認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

④言葉の理解や発語がスムースでなかったり(失語)、人の顔や名所などが分からない(視覚性失認)【認知症チェックリスト】(前)

前回までは、もの忘れを除いて認知症になると出現しやすい症状③の「意識の変容」についてお話ししました。

今回は「④言葉の理解や発語がスムースでなかったり(失語)、人の顔や名所などが分からない(視覚性失認)」についてです。

 

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④言葉の理解や発語がスムースでなかったり(失語)、人の顔や名所などが分からない(視覚性失認)

・言葉の意味がすぐに分からなかったり、言いたい言葉がすぐに出てこなかったりする(失語)

・分からないと怒ったり、笑ってごまかしたり、話を逸らしたりする

・都合耳に(一見耳が遠く)なった 

・テレビを見たり、本や新聞を読まなくなった

・電話で一方的に話したり、頼みごとが伝わっていないことがある 

・文字を書いたり、文章を読むことができなくなってきた(失書・失読)

・人の顔や名所などが分からなくなった(相貌失認・街並失認)

・身近な人が別の人と入れ替わって認識されていることがある(カプグラ症候群)

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右利きの人は左の側頭葉、左利きの人は右の側頭葉に言語中枢があると言われていますが、そこに病変が及ぶと「失語」症状が出現してきます。

「失語」とは「語義失語」とも言われる通り、言葉の意味が分からなくなってしまうことです。

脳出血脳梗塞などで側頭葉の広範囲が一気に障害される場合は除いて、認知症を伴う神経変性疾患の場合は徐々に病変が拡がっていくので、いきなり全ての言葉の意味が分からなくなるということはありません。

分からない言葉が少しずつ増えてくるのですが、そのため周りの人にはなかなか気づかれにくい傾向があります。

分からない言葉が全体の1~2割程度にまで増えてきて初めて周りの人から「あれ?通じてないのかな」と気づかれる場面が出てきたりします。

ただ「メラビアンの法則」によれば、コミュニケーションで相手に伝えている情報量の割合は、話し手の表情や目線、態度、仕草といった「視覚情報」が全体の55%を占め、声のトーンや口調、テンポといった「聴覚情報」が38%、言葉そのものの意味や、言葉で構成される話の内容である「言語情報」はわずか7%しかないと言われています。

そのため対面での会話では、たとえ失語があったとしても、その他の情報でカバーできてしまうので、さらに気づかれにくくなります。

しかし聴覚以外の情報が使えない電話のやり取りでは、話の理解が途端に悪くなるため気づかれやすくなります。

本人が電話してきても、自分が言いたいことを一方的に言って電話を切ってしまう、ということもよく聞かれます。

また話が分からなくなると、笑ってごまかしたり、話題を変えたりするほか、分からなくなって怒り出すこともあります。

そして診察室でも最もよく遭遇するのが「都合耳」です。

家族から「耳が遠いので聞こえないかもしれません」と言われていても、同じ声の大きさでも聞こえている時と聞こえていない時があり、自分が理解できる話や質問にはスムースに答えられるのに、分からないと「エッ?何?」などと言って途端に耳が遠くなるのです。

そのため「難聴」と言われている方の中には、少なくない割合で「失語」の方がいるのではないかと思われます。

 

ちなみに「失語」では、発話、復唱、聴覚的理解、読字、書字といった様々なレベルで障害が起こってくるので、その方によってどこが得意でどこが苦手なのかはちゃんとした検査をしないと分かりませんが、「失語」があるかどうかだけであれば以下のような簡単なテストでも確かめられます。

例えば口頭で「利き手はどちらですか?」「アフリカに住んでいる首の長い動物は何ですか?」と質問したり「左手で右の方を叩いてください」などと指示したりします。

すると「利き手」の意味が分からなかったり、左右が分からなかったり、そもそも質問そのものの意味が分からなかったりして、全く答えられないという方もいます。

口頭の課題でよく引っかかるのが「次に言う『ことわざ』の続きを言ってください」というもので「猫に」「猿も」「弘法も」と順番に聞いていくのです。

すると「ことわざ」の意味が理解できずに全く答えられなかったり、「猫にかつおぶし」と言ったりする方も結構います。

また「猿も木から落ちる」と回答できても、その意味を聞くと表面的な言葉通りにしか答えられなかったりします。

漢字の音読では「春雨」「流木」「団子」「海老」「七夕」「土産」などを読んでもらったりしますが、典型的な間違えとしては「流木」を「りゅうぎ」、「海老」を「かいろう」、「土産」を「どさん」と読んだりします。

またよくある間違えとして「喫煙」を「きんえん」と読んでしまったり、ちゃんと読めるけれども意味を聞くと「タバコを吸ってはいけない」などと答えたりします。

その他には「右手を挙げてください」という文章を読んでそれに従ってもらったり、文章を復唱してもらったりもします。

また書字の検査で口述した簡単な一文を書いてもらったりもします。

 

長くなりましたので、次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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