認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

高齢者ほど「和式生活のススメ」(14)

前回は、「和式生活」を導入することで「床上動作」を通じて日常的に全身の筋力を鍛えられるようになるため、「和式生活」は認知症高齢者の身体活動を活発にする選択肢としても十分考えられるというお話をしました。

そして実際に、日常的な「床上動作」が動作能力を飛躍的に回復させた認知症高齢者の症例についてご紹介いたしました。

今回はその続きになります。

 

「寝たきり」状態から回復された高齢者に共通していたこと

認知症のある高齢者が、ケガや病気などで入院して一旦身体状態が低下してしまうと、そこから回復するのはなかなか難しく、そのまま寝たきりになってしまったり、認知症がどんどん進行していってしまうということがよくあります。

これは入院によって安静を強いられ、心身ともに不活発な状態が一定期間続いてしまうと、それが引き金になって「廃用症候群」の「負のスパイラル」が回り出し、高齢者にとってはそこから抜け出すのが容易ではないからだというのは、これまでお話ししてきた通りです。

しかも心身ともに、いわばギリギリの状態で何とか生活しているような認知症高齢者では、ちょっとした心身機能の低下が、それまでの生活を継続困難にさせかねません。

そのため、とりわけ認知症のある高齢者にとっては、心身ともに活動的な生活を保つことで「廃用症候群」の発症を予防する、ということが一番大事なことになります。

しかし、入院してほぼ「寝たきり」状態になった高齢者が、認知症の有無に限らず、身の回りのことができるようになったり、歩けるまでに回復できたという症例も、全体的に見ればわずかですが、少なからず経験しています。

認知症がある場合では、前回ご紹介した症例のように多動で落ち着かなくなっていたり、または痛みを感じにくくなっていたりすることで、日常的に身体活動量が増えて、結果的に歩けるようになったという方も何人かいらっしゃいます。

ただ今回お話ししたいのは、認知症がない、もしくは認知症があったとしてもごく軽度の高齢者で、ほぼ「寝たきり」の状態から回復された皆さんには、どのような点が共通していたかということです。

それは何だったのかといいますと「できるだけ早期からトイレの使用を始めていた」ということと、「『絶対に良くなる!』という気持ちを持ち続けていた」ということでした。

では、なぜこれらがあることで回復できたのでしょうか。

考えられる理由について、次にお話ししていこうと思います。

 

「できるだけ早期からトイレの使用を始めていた」ことで

ケガや病気で入院すると、治療のためにはもちろん、痛みがあったり身体の具合が悪かったりして、どうしてもベッド上で安静を強いられることになります。

すると当然のことですが、ベッド上安静でいる期間が長くなるほど「廃用症候群」が発症・進行しやすくなり、「寝たきり」状態から脱却したり、大きく回復することが難しくなっていきます。

そのためだと思いますが、まず「寝たきり」状態から回復された皆さんに共通しているのは、ベッド上安静でいる期間を可能な限り短くしていたということです。

入院して「寝たきり」を強いられる場合、身体の状態や治療のために、トイレで排泄できずにオムツやバルーンを使用せざるを得ないという場合が多くあります。

しかし、主治医の許可が出たらすぐに、もしくはどうしてもオムツをつけるのが嫌でどんなに具合が悪かったり、強い痛みがあったとしても、とにかく介助をお願いしながらでもトイレを使用するようにしていたという人がほとんどなのです。

トイレを使用するようになると、「寝たきり」状態に比べて身体活動量が一気に増加します。

そのため、丸1日ベッド上で「寝たきり」でいる状態と、1日1回でも身体を起こして、しかも立位になる機会がある状態とでは「廃用症候群」の進み方に雲泥の差が出てくるのです。

また、地球上にいる生物はすべて「重力」という大きな負荷の中で暮らしていかねばなりません。

これは人間とっても同様で、私たちが生活を営んでいくためには、いかに「重力」に抵って身体を動かせるかということが、常に大きな課題になっています。

そして、人間の身体を「重力」に抵って支えたり、動かしていく上で大きな役割を果たしているのが「抗重力筋群」になります。

そのため、「廃用症候群」の予防やそこからの回復のためには、「抗重力筋群」をいかに働かせて鍛えることができるかということが一番大事になるのです。

当たり前のことですが、「抗重力筋群」を活動さえて鍛えるためには、体幹や下肢に自分の体重を「荷重する」ということが不可欠になります。

つまり、生活の中でいかに「起きて」「立つ」機会を持てるかということです。

身体を起こせば体幹を支えようと、自然に体幹の「抗重力筋群」が働いてくれます。

立てば身体全体を支えようと、自然に体幹と下肢の「抗重力筋群」が働いてくれます。

そのため、トイレを使うようになれば、この大事な「起きて」「立つ」という機会が、生活の中で自然に確保されることになるため、「抗重力筋群」の維持や筋力向上がしやすくなるのです。

したがって、「寝たきり」状態から回復された高齢者の皆さんにとっては、まさしく「早期からのトイレ使用が回復への『命綱』だった」とも言えるのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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