前回は、入院で体力が落ちた施設入所者が退院して施設の生活に戻ると、基本的に他の入居者さんと同じように全体の予定に合わせて毎日生活するようになるため、半ば強制的に必要な「生活動作」を繰り返し行うようになって、いつの間にか入院前の身体状態まで戻っているということが多く、これこそが「生活動作」を活用したリハビリの本骨頂ではないかというお話をしました。
また、特に認知症高齢者の心身機能を維持・回復させるためには、日常的に「できるだけ心身の活動性を高く保つ」ことが不可欠であり、リハビリとして「生活動作」を有効に活用していくためには、リハビリスタッフから「生活スタイル」や「生活環境」について、具体的なアドバイスをもらうのも効果的だというお話もしました。
今回はその続きになります。
高齢者やパーキンソン症候群のある人はお尻の筋肉が衰えやすい
高齢者では加齢とともに歩行時に膝がやや曲がったままになって前傾姿勢になったり、足の運びもすり足で小刻みになり、動作が全体的に緩慢になってきたりします。
これらはすべて「パーキンソン症状」と言われているものであり、特に認知症を伴う変性疾患の多くで合併しやすく、症状も顕著化しやすい傾向があります。
このような「パーキンソン症状」が出現している病態のことを「パーキンソン症候群」と呼んだりもしますが、「パーキンソン症候群」のある人では「股関節周囲筋群や下部体幹筋群」が衰えやすく、これらの筋群を鍛えるには「床上動作」が適しているというのは、これまでお話ししてきた通りです。
その中でも特に衰えやすい筋肉が「殿筋群」になります。
「殿筋群」とは大殿筋・中殿筋・小殿筋を合わせた総称であり、お尻にある筋肉のことです。
高齢者やパーキンソン症候群の人では、特にこのお尻の筋肉が衰えやすいのです。
お尻の筋肉が衰えてくると
「殿筋群」の主な働きは、「抗重力筋として股関節から上の体重を支えて適切な姿勢を保持すること」と「股関節を伸展させること」になります。
もう少し具体的に言えば「骨盤が後ろに倒れないように、まっすぐに立てて保持する」とともに「曲がっている股関節を伸ばしたり、股関節を軸にして下肢を後ろに動かす」働きをするということです。
そのため「殿筋群」の筋力が低下すると、骨盤が後傾して腰が丸まりやすくなります。
すると身体の前後のバランスをとるために膝が曲がったり、背中が丸まって頭が前方に偏移した姿勢になります。
これは「パーキンソン症候群」がある人の典型的な姿勢になっています。
したがって「殿筋群」の筋力低下が、いわゆる腰や膝が曲がってくる大きな原因の1つにもなるのです。
身体の自分で試してみると分かりますが、その姿勢のままでずっといると、腰や膝、首周りの筋肉に負担が掛かり、腰痛や膝痛はもちろん首から背中にかけて痛みが出てくる原因にもなります。
またその姿勢のまま歩こうとすると、とても歩きにくくて速く歩けず、しかも余計なところに力が入って疲れやすくなるのが分かると思います。
腰や膝が曲がった姿勢では「殿筋群」が働きにくくなるため、股関節を伸展させる力が弱まり、歩行時に足で床を力強く後ろに蹴り出して身体を前に押し出す推進力が弱まってしまうからです。
そして「殿筋群」が働きにくいその姿勢でずっと過ごしていると、さらに「殿筋群」が衰えてしまって姿勢が悪くなり、歩くスピードもどんどん遅くなってしまいます。
つまり「殿筋群」が衰えると、歩く時に腰や膝が曲がった姿勢のままで、足の運びがすり足で小刻みになって動作も緩慢になる「パーキンソン症候群」が増強しやすくなり、それでさらに「殿筋群」も衰えていってしまうのです。
これでは、以前お話しした「廃用症候群」を加速度的に進行させてしまう「負のスパイラル」がどんどん進んでいってしまうことになります。
逆に言えば、お尻の筋力をしっかり保つことが若さを保つ秘訣であるとも言えるのです。
若さの秘訣はお尻の筋力を保つこと
筋肉を効率良く鍛えるには、できるだけ強くそして頻繁にその筋肉を活動させれば良いのですが、「殿筋群」の場合は、股関節を大きく曲げ伸ばしする運動をすれば良いのです。
この股関節を大きく曲げ伸ばしする運動を自分の体重をかけながら行えるのが、床からの立ち座り動作に代表される「床上動作」になります。
したがって、お尻の筋肉を鍛えるには、日常的に「床上動作」を頻繁に行う「和式生活」が適しており、高齢者の人が「和式生活」を送ることは、姿勢や動作を若々しく保つにも適しているのです。
ちなみに床からの立ち座り動作のほかに「殿筋群」を効率良く鍛えられる体操がありますので、以下に2つご紹介いたします。
①股関節のスクワット
普通のスクワットは、膝を曲げ伸ばしすることを意識して行うため、膝を曲げた時に上から見ると、膝が足先より前に大きく出てしまいます。
股関節のスクワットは、この点が普通のスクワットとは異なり、膝を曲げた時に上から見て膝が足先より前に出ないようにします。
また、背筋はできるだけ伸ばしたまま行います。
そのため、ちょうどかがんだ時の姿勢が、スキージャンプ選手がジャンプ台を滑降している時の姿勢と同じような感じになります。
そして「1・2・3・4」でゆっくりかかんで、「5・6・7・8」でゆっくり身体を伸ばしていきます。
1セット10回を目安にして行い、まずは1日2~3セットを目安にして行うと良いでしょう。
どうしても身体の動きが分かりにくい場合は、鼠径部に自分の手を置き、かがんだ時に自分の手を押しつぶすようにしてみてください。
また、スクワットをしている時に、膝から下の下腿が常に床と垂直になるようにイメージすると良いでしょう。
もちろん体操の時に身体が不安定になる場合は、何かにつかまって行うようにしてください。
②バレエの立位姿勢で両膝を閉じる
まず両足の踵をつけて立ち、両方の足先をできるだけ大きく開きます。
足先を開けば開くほど運動の負荷が上がります。
また、身体はまっすぐ伸ばし、特にお尻が後ろに突き出ないようにします。
この姿勢は、ちょうどバレリーナがまっすぐ立っている姿勢に似ていると思います。
この姿勢をとるのが難しい場合は、何かにつかまって身体を支えたり、足先を開く角度を狭くしてください。
そのまま「1・2・3・4」で両膝を閉じる方向に力を入れ、「5・6・7・8」で脱力します。
1セット10回を目安にして行い、まずは1日2~3セットを目安にして行うと良いでしょう。
この運動は、殿筋群はもちろん大腿後面にある筋群を強く活動させる運動になりますので、歩く前に行うと、今まで使っていなかった殿部から両大腿後面の筋群をより強く使いながら歩けるようになるのが実感できると思います。
また、下肢と腰が今までよりもしっかり伸びて、足先で床を後ろに蹴り出しやすくなるので、歩行スピードも上がると思います。
特にこの運動は、立位や歩行時に下肢がO脚傾向で、膝や腰が伸びきらないような人では有効だと言えます。
お尻の筋肉を鍛えるために、2つの体操を是非ご活用いただければと思います。
ただ実際に体操をしてみて、痛みが出たり、負荷が強すぎるような場合には、実施を控えるようにしてください。
次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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