認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

高齢者ほど「和式生活のススメ」(9)

前回は、高齢者や認知症の人にとって有効な「生活動作」活用したリハビリの具体例を、それらによって「期待できる主な効果」とともに6つご紹介しました。

今回はその続きになります。

 

「床上動作」は認知症高齢者で衰えやすい筋群を鍛えてくれる

和式生活では、日常的に床からの立ち座り動作に代表されるような「床上動作」が必要になります。

前回も「生活動作」を活用したリハビリ例の【具体例その6】の中で少し触れましたが、「床上動作」というのは、上下肢・体幹の筋力とバランス機能を要求されるので、高齢者にとっては比較的難易度の高い動作になっています。

この「床上動作」でよく使われる筋肉としては、「股関節周囲筋群」や「下部体幹筋群」が挙げられますが、これらの筋肉は加齢によって衰えやすく、特にパーキンソン症状を呈する疾患の人では衰えやすい傾向があります。

実は、認知症を呈する変性疾患の多くが、姿勢反射障害をベースにしたすり足や小刻み歩行、すくみ足、ふらつき、動作緩慢といったパーキンソン症状を出現させます。

そのため、認知症のある高齢者ではこれらの筋群が特に衰えやすいのです。

したがって、認知症高齢者の運動機能を維持・回復させるには、これらの衰えやすい筋肉を頻繁に働かせることが効果的であり、そのためには日常的に「床上動作」を行ってもらうのが良いのです。

 

「床上動作」を利用した運動療法

実際、廃用症候群やパーキンソン症状のある高齢者に対して、専門のリハビリスタッフが運動療法を行う場合にも、訓練マットの上でよく「床上動作」を行います。

まず、仰向けから寝返りしてうつ伏せになり、そこから四つ這い、両膝立ち、片膝立ちを介して立ち上がってもらい、今度は逆に立位から仰向けになる動作をゆっくり行ってもらったりします。

もちろん仰向けから立位になるにつれて、段々と難易度が上がっていきますので、初めは本人がとれる姿勢まで仰向けから繰り返し練習していくのですが、随時必要な介助を入れながら、段階的に途中の姿勢を保持したり、その姿勢でバランス練習を追加したりもしています。

例えば、四つ這いで片手や片足を1つずつ床に平行に挙げて保持したり、それが可能になってきたら対角線上さらには同側の手足を挙げて保持するバランス練習などをします。

また、四つ這いから横座りになって、また四つ這いに戻る運動を交互に繰り返してもらったり、四つ這いでハイハイ歩きをしてもらうこともあります。

個人的には、この四つ這いでの運動は、上下肢・体幹を鍛えるのに非常に効果的だと考えています。

四つ這いが安定してきたら、今度は両膝立ちになってもらいますが、姿勢反射障害や下肢・体幹の筋力低下が強い人ほど、両膝立ちを保持できずに殿部が後ろに引けて体幹が前方へ倒れやすい傾向があるので、そうならないよう注意します。

次に両膝立ちが安定してきたら、バランス練習のためにバンザイをしてもらったり、その場で左右の膝を交互に浮かせて足踏みしてもらったりもします。

それができるようになってきたら、今度は両膝立ちの姿勢から交互に片膝立ちになって両膝立ちに戻る動作を繰り返し行ってもらい、それが安定してきたら、次はいよいよ片膝立ちから立ち上がってもらいます。

このように、その人の動作能力の向上に合わせて、徐々に姿勢や動作の難易度を上げていくのです。

 

「まっすぐ伸ばして荷重する」

この「床上動作」を利用した運動療法を実施する際、特に気を付けてほしいのが「姿勢」です。

もし体幹や腰が曲がったままの姿勢で何度も練習してしまうと、不効率で不安定なその姿勢を身体が覚えてしまうのです。

そして、一旦そのような不適切な姿勢の神経筋活動パターンを覚えてしまうと、後でそれを修正するのに大変苦労することになります。

そのため、初めは大変でも、できるだけ身体をまっすぐにした適切な姿勢になることを心掛けて、運動療法に取り組んでいくことが大事になります。

少し専門的になりますが、抗重力筋群の神経筋活動を賦活する運動療法を実施する際のキーワードは「まっすぐ伸ばして荷重する」ことだと考えています。

例えば、膝立ちの練習では、体幹と股関節をしっかり伸展させ、できるだけ姿勢がまっすぐになるようにすることが大事なのですが、廃用症候群やパーキンソン症状の強い高齢者ではそれが難しいことが多いため、そんな場合には、身体ができるだけまっすぐになるよう介助したり、椅子などを置いて身体を支えられる環境を設定していくことになります。

膝立ちが不安定な人を介助する場合、リハスタッフが後方に立って殿部を両膝で前方に押して支えながら、両手で肩を引いて股関節と体幹がまっすぐになるようにしたり、その姿勢を保持したまま両膝立ちから交互に片膝立ちになる練習を行ったりもします。

