認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

高齢者ほど「和式生活のススメ」(1)

和式の生活様式は身体の健康維持にも効果的な面がある

昭和、平成、令和へと時代が移り変わるにつれ、この数十年で日本人の生活様式は大きく変わってきました。

昔は家に畳があるのが当たり前で、家族みんなで茶の間に座ってテレビを観たり、食事をしたり、夜は布団を敷いて川の字になって寝たりしていました。

それが生活の利便性や生活スタイルの好みなどを理由に、次第に洋式の生活様式を取り入れる人が多くなってきました。

確かに昔ながらの和式の生活様式では、日常的に床に長時間座ったり、床からの立ち座り動作を頻繁に行わなければならず、洋式の生活様式に比べると身体への負担が大きいかもしれません。

布団で寝ている場合には、布団の上げ下ろしも必要になるでしょう。

健康で若い人だったら何ともないでしょうが、身体に不具合がある人や高齢者だったりすると、本人にとって無理な姿勢を強いられたり、動作が不安定になる場面も出てくるかもしれません。

また、和式の生活様式を続けていると姿勢が悪くなったり、膝や腰を痛めやすいなどとも言われています。

しかし、実は和式の生活様式というのは身体にとって悪いことばかりではないのです。

身体にとってメリットになることも少なからずあります。

それにも関わらず、昨今は和式生活のデメリットばかりが強調されているように感じます。

そこで今回は和式生活の名誉挽回を兼ねて、和式の生活様式は身体の健康維持に効果的な面もあるということをお話ししていこうと思います。

 

高齢者では安全面を考えて洋式の生活に切り替えるケースが多い

アルツハイマー認知症を除く認知症疾患の多くは、発症早期から身体症状としてパーキンソン症状を出現させます。

しかし実は認知症患者さんに限らず、多くの人が加齢とともに少しずつパーキンソン症状を呈してきます。

そのため動作がゆっくりになったり、身体のバランスが悪くなって方向転換時や階段を降りる時、立位でかがんだ姿勢になった時などにバランスを崩したり、怖さを感じるするようになったりするのです。

ちなみにパーキンソン症状によってバランスが悪くなるのは「姿勢反射障害」という症状のためですが、歩く時に「ふわふわ」すると言ったり、「めまいがする」と表現される人もいます。

また歩きが「すり足」になったり、「小刻み」になったりして、ちょっとした段差や畳のへりでもつまずいてしまったり、歩きはじめの一歩目や方向転換時、椅子などの目的地に近づいてきたら足が出なくなってしまうといった「すくみ足」の症状などが出てくる人もいます。

するともちろん歩行が不安定で転倒しやすくなってくるのですが、さらに症状が進行すると、床から立ち上がったり、起き上がりや寝返りすることも難しくなってきます。

そういった場合には、杖やシルバーカーなどの歩行補助具を導入したり、家の中は安全に伝い歩きできるように家具の配置を変更したり、住宅改修をして手すりを設置するなどして対応していったりするのですが、そもそも高齢者の場合、畳の上でちゃぶ台と布団の生活をしているという人が少なくありません。

そのような場合には、まずは立ち座りが安全で楽に行えるように椅子とテーブルの生活にしたり、介護用ベッドを導入したりすることが多いのではないでしょうか。

確かに昔ながらの和式の生活様式だと、床からの立ち座りや布団の上げ下ろしなどが必要だったり、さらに高齢になるほど膝痛や腰痛などの身体の不具合も出やすく、加齢による筋力低下や先述したパーキンソン症状も出てきたりするため、身体の負担が大きくなるばかりか、生活動作を安全に行えなくなる場合があると思います。

特に高齢者の場合は、自宅で本人が安全・安心に生活できるということを最優先しなくてはいけません。

そこで家族や介護・医療スタッフなどが少しでも不安を感じる場合は、本人の好みなどには関わらず、すぐに介護ベッドなどを導入して生活様式を洋式に切り替えてしまう場合が多いのではないでしょうか。

洋式の生活様式にすれば、椅子やベッドからの立ち座りになるので、身体の負担が減って楽になり、立ち座り時にバランスを崩すようなことも減って、日常生活における動作の安全性が高まるからです。

しかし実は同時に、和式から洋式の生活様式に変える際には注意しなければならないデメリットもいくつかあるのです。

それらについては次回お話しすることにします。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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