認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

➉幻覚(幻視・幻聴・実体意識性など)や妄想がある【認知症チェックリスト】(前)

前回までは、もの忘れを除いて認知症になると出現しやすい症状リストの説明からは一旦離れて「発達障害傾向の強い方に特徴的な診療経過」についてお話ししました。

今回からまた症状リストの説明に戻ります。

今回はチェックリストの最後の項目「➉幻覚(幻視・幻聴・実体意識性など)や妄想がある」についてです。

 

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⑩幻覚(幻視・幻聴・実体意識性など)や妄想がある

・幻視(ネズミなどの小動物や虫、人、床が歪んだり水に濡れているように見えるなど)がある 

・幻聴がある 

・実体意識性(見えないが誰かがいる気配がする)がある

・物盗られ妄想や嫉妬妄想などがある 

・幻覚がもとで妄想に発展することがある

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認知症」の疾患の中には「幻覚」や「妄想」を出すものがあります。

「幻覚」を出す具体的な疾患としては「レビー小体型認知症(DLB)」が有名ですが、その他にも「嗜銀顆粒病(AGD)」が挙げられます。

AGDでは「易怒性」の他に「記銘力障害」が後から出てきたりしますが、「幻覚」と「妄想」が前景化するタイプもあります。

このAGDは病理学的には「進行性核上性麻痺(PSP)」に100%、「大脳皮質基底核変性症(CBD)」に約50%も合併することが分かっているため、認知症を伴う神経変性疾患において「幻覚」と「妄想」は決して珍しくない症状なのです。

また「認知症」疾患ではありませんが、「妄想」を出す病気としては高齢発症する精神科領域の「妄想性障害/遅発性パラノイア」もあるため鑑別が必要になる場合もあります。

 

ではまず「幻覚」についてお話しします。

「幻覚」とは「対象のない知覚」のことであり、実際には外界からの入力がない感覚を体験してしまう症状とされています。

「幻覚」には幻視・幻聴・幻触・幻嗅・幻味の五感に含まれるものの他、幻痛や幻肢(四肢切断後に存在しない手足が依然としてそこに存在しているように感じるもの)、体感幻覚(普通であれば感じないような身体の症状を内臓感覚、皮膚感覚、痛覚などの異常として感じるもの)などがあります。

実際には存在しないものなのに本人にははっきり感じられるため、それに伴って「妄想」や「作話」などもしばしば起こってきます。

 

「幻視」で見えるものの例としては、小動物や虫、人物が一般的ですが、床が水で濡れているだとか、壁の上から水が滝のように流れているなどといった「水」に関するものも聞かれます。

小動物の例としてはネズミが壁を走っているだとか、部屋の中に猫がずっといるといったもの、虫の例としてはコップや茶碗の中に黒い小さな虫がいっぱいいるだとか、虫が背中や足を這いまわっているなどと訴える方もいました。

人物の例としては、死んだ父親がずっと左の肩のところにいるだとか、赤ん坊をずっと背負わされているだとか、部屋に知らない男の人や女の人や子供がたくさん入ってきて騒ぐ、布団の中に男の人が入ってくるなど実に様々なものがあります。

「幻視」で見える人物を特定できる場合もあれば「顔がはっきりしない」「黒い影がスーッと動く」といった場合もあります。

色彩も白と黒のモノトーンだったり鮮やかな色を伴っていることもあります。

また「錯視」といって、いわゆる見間違いによるものもあります。

床に落ちている小さなゴミが虫に見えてしまったり、天井の模様や壁に掛けてある洋服やほうきなどが人に見えて「幻視」に発展したりします。

また「変形視」という物が変形して見えるものもあり、地面が波打っているだとか、家が傾いているなどと訴える方もいます。

 

「幻視」は日中だけでなく、特に夕方から夜間にかけて出現する頻度が高くなる傾向があり、「薄暗いと見えやすいので電気をつけたまま寝ている」という方もいました。

また、これらの症状は夜間など覚醒度が落ちている時に出やすくなる傾向があるため、やはり「意識の変容」との関連性も疑われます。

周りの人に「幻視」の内容を訴えてくることで症状に気づかれることが多いですが、本人が「言わない」こともあり、そんな時は何もないところを手で払ったり、つまんだり、話しかけたり、覗いていたりなどしていて気づかれることもあります。

先日は食事中に食卓の上にない「そうめん」を「食べている」のを見て家族がびっくりしたというケースもありました。

 

「幻聴」の例としては、毎日夜になると拡声器で大きな声が聞こえる、一日中工事の音が聞こえる、夜中に若い人たちが騒いでいる声が聞こえるといったものがありました。

「幻視」や「幻聴」などの「幻覚」は本人にとって「まぼろし」とは思えないほどリアリティがあって活き活きと見えたり聞いたりしていることも多く、内容がとても具体的なので聞いた人が本当のことだと勘違いしてしまうこともあります。

また本人が「幻覚」で見たり聞いたりすることを本当のことだと思い込んで「行動化」してしまったり、「妄想」に発展して警察騒ぎになることも珍しくなく、そうすると家族や周りにいる人たちは本当に困ってしまいます。

 

長くなりましたので、次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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