認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「お父さん!違うでしょ!」が症状を進行させる(8)

前回は、認知症患者さんと同居されている方が、どうしても本人の気持ちを落ち着かなくさせてしまうような言動をしており、それを改めるのがなかなか難しい場合、当院では本人にデイサービスやデイケアなどの通所サービスを利用してもらうようお勧めしているというお話をしました。

そして通所サービスを導入できれば、その方と認知症患者さんを定期的に一定時間離せるようになるばかりか、患者さん本人も多くの人と交流したり、身体を動かす機会が格段に増えることで脳が活性化され、さらに生活リズムも整いやすくなるため、本人の症状も目に見えて落ち着ちついてくるとお話ししました。

今回はその続きになります。

 

通所サービスの導入・拡充が「意識の変容」を改善させる

生活リズムが整うことの効果は非常に大きく、認知症の症状が全体的に改善しやすくなります。

生活リズムが整って夜間の睡眠の質が上がると、ほとんどの認知症症状のベースになっている「意識の変容」という覚醒度が変動する症状が改善するからです。

寝不足で心身ともに夜間しっかり休息できないと、当然ながら翌日はボーっとなって覚醒度が下がりやすくなるため、意識がはっきりしている時とそうでない時が入れ替わる「意識の変容」が起こりやすくなるのです。

「意識の変容」によって覚醒度が下がる状態が頻発すると、もの忘れはもちろん幻覚や妄想、易怒性、パーキンソニズム(動作・思考緩慢、バランス不良など)などが顕著化してしまいます。

したがって認知症治療においては、生活リズムを整えて夜間の睡眠の質を上げることがとても大切であり、そのためには投薬治療とともに通所サービスの導入・拡充が非常に有効なのです。

 

家族の介護負担が軽減されるとケアの改善も期待できる

通所サービスの導入・拡充には、まだまだメリットがあります。

同居している認知症患者さんの家族にとっては、長年一緒に暮らしてきた親しい相手が認知症になり、毎日その方の世話や介護をしなくてはならないというのは、少なからずストレスになります。

そして知らず知らずのうちに、精神的にも肉体的にも負担感や疲れが溜まっていくものです。

同居家族が本人に対して不適切な言動をぶつけてしまうのは、実はそのようなストレスや負担感が引き金になっていたりもします。

愛情深い家族であったら、それはなおさらかもしれません。

そのような場合、認知症患者さんに対して通所サービスを導入・拡充していくことは、同居家族にも良い影響を及ぼします。

同居家族はいつも本人と一緒にいて気を張っていなければならなかったのが、本人が定期的に施設に行って一定時間お世話をしてもらえるようになるので、その間気を休めて自由な時間を過ごせるようになるからです。

それが同居家族のストレスや介護負担の軽減につながり、気持ちに余裕ができると、家族にとっても不本意だった患者さん本人への不適切な言動が改善されたりするので、全体的に本人の認知症症状も落ち着きやすくなるのです。

そして本人の症状が落ち着くと、さらに同居家族のストレスや介護負担も軽減されて、本人に対する言動の改善につながり、それによってさらに認知症の症状も落ち着いてくるという好循環が回り出します。

これが認知症治療においては投薬治療以上の効果があったりするのです。

 

気持ちの余裕ができると患者さんの症状や変化にも気付ける

そのため同居家族の介護負担が軽減されて気持ちに余裕ができるというのは、非常に大事なことだと言えます。

家族の気持ちに余裕がないと、どうしても目の前のことに振り回されてしまい「大変だ!どうしよう!?」の連続になってしまうこともあります。

しかし家族の気持ちに余裕ができると、初めて患者さん本人のことを落ち着いて客観的に見られるようになり、本人の言動を認知症の症状として捉えたり、症状の変化を感じ取れるようになったりするのです。

したがって家族が気持ちに余裕を持つためにも、通所サービスの導入・拡充は有効なのです。

ちなみに認知症の投薬治療では「前回の投薬によって症状がどのように変化したのか」という情報が非常に大切になります。

それに応じて投薬内容を微調整していく、その繰り返しこそが認知症治療の真髄であり、治療がうまくいくかどうかは、まずはその情報にかかっているとも言えるからです。

そのため同居家族が客観的に患者さん本人のことを捉え、「前回の受診からどんな症状があって、それが良くなったのか、悪くなったのか、変わらなかったのか」ということを正確に主治医に伝えることができれば、それが的確な投薬治療につながり、認知症の症状を速やかに落ち着かせることも可能になるのです。

そのため、いわば家族が医療スタッフと同じ土俵に立てるかどうか、医療スタッフが家族を同じ土俵に引き込むことができるかどうか、さらにはそれを可能にする家族と医療スタッフの間の信頼関係をいかに構築できるか、ということが適切な治療を進めていくためにはやはり一番大切なことなんだろうと考えています。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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