介助する人がいない場合は、前方に椅子などを置き、座面に両手をついて股関節と体幹をできるだけまっすぐ伸ばして保持するよう心掛けてもらうと良いでしょう。

立位での練習も同様です。

体幹・股関節・膝関節をできるだけ伸ばした姿勢を保持しながら、自分の体重を支えてもらうのです。

そうすることで適切な姿勢保持や動作に必要な神経筋活動を引き出していきます。

もちろんそのために必要な介助や誘導は随時行いながらです。

そして身体がしっかり伸びた状態を保持しながら、立位保持や立位バランス練習、足の振り出し、歩行までつなげていくのです。

これが「床上動作」から「歩行」までリハビリを効率良く進めていくコツだと考えています。

なぜなら、重力のある地球上で暮らす人間にとって、効率良くスムースに身体を動かしていくには、まっすぐ身体を伸ばした姿勢をとることが欠かせないからです。

立位でずっと腰を曲げていたり、股関節や膝関節を曲げていたら、身体に負担がかかってすぐに疲れてしまいますし、何よりもそんな姿勢では動きにくくなってしまいます。

したがって、適切な姿勢を保持するために必要な神経筋活動を引き出すには「まっすぐ伸ばして荷重する」ことが非常に大事になるのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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高齢者ほど「和式生活のススメ」(8)

前回は、そもそも体力が落ちている高齢者では、身体に負荷がかかるような運動を長い時間行うのはなかなか難しいため、高齢者にリハビリを実施する際のキーワードは「低負荷・少量・頻回」になるけれども、そのような「低負荷・少量・頻回」のリハビリとして活用しやすいのが、毎日生活の中で繰り返し行っている「生活動作」であるというお話をしました。

そして「生活動作」を活用したリハビリは、生活の流れの中で自然に促すことができるので本人の負担感が少なく、リハビリをしたくない人や話の理解が難しい認知症の人にとっても実施しやすいといったメリットがあること、さらには、週1~2回専門的なリハビリを受けるよりも「低負荷・少量・頻回」に実施できる「生活動作」を活用して運動していく方が、得られる効果がずっと大きかったりするというお話もしました。

今回は、どのようにして「生活動作」をリハビリに活用していけば良いかについてお話ししていこうと思います。

 

「生活動作」を活用したリハビリ例

では次に、「生活動作」活用したリハビリの具体例について、それらによって「期待できる主な効果」とともに6つご紹介いたします。

 

【具体例その1】

「ベッド上で終日過ごしている人の場合、少しでも起きられるようになってきたら、食事の時は車椅子に移乗し、座った姿勢で食べるようにしてみる」

※期待できる主な効果

・離床時間の確保を通じて、座位保持に必要な全身の抗重力筋群の活動を促すとともに、心肺機能に負荷を与えられるので、抗重力筋群の筋力と循環・呼吸器機能の向上、座位耐久性の向上を図ることができる。

・頭部が挙上されることで嚥下しやすくなるとともに、食事がおいしく感じられるようになる。

・座位になることで上肢が使いやすくなり、食事動作がしやすくなる。

・臥位よりも座位の方が脳への血流量が増えるので、身体を起こす時間を確保することで意識がはっきりするとともに、目線が上がることで刺激量が増えたり、自発的な活動も増えてくるので、精神面も含めて全身の機能を賦活できる。

 

【具体例その2】

「排泄にオムツを使用している人の場合、少しでも尿意や便意があって座位が可能になってきたら、まずはベッドサイドにポータブルトイレを設置したり、車椅子でトイレに連れて行って排泄を促してみる」

※期待できる主な効果

・トイレを使用するたびに移乗動作と立位保持の機会ができるので、座位よりもさらに下肢~体幹の抗重力筋群や心肺機能の活動を促すことができる。それによって、さらなる抗重力筋群の筋力と循環・呼吸器機能の向上、立位耐久性の向上を図ることができる。

・オムツを使用することの心理的負担感を軽減させることができるとともに、本人の心身活動全般に対する意欲の向上を図ることができる。

→「廃用症候群」の改善や予防のためには、生活の中でいかに立位になる機会を確保し、定期的に下肢への荷重を通じて、全身の抗重力筋群を活動させることができるかということが非常に大事になります。そのため「生活動作」の中でも、この「トイレに行っているどうか」が「廃用症候群」の改善や予防においては、まさに「キーポイント」になります。介助でもトイレを使えるようになれば、1日の中で移乗動作や立位保持をする機会が飛躍的に増えることになり、さらにトイレまで歩いて行くようになれば、トイレの回数分だけ歩行機会も多く確保できるようになるからです。

 

