良くなる!』という気持ちを持ち続けていた」ことであるというお話をしました。 そして「できるだけ早期からトイレの使…

高齢者ほど「和式生活のススメ」(14)

前回は、「和式生活」を導入することで「床上動作」を通じて日常的に全身の筋力を鍛えられるようになるため、「和式生活」は認知症高齢者の身体活動を活発にする選択肢としても十分考えられるというお話をしました。 そして実際に、日常的な「床上動作」が動…

高齢者ほど「和式生活のススメ」(13)

前回は、高齢者やパーキンソン症候群のある人ではお尻の筋肉が衰えやすく、お尻の筋肉が衰えてくると、歩く時に腰や膝が曲がった姿勢になって、すり足や小刻み歩行、動作緩慢などの「パーキンソン症候群」が増強しやすくなったり、さらには腰痛や膝痛、首痛…

高齢者ほど「和式生活のススメ」(12)

前回は、入院で体力が落ちた施設入所者が退院して施設の生活に戻ると、基本的に他の入居者さんと同じように全体の予定に合わせて毎日生活するようになるため、半ば強制的に必要な「生活動作」を繰り返し行うようになって、いつの間にか入院前の身体状態まで…

高齢者ほど「和式生活のススメ」(11)

前回は、リハビリを効果的に進めていくには「負荷量」の設定が大事であり、本人ができるかできないかのギリギリの「負荷量」で動作・運動していけばいくほど、得られるリハビリ効果が大きくなるというお話をしました。 その点、床からの立ち座り動作に代表さ…

高齢者ほど「和式生活のススメ」(10)

前回は、「床上動作」は認知症高齢者で衰えやすい「股関節周囲筋群」や「下部体幹筋群」を鍛えてくれるため、専門のリハビリスタッフも「床上動作」を利用した運動療法をよく実施しているというお話をしました。 そして、実際に専門のリハビリスタッフが行う…

高齢者ほど「和式生活のススメ」(9)

前回は、高齢者や認知症の人にとって有効な「生活動作」活用したリハビリの具体例を、それらによって「期待できる主な効果」とともに6つご紹介しました。 今回はその続きになります。 「床上動作」は認知症高齢者で衰えやすい筋群を鍛えてくれる 和式生活で…

高齢者ほど「和式生活のススメ」(8)

前回は、そもそも体力が落ちている高齢者では、身体に負荷がかかるような運動を長い時間行うのはなかなか難しいため、高齢者にリハビリを実施する際のキーワードは「低負荷・少量・頻回」になるけれども、そのような「低負荷・少量・頻回」のリハビリとして…

高齢者ほど「和式生活のススメ」(7)

前回は、高齢者では生活が不活発になると「廃用症候群」が少しずつ進行していき、それによってさらに生活が不活発になって「廃用症候群」も進行していくという「負のスパイラル」に陥りやすいため、もしそんな状態に陥ってしまったら、できるだけ早く「負の…

高齢者ほど「和式生活のススメ」(6)

前回は、何らかの原因があって過度の安静を強いられたり、日常生活の不活発や心身機能の不使用によって二次的に引き起こされる「廃用症候群」は高齢者で生じやすいけれども、これは自宅で自立した生活を送っている高齢者であっても、何らかのきっかけで生活…

高齢者ほど「和式生活のススメ」(5)

前回は「使わない機能は衰える」ことの分かりやすい例として、しゃがんだ姿勢を楽にとれない人が増えてきているけれども、これは今では洋式トイレが主流になって和式トイレを使う機会が減ってしまったことが影響しているのではないかというお話をしました。 …

高齢者ほど「和式生活のススメ」(4)

前回は、和式生活からベッドや椅子を使う洋式の生活様式に切り替わると、生活の中で床から立ち座りする機会が減ってしまい、全身の運動機能が低下しかねないというお話をしました。 実は床からの立ち座り動作というのは全身の筋力やバランス機能を多く使うた…

高齢者ほど「和式生活のススメ」(3)

前回は、人間にはもともと「神経系が環境に応じて最適の処理システムを作り上げるために、よく使われるニューロンの回路の処理効率を高め、使われない回路の効率を下げる」という「脳の可塑性」が備わっていて、「よく使う機能は強化され、使わない機能は衰…

高齢者ほど「和式生活のススメ」(2)

前回は、和式の生活様式は確かに不便で、人によっては身体に負担がかかる面があるため、高齢者では安全面を考えて洋式の生活に切り替えるケースが多いけれども、実は身体の健康維持にとって効果的な面もあるということをお話ししました。 今回はその続きにな…

高齢者ほど「和式生活のススメ」(1)

和式の生活様式は身体の健康維持にも効果的な面がある 昭和、平成、令和へと時代が移り変わるにつれ、この数十年で日本人の生活様式は大きく変わってきました。 昔は家に畳があるのが当たり前で、家族みんなで茶の間に座ってテレビを観たり、食事をしたり、…

「お父さん!違うでしょ!」が症状を進行させる(21)

前回は、通所サービスのメリットをまとめてみましたが、認知症治療において患者さんには生活の中で改めていってほしい課題があることが多く、それらの課題は患者さんによってもちろん違うけれども、内容は大体決まっており、いずれも通所サービスの導入によ…

「お父さん!違うでしょ!」が症状を進行させる(20)

前回は、認知症患者さんに通所サービスを導入できるかどうかが、その後の病状経過や人生において大きな分岐点になると言えるほど、認知症治療においては、通所サービスの導入によって得られる効果は大きいが、初めから喜んで通ってくれるような方はほとんど…

「お父さん!違うでしょ!」が症状を進行させる(19)

▼「お父さん!違うでしょ!」が症状を進行させる(19) 前回は、認知症の治療を進めていくうえでは、家族の協力が不可欠であり、家族が健康でいることが認知症治療の「土台」になるとも言えるため、もし介護ストレスなどで家族が心身のバランスを崩してい…

「お父さん!違うでしょ!」が症状を進行させる(18)

前回は、治療に難渋する家族に共通する傾向として、診察では悪いことばかり強調して良いことは話さなかったり、また医療従事者が熱心に応対してもなかなか話が通じなかったり急に来院しなくなることもあるということをお話ししました。 そのためあらかじめそ…