総務省統計局によると2019年の65歳以上の高齢者人口は3588万人にのぼり、これは日本の全人口の28.4%にあたるそうです。
さらに高齢者白書によると2012年の認知症患者数が約460万人で高齢者人口の15%という割合だったのが、2025年には20%となり5人に1人の割合になるものと推計されています。
日本人の平均寿命の伸びとともに、ますます認知症になる方が増えてきていると言えます。
そもそも認知症とは「記憶障害のほかに、失語、失行、失認、実行機能の障害が1つ以上加わり、その結果、社会生活あるいは職業上明らかに支障をきたし、かつての能力レべルに比べて明らかな低下が認められる状態」だとされています。
しかし、あくまで「認知症」というのは「病名」ではなく様々な症状を呈する「症候群」としての名称になります。
これはパーキンソン病によく似た症状を呈する疾患群のことを「パーキンソン症候群」と呼ぶのと同じです。
「認知症」も以前「認知症チェックリスト」(過去記事「【認知症チェックリスト】のまとめと使い方 」参照)で挙げたような様々な症状を呈する疾患群のことを指しているのであり、認知症症状を出現させる原因になっている疾患が本来の「病名」になります。
認知症症状を出現させるような疾患は非常にたくさんありますが、その中でも一番多いのが「アルツハイマー型認知症」です。
大まかな認知症疾患の割合としてはアルツハイマー型認知症が5割、レビー小体型認知症が2割、脳血管型認知症が2割、その他の認知症が1割程度になっています。
実は様々な統計報告があるのですが、アルツハイマー型認知症が全体の半分~6割程度を占めているものがほとんどであり、当院でも多くの方がこの診断を受けます。
また最近は複数の認知症疾患を合併することが多いということも分かってきました。
例えばアルツハイマー型認知症に次いで多いレビー小体型認知症では、その6割がアルツハイマー型認知症を合併しているという報告があります。
また当院で診断を受けた脳血管型認知症を初めとするその他の認知症疾患においても、はっきりした割合までは分かりませんが、アルツハイマー型認知症を合併しているケースが少なくありません。
さてこのアルツハイマー型認知症は以下のように発症すると考えられています。
まず「老人班」と呼ばれる異常たんぱくのアミロイドβ(ベータ)と「神経原線維変化」と呼ばれるリン酸化したタウたんぱくが徐々に脳に沈着していくことで脳神経が変性し、記憶に関わる海馬や運動の計画実行や空間認知に関わる頭頂葉などから徐々に脳全体が萎縮していき病気が発症します。
実はアルツハイマー型認知症は「発症」する20~25年前から「発病」し、始まっているとも言われます。
発症の20~25年前からアミロイドβが溜まり始め、15年前からはタウたんぱくが増えて海馬なども萎縮し始め、10年前からは記憶力の低下が起こり始めるというのです。
ちなみにアミロイドβやタウたんぱくが蓄積し始めていても症状のない段階は「プレクリニカル」期と呼ばれ、さらに脳病変が進行して実際にもの忘れが目立ち始める「軽度認知障害(MCI)」を経て、その後3年以内にアルツハイマー型認知症に進行する割合が4割程度だと言われています。
そして現在日本にMCIの方は約400万人いると推計されています。
次にアルツハイマー型認知症の症状の特徴についてですが、まず発症初期に目立ってくるのが短期記憶障害です。
昔のことは比較的覚えているけれども、新しいことが覚えられないというものです。
アルツハイマー型認知症はいつの間にか発症してゆっくり進行していきます。
それでも発症初期には本人が記憶障害を自覚していることが多く、そのために不安になってうつっぽくなったり、情緒不安定になったり、やる気がなくなって引きこもりがちになったりします。
また物事を計画して実行することや抽象的な思考をすることが難しくなったりします。
中期以降になると数年から数年前の記憶も障害されていき、病識も薄れ、時間や日付の感覚が鈍くなったり、言葉の意味や人の顔、街並み、建物などの認識ができなくなったり、自分のいる場所が分からなくなって迷子になりやすくなったりします。
末期になると記憶全般が障害され、性格が変わったり、発語が少なくなるとともに、身体機能も落ちて動けなくなってきます。
このように病期に合わせて記憶障害、実行機能障害、失行・失語・失認といった「中核症状」が進行していくとともに、中核症状が本来の性格や本人を取り巻く環境などに影響して妄想、幻覚、抑うつ、不安、緊張、焦燥、興奮、徘徊、不眠、幻覚、意欲の低下といった「周辺症状、行動・心理症状(BPSD;Behavioral Psychological Symptoms of Dementia)」が現れてくるのも特徴です。
アルツハイマー型認知症の診断については、まず病歴で上記のような症状やエピソードが聴取されること、長谷川式認知症スケール(HDS-R)などの認知機能検査で短期記憶障害が認められること、時計描写テストで空間認知の障害が認められること、神経学的所見として目立ったパーキンソン症状が認められないこと、などがあるとアルツハイマー型認知症の疑いが強くなります。
その場合、アルツハイマー型認知症では海馬や頭頂葉の萎縮しやすいため、頭部MRI検査にて同部位に萎縮があるかどうかを確認します。
特に海馬は脳の記憶や空間学習能力に関わる脳の器官であり、アルツハイマー型認知症を診断するうえで重要な所見となっています。
また、頭部MRI検査を行うと「VSDAD(Voxel-Based Specific RegionalAnalysis System for Alzheimer's Disease)」という前駆期を含む早期アルツハイマー型認知症の診断を支援するためのソフトによる解析結果も得られます。
アルツハイマー型認知症では海馬の萎縮に先行して海馬傍回が萎縮することが分かっており、VSRADでは頭部MRI画像データを利用して海馬傍回の萎縮度を正常脳と比較し数値化してくれます。
この数値は「Zーscore(ゼットスコア)」と呼ばれ、数値が2.0を超えると9割以上の確率でアルツハイマー型認知症の疑いがあるとされています。
ちなみにアルツハイマー型認知症では、頭頂葉の萎縮から始まる場合と海馬の萎縮から始まる場合があるようです。
またアルツハイマー型認知症では異常たんぱくのアミロイドが徐々に脳に沈着して発症するとお話しましたが、それによって脳の微小血管が脆くなり多発性に微小出血を起こしやすいという特徴もあるため、頭部MRI画像ではそのような所見の有無についても確認しています。
さらにアルツハイマー型認知症の診断において最も威力を発揮するのが脳血流シンチグラフィー(脳SPECT)検査です。
脳SPECT検査では脳の部位ごとの血流状態を調べます。
脳血流とその部位の機能は相関しており、もし脳血流の低下が認められる場合はその部位の機能も低下していると考えられているためです。
アルツハイマー型認知症では大脳の内側面にある「後部帯状回」や「楔前部(けつぜんぶ)」、「頭頂葉」などの血流が低下しやすい特徴があります。
特に「後部帯状回」の血流が低下していることが多く、この所見が認められた場合にはアルツハイマー型認知症と診断しています。
他の認知症疾患と診断されていても、この所見が認められることが少なくなく、そういった場合はアルツハイマー型認知症が合併していると考えています。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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