認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

②パーキンソニズム(パーキンソン症状)がある【認知症チェックリスト】(後)

前回は、主にパーキンソニズムの「固縮」と「姿勢反射障害」について取り上げました。

今回はその続きです。

 

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②パーキンソニズム(パーキンソン症状)がある

・表情が乏しくなった

・瞬目(まばたき)が減った 

・動作が鈍くなった 

・手足のこわばりがある

・バランスが悪くなった(特に前後で) 

・階段は手すりがないと上り下りできず、特に下りが怖くなった

・歩行時に「フワフワ」した感じがする

・歩く姿勢が前屈みになった 

・歩きが小刻み、すり足になった 

・すくみ足がある。歩き初めや狭い所を通る時、目的地が近づいてきた時や方向転換して座ろうとした時などに顕著になる

・歩行時に手を振らない(左右差がある)

・よくつまずいたり、転ぶようになった

・坐位や立位で身体が傾いていてもそのままで自分で修正できない(斜め徴候)

・何もしていない時に手足が震える(安静時振戦)

・動作が鈍くなった(動作緩慢)

・字が小さくなった(小字症)

・声が小さくなった(小声症)

・しゃべりにくくなった(構音障害)

・飲み込みが悪くなった。よくムセる。よだれが出る(嚥下障害)

・寝返りや起き上がりがしにくくなった

・起き上がる時まっすぐ起きる

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パーキンソニズムの症状として最も気づかれやすいのが「歩行状態」ではないでしょうか。

「すり足」「すくみ足」「小刻み歩行」などは、パーキンソニズムのある方にはとてもよく見られる症状です。

足がしっかり上がらずに地面へ擦るように歩くのが「すり足」で、お能の歩きに似ていて、歩く時には頭の上下動がほとんど見られません。

「すくみ足」は歩き初めの一歩が出づらくなったり、狭い所を通る時、目的地が近づいてきた時や方向転換して座ろうとした時などに足がすくんでうまく出なくなってしまう症状です。

「小刻み歩行」は歩幅が小さくなってチョコチョコ歩きになっているもので、上記の「すくみ足」が出やすい場面で顕著になる傾向があります。

パーキンソニズムが進行すると「姿勢反射障害」によって立ち直り反応が弱まり転びやすくなるため、立位や歩行時に姿勢を保ったまま自分で重心を移動できる範囲が、物理的に重心を移動させても転倒しない範囲(支持基底面)に比べてだんだん狭くなっていきます。

そうすると步く時に重心を左右の足へしっかり移動するのが難しくなってしまいます。

本来、歩く時には左右の足へ重心を移動し、連続して交互に片足立ちになることで、逆の足をしっかり浮かせて前へ振り出せるのですが、左右への重心移動がスムースにできなくなるとそれが難しくなり、前にちょっとしか足を出せなくなったり、足が出ずにその場に立ちすくんでしまうことになるのです。

これがパーキンソニズムの典型的な歩行につながります。

 

また、パーキンソニズムは実はパーキンソン病関連疾患に限らず、他の様々な疾患や病態でも出現することがあります。

例えば大脳基底核領域に多発性の微小脳梗塞があったり、正常圧水頭症などがある場合には典型的なパーキンソニズムが出現します。

脳血管性障害に起因するパーキンソニズムについては、特に血管性パーキンソニズムとも言われるのですが、パーキンソン病で出現するパーキンソニズムと、脳血管性障害などで出現する血管性パーキンソニズムには異なる特徴があります。

実はそのことがパーキンソニズムを分かりにくくしている点にもなっているのですが、例えばそれぞれにおいて出現する典型的な歩行時の症状として、同じ「小刻み歩行」があります。

しかし同じ「小刻み歩行」といっても、パーキンソン病では「歩隔」という歩行時の左右の足の幅が狭く、膝屈曲位で前傾位になって「チョコチョコ」歩く中で見られるのに対し、血管性パーキンソニズムでは「ワイドベース」といって歩隔が広く、膝が伸びたままで後方重心でお尻が引けたまま小刻みに歩くのが特徴になっているため、同じ「小刻み」であってもパーキンソン病のものとは大きく歩容が異なるのです。

そのため、これらの特有な歩行の特徴から、パーキンソン病によるものなのか、それとも脳血管性のものなのかを推測することができます。

また、その他にも疾患によって特徴的なパーキンソニズムがいくつかあるので、逆にそれらの症状からどんな疾患なのかをある程度推測することもできるのです。

そういった意味でもパーキンソニズムの症状をしっかり把握することはとても大切です。

 

ただ以前もお話ししたようにパーキンソニズムの症状は非常に多彩です。

さらに同じパーキンソニズムであっても疾患や病変部位によって左右差があったり、独特の姿勢があったり、動作の特徴があったりするので、「五感」を使ってそれらの症状ををいかに察知し、診断に結び付けられるかが大切になります。

例えば診察室に近づいてくる小刻みな「キュッキュッキュッ」という床の靴音で、すり足や小刻み歩行があるなということが分かります。

そして診察室に入ってきて椅子に座るまでの動作や姿勢、表情などの「見た目」だけで、ある程度パーキンソニズムの有無と症状の強さを確認することができます。

具体的に言えば、動作からはパーキンソニズムに特徴的な歩行がないか、手の振りに左右差はないか、動作がゆっくりになっていないか、フラついていないかなど、姿勢からは身体が左右に傾いていないか、後方重心になっていないか、体幹が前傾になっていないかなど、表情からは瞬目が少なく目がパッチリしていないか、顔のシワが少なくてツヤツヤしていないか、表情が乏しくなっていないかなどがすぐに分かるでしょう。

会話で声を聞くことができれば、抑揚のない小さな声になっていないか、呂律不良や構音障害がないかなどもすぐに確認できます。

受診前に問診票を書いてもらっている場合には、字が小さくなっていないか、ヘビが這ったような字になっていないかなども確認できるでしょう。

これらはすべてパーキンソニズムの症状であり、これらの有無が何の疾患か鑑別診断する上で非常に有用な情報になるのです。

パーキンソン病レビー小体型認知症が疑われる場合には、もともとの性格を聞いてみて、もしチャキチャキしていて落ち着きがなく、エネルギッシュで社交的でおっちょこちょいの所もあって・・・というようなADHD(注意欠陥多動症)タイプの方だったら、それらの疾患である疑いがさらに強まります。

またASD(自閉症スペクトラム)タイプの方はもともと軽度のパーキンソニズムの症状を合併していることが多いため、ギョロッとした顔つきになっていたり、歩行時の手振りが減っていたり左右差があったりしますが、それらの症状がパーキンソニズムを呈する疾患によるものなのか、もともとのASDによるものなのかを鑑別するために各種画像検査を行ったりします。

 

以上になりますが、今回お話しした症状の他にもパーキンソニズムにはたくさんの症状があります。

それらについては今後の話題の中でその都度取り上げていければと思います。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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