【具体例その3】

「普段車椅子を利用している人の場合、食堂では必ず椅子に座り替えるようにする」

※期待できる主な効果

・朝昼晩3回食事をしていれば、食事前後で往復6回移乗機会を増やすことができるので、その分だけ全身の抗重力筋群の活動量を増やすことができる。

・車椅子の座面は畳めるようにシート状の素材を使っているので、人が座るとどうしても中央部がたわんで沈み込んでしまい、体幹筋群や骨盤周囲筋群の筋力が低下しているような人では姿勢が左右に傾きやすくなる。椅子であれば座っても座面がたわむことなく平らのままなので、それだけでも姿勢をまっすぐに保持しやすくなり、食事動作や嚥下もしやすくなる。

→原則的に、通常の車椅子はあくまで「移動する」ためのものであり、「ずっと座っているものとしては適していない」のです。

 

【具体例その4】

「普段は車椅子を利用しているけれども、介助で少しでも歩けるようになったら、トイレやベッドといった目的地までの数メートル手前からは歩くようにしてみる」

※期待できる主な効果

・歩行では、立位保持や移乗動作に比べてさらに下肢~体幹の抗重力筋群や心肺機能の活動が促されるため、全身の筋力と循環・呼吸器機能をより一層向上させることができる。

・歩行時には、片足ずつしっかり重心移動をしないと一方の足を前に振り出すことができないので、バランス機能の向上を図ることもできる。

・日常生活で移動する機会は非常に多く、介助でも歩行できるようになれば、その都度自然な形で歩行機会を確保できるようになるため、飛躍的に運動量を増やすことができる。

 

【具体例その5】

「目的の階までの1階分はエレベーターを使わず、行きと帰りに階段昇降してみる」

※期待できる主な効果

・階段昇降では、ただ歩行するだけに比べると身体にかかる負荷量が格段に増えるので、下肢筋力や心肺機能を短時間に効率良く鍛えることができる。

・階段昇降時には、片足ずつしっかり重心移動して段を昇降しなければならないので、バランス機能の向上を図ることもできる。

 

【具体例その6】

「生活の中に和式の生活様式を取り入れ、日常的に床から立ち座りをする機会を作ってみる」

※期待できる主な効果

・床からの立ち座り動作は上下肢・体幹の全身の筋力とバランス機能を要求される比較的難易度の高い動作なので、効率良く全身の運動機能の向上を図ることができる。

→高齢者やパーキンソン症状のある人では、特に股関節周囲筋群や下部体幹筋群とバランス機能が衰えやすい傾向があるけれども、床からの立ち上がり動作は、それらの筋群やバランス機能を鍛えるのに非常に適している。

 

どのような「生活動作」を選択するのかはもちろん、実施する頻度や介助量、方法などは、その人の生活習慣や生活環境、体力や動作能力に応じて設定すれば良いと思います。

そして本人の心身状態が向上してきたら、それに合わせて徐々に運動の負荷量が増えるよう調節していけば良いのです。

もちろん「本人の負担感が少なく、生活の中で無理なく実施できる範囲で」ということが大切です。

「生活動作」を活用したリハビリは、安全に繰り返し行うことで徐々に効果が得られるものだからです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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高齢者ほど「和式生活のススメ」(7)

前回は、高齢者では生活が不活発になると「廃用症候群」が少しずつ進行していき、それによってさらに生活が不活発になって「廃用症候群」も進行していくという「負のスパイラル」に陥りやすいため、もしそんな状態に陥ってしまったら、できるだけ早く「負のスパイラル」を断ち切る必要があるけれども、心身ともにどんどん弱っていく状態で、高齢者が自ら前向きな気持ちになって日々活動量を上げていくということはなかなか難しいため、他人の手を借りてでも思い切って生活そのものを変えていくしかないというお話をしました。

そして、その時非常に頼りになるのが介護保険サービスであり、中でも通所サービスを導入することができれば、日中起きて活動する時間が増えるとともに、いつの間にか体力や筋力が回復してきて「廃用症候群」の状態から脱しやすくなるというお話もしました。

今回はその続きになります。

 

高齢者に対するリハビリのキーワードは「低負荷・少量・頻回」

高齢者が「廃用症候群」から回復するためには、リハビリはたくさん受けるに越したことはありません。

しかし、そもそも体力が落ちている高齢者では、身体に負荷がかかるような運動を長い時間行うことは困難ですし、ましてや病気やケガなどで「廃用症候群」に陥っている高齢者だとすれば、それはなおさら困難でしょう。

したがって、高齢者にリハビリを実施する際のキーワードは「低負荷・少量・頻回」になるかと思います。

もちろんリハビリの強度や時間、頻度などは、その人の病態や体力に応じて設定されますが、低負荷で少量の運動であれば、体力のない高齢者であっても取り組みやすくなるでしょう。

しかし当然ながら低負荷で少量の運動では、リハビリ効果が少なくなってしまいます。

それを回数で補うのです。

低負荷で少量の運動を1日に何回も繰り返して行っていくということです。

実際、高齢者にとっては、これが非常に有効なのです。

ただ、入院してリハビリ専門職である理学療法士作業療法士などから毎日のようにリハビリを受けられたとしても、リハビリができる時間はせいぜい1日数時間が限度であり、それも一定時間まとめて受けることがほとんどだと思います。

