前回に引き続き今回も「パーキンソン症状」を主訴に受診された「発達障害」傾向のある症例についてお話しします。
3番目の症例は70代の男性で「めまい」を主訴に来院されました。
職業は理容師であり、現在も理髪店を経営されています。
「めまい」は10年前から出現していて色々な病院に行って調べたけれども原因が分からずじまい。
1年前からはさらに「ふらつき」が強くなってきたため当院への受診に至りました。
以下が初診時の問診内容です。
・10年前からめまいがあって、1年前から強くなってきた。
・フワフワしたり、クラクラするめまいやふらつきがひどい。座っていると大丈夫だが、立つと途端にふらつく。
・1年半前に他院で脳脊髄のMRI検査をしたが問題なかった。
・また半年前に耳鼻科でメニエール病を疑って検査をしたが問題なかった。
・30年前に不定愁訴があって一時期精神科に通院し、抗不安薬を処方されていた。それ以来、近医でずっと抗不安薬を出してもらって飲んでいたが、1か月前に中止するよう言われてそれからはやめている。
・時々便秘がある。
・夢は見る。寝言やイビキはないです。
・手の震えや手足の冷え、匂いがおかしいなどの症状はありません。
次に初診時に行った主なテスト結果と所見を以下にまとめます。
・指節運動失行テスト:両手指とも軽度拙劣で、両側とも明らかな鏡像運動が出現。
・固縮:左優位に両側とも陽性。
・手回内外テスト:左側が陽性(左前腕の動きが鈍い)。
・マイヤーソン徴候:陽性。
・脂漏性顔貌(顔が脂でテカテカしていてシワも少ない):陽性。
・姿勢反射障害:後方優位に前後で障害。後方突進あり。
・歩行:歩き初めによろめく場面あり。左手優位に両手の振りが減少。股関節と膝関節が軽度屈曲位のままで、すり足や小刻み、ターン遅延、動作緩慢あり。
・小字症:陽性。
これらの結果からパーキンソン病が疑われたため、頭部MRI検査と脳血流シンチ検査(SPECT)、MIBG心筋シンチ検査(パーキンソン病やレビー小体型認知症などで陽性になる)、DATスキャン検査(パーキンソン病、レビー小体型認知症、大脳皮質基底核症候群、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症などで陽性になる)を実施しました。
すると以下のような結果になりました。
・脳SPECT検査:両側後部帯状回の血流低下。
・MIBG心筋シンチ検査:陰性。
・DATスキャン検査:陰性。
これによりMIBG心筋シンチ検査とDATスキャン検査が陰性だったことから、パーキンソン病関連疾患や大脳皮質基底核症候群などの神経変性疾患は否定されました。
また頭部MRI検査で両側海馬の萎縮があることに加え、脳SPECT検査で両側後部帯状回の血流低下というアルツハイマー病特有の結果が得られたことから「初期のアルツハイマー病」という診断になりました。
ただやはり初期のアルツハイマー病ではパーキンソン症状は合併しないため、追加で「発達障害」の検査を実施したところ、結果は以下のようになりました。
・成人期ASD(自閉症スペクトラム障害)検査:陽性。
この結果よりこの方は元々ASD特性を持っていることが分かりました。
また指節運動失行テストで鏡像運動が認められたことや過去に精神科通院歴があること、自営業であることも「ASD」の診断を後押ししています。
したがって動作観察の所見や神経学的検査で認められた固縮やマイヤーソン徴候、脂漏性顔貌、小字症、後ろに軽く押されただけで後方に転倒しかねないほどの強い姿勢反射障害、歩行時に手振りの左右差やすり足、小刻み、ターン遅延、動作緩慢などのパーキンソン症状は、実はASD由来のものだったと考えられます。
つまり、この方の主訴であった10年来の「めまい」はASDの症状だったのです。
ASD由来のパーキンソン症状でこれほどまで明らかなものはそれまで経験したことがなかったので、正直この症例にはとても驚きました。
治療としては、アルツハイマー病の初期であることから、アルツハイマー病の治療薬の1つで脳の血流を上げてパーキンソン症状の改善も期待できる「リバスチグミン」4.5mgを1日1枚と「夢を見る」ということから睡眠の質を上げるとともに「不安感」の軽減も期待できる「抑肝散」2.5gを就寝前に処方しました。
さらに「不安感」の改善が期待できる「甘麦大棗湯」2.5gを朝に追加するとともに前頭葉機能を整える効果があるサプリメントの「フェルラ酸」もお勧めしました。
すると数か月後には「めまい」が軽減されて歩行時のふらつきも改善されたのです。
また表情も徐々にスッキリした感じになり、受け答えも以前に比べてスムースになりました。
ちなみにASD由来のパーキンソン症状に対して、ドーパミンの働きを補う抗パーキンソン薬を投与した場合、「かえって具合が悪くなった」と言って内服を止めてしまう方が少なくありません。
そのため少量の抗パーキンソン病薬を投与することで、出現しているパーキンソン症状がパーキンソン病関連疾患によるものなのか、ASDによるものなのかを鑑別できる場合もあります。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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