前回は、パーキンソン病や発達障害の人は「気分」や「気持ち」に左右されやすく、それゆえ「ストレス」にも弱くなっているため、何らかの「ストレス」がきっかけになってさらにドーパミンの分泌量が減少してしまいやすく、それが「注意障害」の前景化や「覚醒度」の低下をもたらすことで、結果的に一見「もの忘れ」が出てきたかのように感じられることがあるというお話をしました。
今回は、その続きになります。
「パーキンソン症状がある」ということは「ドーパミンの機能が落ちている」ということ
前回までお話ししてきたように、パーキンソン病や発達障害の人はもともとドーパミンが少ない傾向にあるのですが、ドーパミンの分泌量が減っている、もしくはドーパミンが十分に機能しない状態になっているのは、パーキンソン病や発達障害の人だけに限りません。
では、その他にはどんな人がいるのでしょうか。
これは「パーキンソン症状があるかどうか」で判断できます。
というのも、ドーパミンが一定量以上少なくなると出現するのがパーキンソン症状(パーキンソニズム)になるからです。
まず、パーキンソン症状を出現させる神経変性疾患として挙げられるのが、パーキンソン病をはじめ、レビー小体型認知症や大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺などになります。
これらは認知症を合併しやすい疾患としても知られている疾患です。
これらの他にも脳血管障害(特に大脳基底核領域)や薬の副作用(薬剤性パーキンソニズム)などが挙げられますが、これらはドーパミンの分泌量が低下している、もしくはドーパミンが十分に機能しないことが原因でパーキンソン症状が出現しているものと考えられます。
また、実は発達障害(特に自閉症スペクトラム症/ASD)の人にも軽いパーキンソン症状が合併していることが多いという印象があります。
例えば、軽微な固縮(筋肉のこわばりのこと。左右差があることが多い)があるため、歩行時の手振りに左右差があって片方の手をあまり振らなくなっていたり、顔の表情筋もこわばっているために仮面様顔貌(表情変化が少ない)や瞬目減少、目がギョロとしている(爬虫類のような目)、顔のシワが少ない、オイリーフェイス(脂漏性顔貌)があったりします。
歩行については、手振りに左右差がある他にも、すり足があっていつも床をキュッキュ鳴らしながら歩いたりしているので、足音で「あの人だ!」と分かるような独特な歩き方をする人もいらっしゃいます。
これらは、症状としては軽いものの、すべてが立派なパーキンソン症状であり、ドーパミンが十分に機能していないことが原因で出現していると考えられるのです。
さらに、実は加齢によってもパーキンソン症状は出現しやすくなります。
ドーパミンの分泌量は、加齢に伴って減少する傾向があるからです。
高齢になると、どうしても全体的に動作がゆっくりになったり、歩行バランスが悪くなっていきます。
確かに加齢に伴って足腰の筋力が弱ったり、関節痛や神経痛を伴う整形疾患を合併しやすくなりますが、それだけが原因で、全体的な動作がゆっくりになったり、歩行バランスが悪くなるわけではありません。
加齢に伴ってドーパミンの分泌量が徐々に減少していくことも原因になっていると考えられるのです。
ちなみにドーパミンの量が正常な場合の20%以下にまで低下するとパーキンソン病の症状が現れるといわれています。
すると、20歳時のドーパミン量を100%として単純計算した場合、加齢に伴うドーパミンの分泌量の減少により、100歳までにほとんどの人がパーキンソン病を発症することになるそうです。
ただ実際には、パーキンソン病の発症には至らなくても、加齢に伴うドーパミン量の減少によって、様々なパーキンソン症状が出現してくると考えられるのです。
パーキンソン症状のある人は「ストレスに弱い」傾向があるため「ケア」には配慮が必要
このように、ドーパミンの機能が落ちることでパーキンソン症状を呈している可能性のある人というのは意外と多いのですが、このようなパーキンソン症状を呈している群というのは、「認知症」や「もの忘れ」を呈しやすい群でもあります。
以前もお話ししましたが、ドーパミンは動作だけに影響を及ぼすわけではありません。
ドーパミンが少なくなると覚醒度が落ちやすくなるばかりでなく、精神面の働きも鈍くなりやすいからです。
これまで、もともとドーパミンが少ない人は「気分」や「気持ち」に左右されやすく、それゆえ「ストレス」にも弱くなっているとお話ししてきたのはそのためでもあります。
すると、ドーパミンが十分に機能しないためにパーキンソン症状が出ている人というのは、総じて「気分」や「気持ち」に影響されやすく、「ストレス」にも弱い傾向があるといえるのかもしれません。
そのため、何かしらのパーキンソン症状がある人で、「もの忘れ」をはじめとする何かしらの精神症状を呈しているような場合には、家族など周りにいる人は、しっかりこの特性を理解したうえで本人と接する必要があります。
周りにいる人たちは、本人が心地良く思ったり、気持ちが「前向き」になるような肯定的な言動を心掛け、できるだけ本人に「ストレス」を与えるような否定的な言動は避けるということです。
周りにいる人たちの否定的な言動が本人の苦痛となり、それが「気分」や「気持ち」を落ち込ませてさらにドーパミンの分泌量を減らしてしまいます。
すると、心身ともに活動性がさらに鈍って「もの忘れ」はもちろん、その他の身体症状や精神症状を増悪させることになりかねないからです。
実際、日常的に不適切な「ケア」が繰り返されているような場合には、いくら本人に合った「薬」を使っていたとしても、それではいわば「アクセルを踏みながらブレーキを踏む」ようなものなので、病状はなかなか安定してきません。
そのため、「認知症」や「もの忘れ」の治療にとっては、「投薬治療」と「ケア」が「車の両輪」になっており、どちらが欠けてもうまくいかないといえます。
これは、パーキンソン症状が合併していることが多い「認知症」や「もの忘れ」のある人たちは、特に「ストレスに弱い」傾向があるため、「ケア」のあり方にも十分気をつけなければならないからです。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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