そのため1日に5回も6回も小分けにリハビリを受けるということは、なかなか難しいというのが現状です。

では、どのようにして「低負荷・少量・頻回」のリハビリを実現させれば良いのでしょうか。

答えは簡単です。

リハビリ目的で入院していたとしても、1日の大半は時間は病室などでゆっくり過ごすことになるでしょう。

その時間を利用すれば良いのです。

つまり、普段その人が行っている生活動作をリハビリとして活用するのです。

 

高齢者には生活動作を利用した「低負荷・少量・頻回」のリハビリが効果的

人には、朝起きてから夜寝るまで、毎日生活していく中で繰り返し行っている動作があります。

例えば、朝、目が覚めてまず洗面所やトイレに行き、それから着替えをして、朝食を食べて・・・というようにです。

さらに、これらの生活動作には起き上がりや立ち座り、座位・立位保持、歩行などといった身体活動が必ず伴います。

このような生活動作や身体活動というのは、本人にとっては毎日繰り返し行っているものなので、高負荷で運動量が多すぎるということはないでしょうし、中には行う頻度が高い動作もあると思います。

したがって、生活動作というのは、高齢者に有効な「低負荷・少量・頻回」のリハビリとして活用するのに適していると言えるのです。

また、生活動作を利用したリハビリは、生活の流れの中で自然に促したり、取り組んだりすることができるので、本人の負担感が少なく、どうしてもリハビリをやりたくないという人や話の理解が難しいような認知症の人にとっても実施しやすいものだと言えます。

さらに、本人にとっては毎日の生活の中で楽に継続できたり、リハビリスタッフがいなくても家族や介護スタッフなどが気軽に実施できるといったメリットもあります。

そして何よりも、専門のリハビリスタッフから週1~2回リハビリを受けるより、「低負荷・少量・頻回」に実施できる生活動作を活用して毎日運動に取り組んでいく方が、得られるリハビリ効果ははるかに大きかったりするのです。

では実際に、どのようにして生活動作をリハビリとして活用していけば良いのでしょうか。

それについては次回お話ししようと思います。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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高齢者ほど「和式生活のススメ」(6)

前回は、何らかの原因があって過度の安静を強いられたり、日常生活の不活発や心身機能の不使用によって二次的に引き起こされる「廃用症候群」は高齢者で生じやすいけれども、これは自宅で自立した生活を送っている高齢者であっても、何らかのきっかけで生活が不活発になってしまうと、心身機能の低下とともに、さらに生活を不活発にさせるような要因も次々と生じやすくなるため、このような「負のスパイラル」が加速度的に進行して「廃用症候群」に陥りやすくなるからであるというお話をしました。

また、この「負のスパイラル」が始まるきっかけとしては、病気やケガといった突発的なアクシデントはもちろん、色々なストレスによる気分の落ち込み、急激な暑さ寒さや今回のコロナ騒ぎによる外出控え、認知機能の低下なども挙げられるけれども、生活動作が楽になる和式生活から洋式生活への切り替えも十分きっかけになりうるということもお話ししました。

今回はその続きになります。

 

高齢者ではできるだけ早く「負のスパイラル」を断ち切る必要がある

高齢者ではちょっとしたことでも生活が不活発になりやすいので「廃用症候群」を発症しやすいというのは前回お話しした通りです。

誰でも生活が不活発になって日中の活動量が減ってしまえば、筋肉を使う頻度も少なくなるため、当然筋力低下が起こりやすくなります。

これは筋肉を使わなくなると、身体からは使わなくなった分の筋肉量は必要ないと判断され、筋肉を構成する蛋白の合成が低下したり、分解の亢進が生じてしまうからです。

これを「廃用性筋萎縮」と言います。

入院などによってベッド上で安静臥床のままでいると「廃用性筋萎縮」が進行して、1日に約1〜3%、1週間では10~15%の割合で筋力低下が起こり、3〜5週間では約50%の筋力低下が起こるという報告があります。

1週間で10~15%の筋力低下というのは、もともと体力が低下していてギリギリの状態で生活しているような高齢者にとっては、いわば「命とり」になりかねません。

これは安静臥床による筋力低下の割合ですが、そうでなくても心身の不調などによって、ずっと家で寝たり起きたりの生活を送っているような高齢者では、一定の割合で確実に「廃用性筋萎縮」による筋力低下が進行していくことになるでしょう。

