認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

発達障害ともの忘れ(12)

 

前回は、ドーパミンが少なくなっているかどうかは、パーキンソン病発達障害の人に限らず、ドーパミンの機能が落ちることで生じる「パーキンソン症状」が認められれば、その可能性が考えられること、そしてその病態としてはレビー小体型認知症大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺などの神経変性疾患や脳血管障害(血管性パーキンソニズム)、薬の副作用(薬剤性パーキンソニズム)なども挙げられるが、実は加齢によってもドーパミンは減少するため、高齢になるほどパーキンソン症状を呈しやすくなるというお話をしました。

また、ドーパミンが十分に機能しないためにパーキンソン症状を呈している群というのは、総じて「気分」や「気持ち」に影響されやすく「ストレス」にも弱い傾向があり、さらには「認知症」や「もの忘れ」を呈しやすい群にもなっているため、その治療においては、本人が心地良く思ったり、気持ちが「前向き」になるような肯定的な言動を心掛けたり、できるだけ本人に「ストレス」を与えるような否定的な言動は避けるといった周りの人による「ケア」がとても大事になるというお話もしました。

今回はその続きになります。

 

パーキンソン病の人は「暗示にかかりやすい」傾向がある

前回までにお話ししてきたように、ドーパミンが十分に機能していないと「気分」や「気持ち」に左右されやすいため、実はパーキンソン病の人には「暗示にかかりやすい」傾向があるのですが、このことを治療に利用することがあります。

例えば「この薬はとても効きますよ!」といって薬を出すと、得られる効果が大きくなりやすいのです。

また多愁訴の傾向があって「不眠」や「頭痛」「めまい」などの訴えがあるけれど、内服薬をこれ以上増やしたくないような時には、同じように「この薬は本当に効きますから!」などといって、ただの「乳糖」を処方することもあります。

すると、ただの「乳糖」なのに症状が緩和したりするのです。

それだけパーキンソン病の人は症状が「気分」や「気持ち」に左右されやすいということなんでしょう。

そのため診察時には、できるだけ悪いことには焦点を当てず、良くなった点だけを指摘するようにしています。

先生やスタッフが「すごいですね」「良かったですね」などと褒めたり共感したりすることが、病状を軽快・好転させるのにとても有効なのです。

 

診察時に悪いことしか言ってこない患者さんほど治療に難渋しやすい

また、このような傾向の人はもともと「心配症」の性格だったりして、周りからすれば大したことがないことでもあれこれ気になってしまい、それが心身の状態にも悪い影響を与えていることがあります。

いわば「自分で自分の病気を作り出してしまっている」のです。

そのような患者さんの場合には、診察時に悪いことばかりを訴えてくる傾向があります。

すると、前回の投薬調整によって実際には良くなった点があったとしても、それが分かりずらくなってしまうため、適切な投薬調整が行えず、治療に難渋しやすくなってしまうのです。

そのため、このような患者さんに対しては、前回の投薬調整によって良くなった点がなかったどうか、あえてこちらから確認するようにしています。

「夜中に起きる回数が減ってよく眠れるようになりましたか?」「便は少し出やすくなりましたか?」「歩きやすくなりましたか?」などと、前回投薬調整した症状について具体的に訊いていくのです。

実際、そうしないと良くなった点については話してくれないことが多いですし、そうすることで「やっぱりこの点については良くなったんだ」と確認できることが少なくないからです。

そうすれば、結果的に新たな薬を追加したり、薬の量を増やしたりせずに済むので、その後の治療がしやすくなるのです。

もし本人の訴えを鵜呑みにして投薬調整をしてしまったら、診察のたびに薬の種類や量がどんどん増えていってしまうことになります。

すると当然その分だけ薬の副作用が出やすくなりますし、そうなると症状が波打ってしまうばかりか、出現している困った症状が病気によるものなのか、副作用によるものなのかさえも分かりずらくなってしまいます。

つまり、症状がどんどん複雑化してしまうのです。

すると当然治療も難しくなってしまいますし、結果的に病状を進行させることになりかねません。

 

治療に難渋しやすいタイプの家族の場合、スタッフはそのことをあらかじめ心づもりしておく

さらに、このような傾向が本人ばかりか家族にもあると、治療には本当に苦労してしまいます。

たとえ良くなった点があったとしても、そのことには触れず、毎回困っていることだけを訴えてきたりするからです。

薬を適切に調整していくためには、前回の投薬によって症状がどのように変化したのか、もしくは変化がなかったのかなど、経過についての客観的な情報が欠かせません。

そのため診察時には本来、「どういった点については良くなって、どういった点については悪くなったのか」について、一緒に暮らしている家族からは伝えてきてほしいのですが、そんなことにはお構いなしに「この間はこんなことがあったんです。昨日もこんなことがあって大変だったんです!どうにかしてください!本当に困っているんです!」などと悪いことばかりを並びたてて訴えてきたりするのです。

ただこれまでに、私たちは同じような症例をたくさん経験してきたので、症例によっては本人や家族の訴えを鵜呑みにせず、ある程度は話を差し引いて、話半分で聞く態度も必要だということを理解しています。

開院してはじめの頃は、そういったことが分からず、患者さんや家族の訴えに振り回されて非常に苦労した覚えがあります。

実際、こちらが良かれと思って好ましいケアについて詳しくアドバイスしたり、医療・介護サービスの利用などについて苦労しながらもやっと段取りをつけたりしても、次の来院時にはまったく状況が変わっていなかったり、「やっぱりやめます!」などと後になってから話をひっくり返されたりするのです。

これではいくらスタッフが頑張っても、まさしく「暖簾に腕押し」になってしまいます。

そこで私たちは、初診時に患者さん本人を「診る」ことはもちろんですが、同時にその家族も「診る」ようにしています。

それでもし、本来治療を進めていくうえで必要な協力が得られそうもない家族の場合には、あらかじめそのことを医療スタッフみんなで共有しておき、「逆に足を引っ張られることもあり得る」ということ心づもりしておくのです。

そうでないとスタッフが疲弊しかねないからです。

このような家族の場合には、認知症の困った症状が出ている原因が、必ずしも本人の「病気」だけにあるのではなく、「家族の気質」や「家族による対応」にもあるということが少なくありません。

むしろ「家族の気質」や「家族による対応」こそが、患者さんの困った症状を前景化・増悪させていたりするのです。

つまり症例によっては、患者さん本人だけでなく一緒に暮らしている家族をまるごと診ながら治療・ケアしていくことが必要であり、家族によってはその気質をしっかり踏まえつつ気長にアプローチしていくことが大事になります。

そしてこれらはすべて、パーキンソン症状のある患者さんは総じて「ストレス」に弱く、「ストレス」によって症状が変動しやすいことに起因しているのであり、それゆえ普段一緒に過ごしている「家族の気質」や「家族による対応」には特に影響を受けやすくなっているからなのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

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