前回は、「寝たきり」状態から回復された高齢者に共通していたのは、「できるだけ早期からトイレの使用を始めていた」ことと、「『絶対に良くなる!』という気持ちを持ち続けていた」ことであるというお話をしました。
そして「できるだけ早期からトイレの使用を始めていた」ことが回復に結びついた理由として、「廃用症候群」の予防や、そこからの回復にとって一番のカギになるのは、身体を起こしたり、立つことで「抗重力筋群」をいかに活動させられるかということであり、トイレを使うようになれば、この大事な「起きて」「立つ」という機会が、自然に生活の中に確保されるようになるからでしょうとお話ししました。
今回はその続きになります。
オムツの弊害は精神面にも及ぶ
前回お話ししたように、オムツを使うようになると、トイレを使わなくなることで、生活の中で起きたり、立ったりする機会が一気に減ってしまい、そのために全身の抗重力筋群が活動する機会も激減して「廃用症候群」を発症・進行させやすくなってしまいます。
しかし、オムツを使うことの弊害は、身体面に対するものばかりではありません。
皆さんは成人してから、オムツをつけてそこに排泄した経験があるでしょうか。
ある医療機関では、新人スタッフの教育プログラムの1つとして、患者さんの気持ちを体感するために、一晩オムツをつけて体験入院してもらうということを実施していました。
すると、なかなかオムツの中に排泄できないという人が続出したそうです。
それでも患者さんの気持ちを体感するために、頑張ってオムツの中に排泄してもらうようにすると、体験した全員が「こんなに苦痛なことはない!」という感想を持ったそうです。
見落としがちなことなのかもしれませんが、そもそもオムツをつけてそこに排泄するということには、大きな精神的苦痛を伴うのです。
それを一晩だけならまだしも、入院患者さんの多くが長期間オムツへの排泄を余儀なくされているというのが現状です。
では、そのような患者さんは実際、どのような気持ちで過ごしているのでしょうか。
おそらく「普通の感覚」のままでいたら、精神的な苦痛が大きくなってしまうため、防衛本能的に多くの人がいわば「気持ちを鈍感にして」過ごしているのではないかと思います。
するとそれに付随して、他の色々なことに対しても「無関心」になったり、「あきらめてしまう」傾向が出てきてしまい、これがいわば「心の廃用症候群」をも招いてしまいかねないのです。
したがって、オムツの弊害は身体面だけにとどまらず精神面にも及んでしまうと言えます。
回復された人は「絶対に良くなる!」という気持ちを持ち続けていた
前回ご紹介した通り、もう1つ「寝たきり」の状態から回復された高齢者の皆さんに共通していたことは、最後まで「絶対に良くなる!」という気持ちを強く持ち続けていたということです。
やはりまずは「気持ち」が大事なんだと思います。
しかし、ずっと前向きな気持ちを持続させていくというのはとても難しいものです。
とりわけ身体の自由がきかないような高齢者だったら、それはなおさらではないでしょうか。
そんな困難を乗り越えて回復された高齢者の皆さんが共通して「できるだけオムツを使わずにトイレを使っていた」というのは、この「オムツによって心が受ける悪影響を最小限にしていた」ということもあったからではないかと思います。
自分のことや周りのことに鈍感になったり、無関心にさせてしまうような、さらには前向きな気持ちも萎えさせてしまうような「オムツの弊害」から可能な限り「免れていた」ということです。
そんなこともあって「絶対に良くなる!」という気持ちを最後まで持ち続けることができたのではないでしょうか。
前向きな気持ちを持ち続けるためには
ただ回復には、年単位の期間を要することも少なくありません。
そうすると、前向きな気持ちを持続させるのがさらに難しくなります。
それでも前向きな気持ちを持ち続けることができたのは、本人に「どうしてもやりたいことがあったから」というケースも多いのです。
ただ単に「良くなりたい」と思うよりも、「歩けるようになりたい」「家に帰りたい」「家族と暮らしたい」「子供の世話をしたい」「趣味や仕事をやりたい」といった具体的な目標があった方が、回復へのモチベーションを維持しやすくなるからではないかと思います。
さらに「具体的で小さな目標を重ねていく」ということも大事になります。
例えば「車椅子に座っていられるようになる」「自分で食事が食べられるようになる」「10秒間立っていられる」「居室の入り口からベッドまで歩けるようになる」など、少し頑張れば実現できそうな短期目標をこまめに設定していくのです。
はじめから大きな目標ばかりを追っていたら、なかなか報われずにやる気が落ちたり、息切れしやすくなってしまうからからです。
そして1つ1つ小さな目標を達成していきながら、その都度周りの人たちと喜びを共有するのです。
これはやる気を上げたり、前向きな気持ちを持続させていくには非常に有効です。
もちろんそのためには、家族や医療・介護保険スタッフなど、周りにいる人たちの協力が欠かせません。
「回復へ道のり」は、周りの人たちとの「協同事業」であるとも言えるでしょう。
認知症がある人だったらなおさらですが、高齢者が心身ともに回復していくためには「頑張るのは本人ではなく、周りにいる人たち」である場合がほとんどだからです。
「声掛け」だけでも良いのです。
本人に運動や動作を促したり、励ましたりすることはもちろん、良くなった点があれば「ここが良くなりましたね!」と是非本人に伝えてあげてください。
良くなっても、本人が気付かない場合が非常に多いからです。
そして「すごいですね!」「良かったですね!」とこちらが驚いたり喜んだりすると、それが励みになって本人はますます「頑張ろう!」と思ってくれます。
しかし同時に「頑張りすぎない」「頑張らせすぎない」ということも大事になります。
日によって当然体調や意欲は波を打ちますし、なかなかうまくいかないということもあるでしょう。
そのたびに一喜一憂していたら疲れてしまって、長続きしなくなります。
調子の良い時に頑張ればいいのであって、調子が悪い時には休んでもいいのです。
時に2~3日休んだとしても、決して「やめない」ということが大事だからです。
そういった意味では、小さな目標を重ねつつも、あせらず長いスタンスで取り組むという姿勢も大事なのです。
これらが「前向きな気持ちを持続させるためのコツ」ではないかと思っています。
さいごに
このように、高齢者が「寝たきり」状態から回復するためには、まずは本人の「良くなりたい!」という気持ちが大事になると思いますが、ただ認知症がある場合では「良くなりたい!」という気持ちを持続させたり、そもそもそんな気持ちを持つことすら難しいということもあるかもしれません。
そのため、本人が回復できるかどうかは、周りにいる人たちの頑張りに掛かっているとも言えるでしょう。
しかし、認知症があって本人になかなか話が伝わらなかったり、拒否が強かったりすると、周りの人たちがどんなに頑張っても、リハビリのために身体を動かしてもらうことが難しかったりします。
逆に、どんなにしっかりしている高齢者であったとしても、「良くなりたい!」という気持ちとやる気を持続させながら、リハビリを継続していくというのは難しいものです。
それは、たとえ上記したような「前向きな気持ちを持続させるためのコツ」を実践できたとしてもです。
そのため、認知症の有無に限らずどんな人でもリハビリに長期間、無理なく取り組んでいくためには、生活スタイルや生活環境、生活習慣を、心身ともに活動性が高くなるように設定してしまうことで、生活そのものをリハビリに結びつけてしまう、というのが一番効果的な方法ではないかと思うのです。
そして、今回のシリーズの表題を「高齢者ほど『和式生活のススメ』」にしたのは、そのことを端的にお伝えしたかったからでもあります。
今回のお話が少しでも皆さんのお役に立つことができれば幸いです。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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