その状態を放っておけば、前回お話ししたように加速度的に「負のスパイラル」が進行していってしまい、気が付いた時には「大ごと」になっていたりもします。

したがって、もし高齢者がそのような状態に陥っている場合には、できるだけ早く「負のスパイラル」を断ち切る必要があります。

そして上向きの「正のスパイラル」への転換を図るのです。

しかし、高齢者が自ら一人で、この「負のスパイラル」から抜け出すことは「まず難しい」と言えます。

身体の不調があるとなかなか無理できませんし、心身ともにどんどん弱っていく状態では、自ら前向きな気持ちになって日々の活動量を上げていこうなどというのは、高齢者に対しては無理な注文だと思われるからです。

そのため誰かの手を借りる必要があります。

そして、思い切って生活環境や生活習慣、1日の生活サイクルなどを変えてしまうのです。

それもできるだけ早く実行する必要があります。

「負のスパイラル」状態が長引けば長引くほど、「廃用症候群」はどんどん進行していってしまいますし、そうするとますます回復しづらくなるからです。

 

在宅生活のままで「廃用症候群」からの回復を図るためには

廃用症候群」から回復には、医療的な治療と並行しながら「リハビリ」をしたり「日中の活動量を上げる」ことが不可欠になります。

もし入院加療中であれば、すぐにリハビリを開始して回復を目指すことができますが、在宅生活のままで回復を図らなければいけないケースもあるかと思います。

そのような場合、とても頼りになるのが介護保険サービスになります。

介護保険サービスを利用することができれば、自宅まで医療スタッフが訪問してくれる「訪問看護」や「訪問リハビリ」はもちろん、週に何日か施設に行き、たくさんの人と交流しながら体操やアクティビティーを通じて心身活動を活性化させてくれる「デイサービス」やリハビリ専門職の理学療法士作業療法士などからリハビリを受けられる「デイケア」なども利用できるからです。

廃用症候群」からの回復には、とにかく日中は起きてもらって心身ともに活動量を上げていくことが必要です。

そのため、他人の手を借りてでも、まずはそうなるように生活そのものを切り替えてしまうのです。

この時、非常に有効なのが「デイサービス」「デイケア」といった通所サービスの導入です。

ただ、初めは起きているのがつらかったり、知らないところへ行くことになるので不安になったりして、本人が行くのを嫌がるということがほとんどです。

それでも同居している家族が腹をくくって、本人の意志関わらず、半ば強制的であっても通所サービスに通わせることが大事なのです。

認知症患者さんの場合もそうでしたが、「廃用症候群」から回復できるかどうかは、これに掛かっていると言っても過言ではありません。

それに初めは行かせるのが大変だったとしても、何度か通所サービスに通わせているうちに、あれだけ本人が嫌がっていたのにも関わらず、あちらではスタッフから丁重な応対を受けたり、色々な人たちとの交流やアクティビティーを楽しんだりしてきて、いつの間にか普通に通えるようになってくれたりします。

施設スタッフも通所サービスに行きたがらない利用者さんをたくさん経験しているので、家族も安心して対応を任せてしまっても良いと思います。

そして、本人に通所サービスへ通う習慣ができると、施設ではみんなが起きている中で自分だけ横になるわけにもいかず、少なくとも日中は起きて過ごす時間が増えることになるので、自然と「日中は起きて夜は寝る」という生活のリズムができてきます。

すると当然日中の活動量も増えてくるので、いつの間にか体力や筋力が回復してきて「廃用症候群」の状態から脱しやすくなるのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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高齢者ほど「和式生活のススメ」(5)

前回は「使わない機能は衰える」ことの分かりやすい例として、しゃがんだ姿勢を楽にとれない人が増えてきているけれども、これは今では洋式トイレが主流になって和式トイレを使う機会が減ってしまったことが影響しているのではないかというお話をしました。

また和式生活をしている高齢者の人がベッドを導入しようとする際には、日中の活動量が減って体力が落ちたり、昼寝が増えて生活リズムが崩れやすくなるといったリスクがあることも心に留めておいてほしいというお話をしました。

今回はその続きになります。

 

廃用症候群」とは

皆さんは「廃用症候群」という診断名を聞いたことがあるでしょうか。

廃用症候群」とは、病気やケガなどの治療のため、長期間にわたって安静状態を強いられることによって生じる、身体機能の大幅な低下や精神状態への悪影響などといった様々な症状を総称したものになります。

そのため「廃用症候群」とは、何らかの原因があって過度の安静を強いられたり、日常生活の不活発や心身機能の不使用によって引き起こされる二次的な病態であるとも言えます。

前回も、入院したら日中も寝て過ごす時間が増えてしまって、心身ともに衰えてしまったという高齢者の人が少なくないというお話をしました。

高齢者が入院して治療を受けることには少なからずリスクが伴うのです。

入院による生活環境の急激な変化や点滴・手術といった治療・処置などによって心身が受けるストレスというのは、意外に大きいからです。

高齢者ではそれまでしっかりしていたような人でも、入院初日の夜に落ち着かなくなったり、妄想や幻覚が出たりする「せん妄」状態を起こすことがあるほどです。

また、安静臥床を強いられたりすると、たとえ1週間の入院であっても驚くほど体力が落ちてしまったりします。

実際に、入院したら認知症が進んでしまった、足腰が一気に衰えてしまったという高齢者が非常に多いため、そのことを知っている医療・介護従事者の多くが高齢者はできるだけ入院させないようにしようと考えています。

