認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「目」に表れる認知症の徴候(4)

前回は、「目」の動きが制限されたり、指などをしっかり追視できなくなるのも認知症を伴う神経変性疾患の症状であるというお話をしました。

今回はその続きになります。

 

心の動きや頭の働きは「目」の動きと連動している

心がきれいな子供の「目」はとても澄んでいます。

「目」には、その人の意志の強さや性格、怒り、悲しみ、驚き、動揺といった心の動きが表れます。

同じように、人がものを考えている時もその様子が「目」に表れます。

例えば、何かを思い出そうとしている時には「目」が上を向いたりします。

また、集中して何かを深く考えている時にはどこか一点をじっと見つめていたり、逆に「目まぐるしく」思考をめぐらせている時には、文字通り「目が回る」ようにあちこちへ視線を動かしたりします。

まさしく「目は心の窓」であり、心の動きや頭の働きは「目」の動きと連動しています。

前回お話ししたように、認知症になると「目」の動きが制限されたり、動きが鈍くなることが少なくありません。

認知症になると合併しやすいパーキンソン症状の中にも「思考緩慢」という症状が含まれているのですが、認知症になるとどうしても心の動きや頭の働きが鈍くなります。

これらはおそらく関連しているのだと思います。

心の動きや頭の働きが鈍くなることで「目」の動きが鈍くなるのか、「目」の動きが鈍くなることで心の動きや頭の働きが鈍くなるのかは分かりません。

いずれにしても脳の活動性と眼球運動は相互に関連しあっていることは間違いなさそうです。

 

自閉症スペクトラム症の気質も「目」に表れる

以前もお話したことがありますが、実は自閉症スペクトラム症(ASD)の人には軽微なパーキンソン症状があることが多いという印象があります。

よく遭遇するのが、軽微な固縮(筋肉のこわばり)が左右差を伴ってあるために、歩行時にどちらかの手を振らなかったり、手の振り幅が小さくなっているというものです。

そして、やはり顔の表情にも軽微なパーキンソン症状が表れます。

前々回もご紹介しましたが、パーキンソン症状があると顔面の筋肉も固縮でこわばりやすくなるため、表情の変化が乏しくなったり(仮面様顔貌)、まばたきが減ったり(瞬目減少)、肌がツヤツヤと脂っぽかったり(脂漏性顔貌)、顔のシワが減っていたりするのです。

そして「目」も相対的に大きくギョロッとなっていたりします。

「爬虫類のような目」だと表現される人もいらっしゃいます。

そのような人の眉間を指でトントンと叩くと、その刺激で瞬目や眼輪筋の収縮が誘発されて「マイヤーソン徴候」が陽性となり、パーキンソン症状があることを改めて確認できたりもします。

ちなみに甲状腺機能亢進症であるバセドウ病では、眼球が突出する症状があり、そのために「目」が大きくなっている場合があります。

そのため「目」が突出していて大きく見えるような人で、とても精力的でエネルギッシュに活動しているような場合には、逆にバセドウ病が疑われたりします。

同じように上記したような「顔」や「目」の表情があって、歩く時にどちらかの手を振らなかったり、すり足だったりする場合、パーキンソン症状が出ている疑いが強くなります。

それに加えて、いわゆる「独特」な性格である場合、例えば自己中心的で空気が読めず友達が少なかったり、こだわりがあったり、音や匂いなどに過敏だったり、好き嫌いがはっきりしているなどしたら自閉症スペクトラム症が強く疑われます。

また、うつなどで精神科や心療内科への通院歴があったり、アトピーなどのアレルギーがあったり、薬に過敏だったり、一定の年齢に達してもずっと独身だったり、離婚歴があったり、転職を繰り返していたり、自営業や一人で行う仕事をしていたり、などといった場合にはさらに自閉症スペクトラム症の疑いが強まります。

このように「顔」や「目」の表情から、いくつかの病気や気質の可能性を推察することができるのです。

ただ実際、初診の患者さんが軽微なパーキンソン症状を持っている場合、それが認知症を伴う神経変性疾患に起因しているのか、もともと持ち合わせているものなのかを判断しかねることがあります。

そのような場合はMIBG心筋シンチグラフィー検査やDATスキャン検査などで鑑別するのですが、その結果、パーキンソン病などの神経変性疾患が否定された場合には、軽微なパーキンソン症状はやはり自閉症スペクトラム症が原因で出現しているのだろうと判断しています。

ちなみに自閉症スペクトラム症は、注意欠陥多動性障害ADHD)を合併していることが多いとされています。

また長年の認知症診療を通じて、ほとんどの認知症患者さんがそのベースに、程度の差はあれ自閉症スペクトラム症や注意欠陥多動性障害のいずれか、もしくは両者の気質を持ち合わせているということが分かっています。

いずれにしても「顔」や「目」の表情から、認知症を伴う神経変性疾患やその予備軍である可能性をうかがい知ることができるということです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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