前回までは、もの忘れを除いて認知症になると出現しやすい症状②の「パーキンソニズム」についてお話ししました。
今回は「③意識の変容があり、ボーッとしている時とはっきりしている時の波がある」についてです。
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③意識の変容があり、ボーッとしている時とはっきりしている時の波がある
・テレビを見ているようで見ていない様子など、うつろな時とそうでない時が入れ替わる
・疲れている時などは除き、日中ボーッとすることがある
・1つのことに集中できなくなった
・新聞を読んでいても頭に入ってこないことがある
・日中ウトウトしがちで、眠くなる
・意識を失うようなことがある
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以前も「意識の変容」についてはお話ししたことがあります。
そこでは、「意識の変容」の症状を持っている方は意外に多く、しかも本人に自覚がないことがほとんどなので、高齢者の方が起こす自動車事故が頻発していることと関連性があるのではないか、ということをお話ししました。
この「意識の変容」は認知症を呈する変性疾患において合併しやすい主要な症状なのですが、本人だけではなく周りにいる方にも「気づかれにくい」症状なので、以前のお話ししたことと重複しますが、大事なことなので再度お話しいたします。
「意識の変容」という言葉を初めて耳にする方も多いと思います。
この症状の具体例としては、高齢の方がボーッと一点を見つめて固まっていたり、みんなと会話している時に話しかけても何の反応もなくなって「ねぇねぇ、どうしたの?もしもし?」などと肩を叩いたりするとハッと我に返るなどが挙げられます。
ひどい場合には完全に意識を失ってしまって救急車で病院に搬送され、検査を受けても何の問題もなく「一過性脳虚血発作(TIA)」などと診断されるケースも少なくありません。
しかもそれを何回も繰り返し、麻痺などの身体的な症状がほとんどないといったケースでは、重度な「意識の変容」によって起こる「一過性の意識消失発作」である可能性が非常に高くなると思われます。
高齢者の方が座ってテレビを観ている時、ボーっとしてテレビを観ているのか観ていないのか分からなくなって、いつの間にかうつらうつらしていたりしますが、これも「意識の変容」で覚醒度が下がって起きている可能性があります。
実は「意識の変容」がある方に、覚醒度が落ちた状態になることについて聞くと「眠くなる」と表現する方がほとんどなので、もちろん症状の自覚もありません。
しかも周りにいる人からも「傾眠」状態でただ眠いだけだと見られがちなので、まさか認知症の症状だとは思われないのでしょう。
「意識の変容」の症状があると「意識がはっきりしている時とそうでない時が入れ替わる」のです。
この「入れ替わり」は数秒単位から分単位、時間単位、日単位で起こることが多いですが、中には週単位、長いものだと月単位で起こる方もいて、様々なスパンで起こります。
数秒から数分で起こったりすると、当然本人が自覚しにくかったり、さらに周りの人も気づきにくくなるかもしれません。
また「意識の変容」によって覚醒度が大きく下がると「一過性の意識消失発作」といった状態になりますが、やっかいなのは脳波検査などをしても、その症状が検査中に起こらない限り発見できないということなのです。
そのため検査で見つけることは非常に難しいのですが、ただ診察時の本人の様子を観察したり、普段の様子を本人や周りにいる人から聞いたりすれば、大抵の場合「意識の変容」があるかどうかは判断できると思います。
また「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」などの認知症テストの点数が、比較的短期間に大きく変動している場合も「意識の変容」の関与が疑われます。
覚醒度が下がっている時にテストをしたら、点数が下がるのは当たり前だからです。
それに認知症は徐々に進行するものであり、数ヶ月から半年ぐらいの間にテストの点数が10点も変動したりすることはまずないからです。
「意識の変容」が起こりやすい認知症疾患としては「レビー小体型認知症」が有名です。
「レビー小体型認知症」は日本で2番目に多いとされる認知症疾患ですが、幻覚やパーキンソン症状などとともに覚醒度が波打つ「意識の変容」が主要な症状の一つになっています。
しかし「レビー小体型認知症」に限らず認知症症状を伴う他の神経変性疾患でも、実はこの「意識の変容」が見られることが少なくありません。
神経変性疾患は徐々に脳の神経が障害されて発症する病気ですので、病巣の拡がりとともに「意識」や「覚醒度」をつかさどる領域の脳神経や神経ネットワークが障害を受ければ、当然「意識の変容」の症状も現れてくるからです。
「意識の変容」によって覚醒度が落ちると、それに付随して他の認知症症状も出やすくなります。
例えば覚醒度が落ちている時に何かをしたり、言われたとしても、本人は覚えていないということが起こり、それが「もの忘れ」として表現されたりします。
また、覚醒度が落ちていると正常な認知や判断がしにくくなるので、変なことを言い出したり(妄想)、怒りやすくなったり(易怒性、スイッチが入って目が据わる)、物を人と見間違えたり(錯視)ないはずの物や人が見えたり(幻視)聞こえたり(幻聴)感じたり(実体意識性)といったことも起こりやすくなるため、潜在的にあった他の認知症症状を引き出してしまったり、増強してしまうことになりかねません。
そのため「意識の変容」がある場合は、それをしっかり治療することが大切になります。
「意識の変容」がなぜ起こるのかはまだ明らかになってはいませんが、実は「てんかん」の一種ではないかと思われるフシがあります。
なぜなら、この症状の治療に微量の抗てんかん薬(エクセグランなど。ちなみにエクセグランはパーキンソニズムを改善させる作用もあります)投与が有効な症例が少なくないからです。
治療がうまくいくと、診察中に一点を見つめて固まってしまったり、眠ってしまったりしていたのが、診察中ずっとシャキッとしてスムースに会話できるようになったりするので本当にビックリします。
しかしながら症状の強さにもよりますが、治療としては抗てんかん薬を使用する前にもできることはいくつかあります。
まずは当たり前のことですが、日中はしっかり起きて夜しっかり寝るという生活リズムを確立することです。
寝不足で眠気があると、当然ボーっとしやすくなって「意識の変容」も起こりやすくなるからです。
そのため認知症患者さんには、介護保険サービスでデイサービスなどを利用して生活リズムを作り、日中はしっかり起きる時間を確保するように勧めたりしますが、それでも難しい場合は漢方薬や適量の睡眠薬を併用したりもします。
体内時計を整えるために朝日を浴びたり、朝食を食べたり、運動をしたりということもとても重要です。
昼寝も長くても20~30分までにした方が良いでしょう。
また「意識の変容」(に限らず多くの認知症の症状も)は便通の有無や天候などによって大きく影響を受けるので、そのこともっかり認識しておくことが必要になります。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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