もし具合が悪くなったとしても、在宅のままで何とか治療ができないか模索するのです。

それでもどうしても入院が必要になった場合には、治療と併行してできるだけ早期からリハビリ介入してもらうことで、「廃用症候群」の出現・進行を予防していかなくてはなりません。

入院して病気は治ったけれども、歩けなくなってしまったというのでは全く意味がないからです。

 

廃用症候群」は普段の生活でも十分生じうる

しかし「廃用症候群」を生じさせるきっかけになるのは、何も入院や病気・ケガだけに限ったことではありません。

前回までに人間の身体には「よく使う機能は強化され、使わない機能は衰える」という特性があることや「脳の可塑性」についてもお話ししてきました。

つまり「使わない機能は衰える」ことが重なって起こるのが「廃用症候群」になるので、「廃用症候群」は普段の生活でも十分に起こりうるということです。

実は「廃用症候群」には別名があり、「生活不活発病」といいます。

実際に高齢者では、生活が不活発になることで「廃用症候群」を発症し、日常生活に支障をきたすまでに心身機能が低下しまうということが珍しくないのです。

高齢者の中には、いわばギリギリの心身状態で何とか自立して生活をしているという人も少なくないため、そういった人ではちょっとした心身機能の低下が生活動作の自立を困難にさせたり、活動量を大きく低下させかねないからです。

そのため、自宅で自立した生活を送っている高齢者であっても、何らかのきっかけで生活が不活発になり、「廃用症候群」に陥ってしまうということが十分ありうるのです。

 

廃用症候群」をもたらす「負のスパイラル」

高齢者が「廃用症候群」を発症する時には、必ず何らかのきっかけがあります。

例えば「最近動くのがおっくうになってきたな」というちょっとした思いであっても、きっかけになりうるのです。

動くのがおっくうなのであまり動かないでいたら、いつの間にか全身の筋力や体力が落ちてしまって動作が不安定になり、それでさらに動くのがおっくうになってしまって生活がもっと不活発になる。すると、さらに全身の筋力や体力が落ちてしまってもっと動作が不安定になり・・・といったような「負のスパイラル」に陥ってしまうと容易に「廃用症候群」の発症に至ってしまうのです。

また、筋力低下によって膝痛や腰痛が誘発されやすくなったり、心肺機能の低下によって動悸や息切れなども出現しやすくなってしまうので、それらが出現するとさらに生活が不活発になりかねません。

もちろん身体の具合が悪くなると、外出して人に会う機会も少なくなったりして、精神的にも気持ちがどんどん内向きになってうつっぽくなったり、活力や意欲も低下しやすくなってしまいます。

このように「負のスパイラル」が進行していくと、生活を不活発にさせる要因が、さらに新たな負の要因を出現させるといったように、「負のスパイラル」の進行が加速していきやすくなるのです。

そのため、高齢者がいったんこの「負のスパイラル」に陥ってしまうと、なかなか自力では抜け出すことが困難になります。

そして気が付いた時には、自立した生活や在宅での生活が困難になるほど弱ってしまったというように、高齢者では比較的短期間に重大事態に陥っていたりすることも珍しくはないのです。

そもそもこの「廃用症候群」をもたらす「負のスパイラル」が始まるきっかけというのは、生活を不活発にさせうる要因であれば何でもいいのです。

病気やケガといった突発的なアクシデントはもちろん、色々なストレスによる気分の落ち込み、急激な暑さ寒さや今回のコロナ騒ぎによる外出控え、認知機能の低下などのほか、和式生活から洋式生活への切り替えによって生活動作が楽になることも十分きっかけになりうるということです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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高齢者ほど「和式生活のススメ」(4)

前回は、和式生活からベッドや椅子を使う洋式の生活様式に切り替わると、生活の中で床から立ち座りする機会が減ってしまい、全身の運動機能が低下しかねないというお話をしました。

実は床からの立ち座り動作というのは全身の筋力やバランス機能を多く使うため、特に高齢者にとっては難易度の高い動作であると言え、この動作を日常的に行うことがリハビリにもつながるので、和式生活を続けるだけでも体力の維持・向上を図りやすくなるということもお話ししました。

今回はその続きになります。

 

しゃがんだ姿勢を楽にとれない人が増えている

「使わない機能は衰える」ことの分かりやすい例が「和式トイレ」の話だと思われます。

今やトイレは洋式トイレが主流となり、日常生活の中で和式トイレを使うことはほとんどなくなってしまいました。

そのため和式トイレを使えない人が増えてきたという話も聞かれます。

「使えない」というのは、若い人の中には「和式トイレを一度も使ったことがない」というような人もいて「使い方が分からないから」という理由もあるのですが、実はそもそも「しゃがんだ姿勢を楽にとれないから」という理由もあるようなのです。

和式トイレを使うには、便器をまたいでしゃがまなければいけません。

それが「楽にしゃがめない」という人が増えてきているというのです。

しゃがんだ姿勢になるには股関節と膝関節、足関節を深く曲げなければいけません。

それが特に足関節が硬かったりして、しゃがんでも踵が浮いてしまったり、踵を着けたまましゃがむとそのまま後ろに倒れてしまったりするのです。

これはふくらはぎの筋肉が硬くて伸びが悪かったり、足関節そのものの可動域が狭いために、しゃがんだ時に踵が浮いてしまったり、踵を床に着けたまましゃがむと足関節を深く曲げられないために重心を前方へ移動できず、そのまま後ろに倒れてしまうことになるからです。

数十年前には、あまり行儀の良くない人たちがコンビニの前などでしゃがんでたむろしているのをよく見かけたりもしましたが、今ではそんな光景を目にすることはほとんどなくなりました。

もちろん昔は「よし」とされていたことが今ではなかなか許容されなかったり、あまり格好が良くないと思う人が増えてきたからということもあるでしょう。

しかし、どうやら楽にしゃがめない人が増えてきたということも関係しているようなのです。

そして、この楽にしゃがめない人が増えてきた大きな原因の1つに、今では日常的に和式トイレを使うことがほとんどなくなってしまったことがあると考えられるのです。

つまり、洋式トイレが主流になったことで、毎日和式トイレを使うたびにしゃがむという習慣がなくなり、しゃがむために必要な股関節と膝関節、足関節の可動域、さらにはバランス機能や筋力までもが低下してしまったという人が増えてきたということです。

 

ベッドの弊害

和式生活をしている高齢者の人がベッドを導入しようとする際にも、是非気を付けてほしいことがあります。

それはまず前回お話ししたように、生活の中で床から立ち座りする機会が減ってしまうことで、全身の運動機能が低下してしまう恐れがあるということです。

それに加えて、目の前にベッドがあると日中でもついつい「横になりたくなってしまう」ということがあると思います。

そうすると、昼寝をしたり横になっている時間が増えたりして、どうしても日中の活動量が減って体力が落ちやすくなってしまうのです。

高齢者の人が入院したり、施設入所したりすると、目の前にいつも「寝てなさい」といわんばかりにドーンとベッドがあるので、体調の良し悪しに関わらず、横になったり寝て過ごす時間が増えてしまい、いつの間にか心身ともに衰えてしまったという話もよく聞かれます。

やはり昼間はしっかり起きて活動し、夜はしっかり寝るということが、心身ともに人間の健康にとってはとても大切なことなのでしょう。

ちなみに昼寝は長くても30分以内にしないと体内時計が乱れやすくなると言われています。

日中1時間以上もぐっすり眠ったりしていると体内時計が乱れてしまい、夜になっても眠気を促すメラトニンなどのホルモンがうまく分泌されなくなったり、身体も疲労感がなくて眠りにくくなるばかりか、眠ったとしても眠りが浅くなって、夜中に何度も目が覚めたりしてしまうなど、睡眠の質・量ともに落ちやすくなってしまうのです。

そのような睡眠状態が毎日のように続いていると、以前もお話ししたように、認知症疾患を発症しやすくなってしまいますし、認知症患者さんでは症状が増強してしまったり、様々な症状を出現させやすくなってしまうのです。(以前の記事カテゴリー:認知症と「睡眠」参照)

それで夜眠れないからと睡眠薬に頼るようになったりしたら、元も子もありません。

これも以前お話ししましたが、高齢者にとって睡眠薬を使うことのリスクは決して少なくないからです。(以前の記事:「睡眠薬」を長年使用していると「認知症」になりやすくなる!?参照)

したがって、和式生活で布団を使用していた高齢者の人がベッドを導入しようとする際には、それによって日中の活動量が減って体力が落ちたり、昼寝が増えて生活リズムも崩れやすくなるといったリスクがあるということも、是非心に留めておいてほしいのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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高齢者ほど「和式生活のススメ」(3)

前回は、人間にはもともと「神経系が環境に応じて最適の処理システムを作り上げるために、よく使われるニューロンの回路の処理効率を高め、使われない回路の効率を下げる」という「脳の可塑性」が備わっていて、「よく使う機能は強化され、使わない機能は衰える」ようになっているので、身体の健康にとっては、その人が普段どのような生活を送っているかといった生活習慣や生活環境などが非常に大切になるというお話をしました。

さらにそのことを考えれば、特に大きな問題もなく和式生活を続けてきたような高齢者が「洋式の生活は楽で便利だから」という理由だけで安易に和式から洋式の生活様式へ切り替えたりすると、運動能力面において「使わない機能は衰える」というデメリットを生じさせかねない、ということもお話ししました。

今回はその続きになります。

 

ベッドや椅子を使う洋式の生活様式になると

和式生活と洋式生活の大きな違いは、生活空間が主に「床から上」であるか「椅子の座面から上」であるかということでしょう。

和式生活では床の上に座ったり横になったりしますが、洋式生活になるとそれが椅子に座ったり、ベッドに寝るようになります。

そのため和式生活では生活の中でどうしても床からの立ち座りが多いですが、洋式生活ではそれが椅子やベッドからの立ち座り動作に切り替わります。

すると和式から洋式の生活洋式に替わることで、それまで頻繁に行っていた床から立ち座りをする機会が大きく減ってしまうことになります。

床からの立ち座り動作は、椅子からの立ち座り動作に比べて上下への体重移動が大きく、全身の筋肉と筋力をより多く使うとともに、動作中にいくつかの姿勢を介するためバランス機能も多く要求されます。

そのため足腰が弱ったり、バランスが悪くなったりすると、途端に床からの立ち座りがおぼつかなくなったりします。

もし高齢者でそのような身体状態なのであれば、安全で楽に生活できるようにする目的で洋式生活へ切り替えるというのはとても有効だと思います。

しかし、そうでないのであれば安易に高齢者が生活様式を和式から洋式へ切り替えるというのは考えものです。

「使わない機能は衰える」という特性のために、全身の運動機能が低下してしまう可能性があるからです。

 

高齢者にとって床からの立ち座り動作は難易度の高い動作

ここで床からの立ち座り動作について確認してみようと思いますが、起立動作と着座動作では、開始姿勢から終了姿勢までの動作が逆になるだけなので、ここではまず立ち上がり動作だけに着目してお話しすることにします。

皆さんまず、自分が床に座っていたとして、そこからどのように立ち上がるかを想像してみてください。

若くて健康な人だったら何も考えずにスッと床から立ち上がれると思いますが、実はこの動作は途中でいくつかの姿勢を介するものであり、どの姿勢を介するかによっていくつかのパターンができます。

まず開始姿勢は胡坐(あぐら)や正座、横座りなどの床座位姿勢になります。

そこから足腰やバランス機能に問題のない人は、どこかにつかまったり、手をつくこともなくいきなり片膝立ちになって立ち上がれるでしょう。

それが体調や年齢、体力などに応じて、片膝立ちになるまでに両膝立ちや四つ這いの姿勢を介したり、それらの姿勢から床やテーブルなどに手をついて身体を起こし、立ち上がるパターンになるかと思います。

また、膝立ち姿勢を介さずに四つ這い姿勢からそのまま両膝を伸ばして高這いになり、そこから両手を床から離して立ち上がったり、片手ずつテーブルなどに手をついて身体を起こして立ち上がるパターンもあります。

椅子座位の場合はその姿勢から膝と腰を伸ばすだけで立ち上がれるのに対し、床から立ち上がる場合には

四つ這いや膝立ち姿勢などを介したり、足の力だけでなく床やテーブルなどに手をついたりして、体重を床から立位姿勢まで押し上げるのに手の力も必要になったりするなど、全身の筋肉はもちろんバランス機能もより多く使うことになります。

そのため、加齢による体力低下や何かしらの身体の不調が伴いやすい高齢者にとっては、床からの立ち上がり動作というのは実は難易度の高い動作になっていると言えます。

床へ座る動作についても、基本的に動作の順番が逆になるだけなので、立ち上がり動作と同じく難易度が高いと言えます。

逆に床へ座る動作の方が、膝や腰を床まで下ろす動作をゆっくり調整しながら行わなければならないので、かえって難易度が高くなるかもしれません。

これは階段の上りよりも下りの方が怖く感じたり、登山では下山する時の方が神経や体力を使うというのと同じです。

筋肉が力を発揮する仕方には、筋肉が縮みながら力を発揮する「求心性収縮」と、伸びながら力を発揮する「遠心性収縮」があります。

例えば、立ち上がりや階段を上がる動作は「求心性収縮」優位の動作であり、座ったり階段を下りる動作は「遠心性収縮」優位の動作になります。

実は、筋肉の使い方としては「遠心性収縮」の方が難易度も負荷も高く、これが筋力トレーニングでは「遠心性収縮」を意識的に行った方が効果的だと言われる所以にもなっているのですが、そのため床からの立ち上がり動作よりも座る動作の方が難易度が高いとも言えるのです。

このような難易度の高い動作を和式生活では頻繁に要求されるため、確かに安全性や利便性という面を考えれば和式生活にはデメリットがあると言えるでしょう。

しかし難易度の高い動作というのは、同時に効率良く身体を鍛えてくれる運動にもなってくれます。

そういった意味においては、和式の生活様式を続けていくだけでも高齢者にはリハビリになるので、体力の維持・向上を図りやすくなるというメリットが得られることになります。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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