認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「睡眠不足」は「認知症」への第一歩!(前)

「睡眠不足」だと「認知症」になりやすくなる

前回までの「レビー小体型認知症を知れば『認知症』が理解しやすくなる(1)~(8)」でお話ししてきた概要を以下に整理してみます。

レビー小体型認知症は「意識の変容」が一番の主要な症状であり、「意識の変容」によって覚醒度が下がってボーッとするともの忘れや幻覚・妄想などの症状を増悪させてしまいます。

そのためレビー小体型認知症では「意識の変容」を治療することが最優先されますが、「意識の変容」は「睡眠」と非常に密接に関連しており、良質な睡眠習慣を持ってもらうことが治療の中核にもなっています。

逆に言えばレビー小体型認知症では「睡眠に何かしらの問題を抱えている方が多い」ということになりますが、実際に当院を受診される方のほとんどが不眠や夜何度も目が覚める、大きなイビキをかく、よく夢を見る、寝言を言う、自分の声で起きてしまう、夜寝ぼけて起きて行動してしまうといった症状を抱えています。

これらの一連の症状を呈する病気としては「レム睡眠行動障害」が有名です。

レム睡眠行動障害」があると14年後に90%以上の方が「αシヌクレイノパチー」というパーキンソン病レビー小体型認知症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺などが含まれる神経変性疾患に移行するという報告もあり、レム睡眠行動障害」は認知症を伴う変性疾患の前駆症状であると考えられています。

そのため「レム睡眠行動障害」があって夜間の睡眠の質が落ちると認知症になりやすいばかりか、認知症の方では病態をどんどん進行させてしまうことにもなりかねません。

したがってレビー小体型認知症の治療の第一歩としては「夜はしっかり眠ってもらって、日中はしっかり起きてもらう」ことを目指し、投薬治療と同時に「体内時計」を整えるような生活習慣の改善にも取り組んでもらうことが不可欠になっています。

「体内時計」を整えるためには「光の刺激」と「食事の刺激」を生活の中にうまく取り入れることが大切だということは前回お話しした通りです。

実際に夜間の睡眠状態が改善されるだけで「意識の変容」が改善し、その他の認知症の症状が改善される症例を数多く経験しています。

したがって「睡眠」は「認知症」の発症や予後と密接に関連していると言えます。

また「睡眠不足」は「認知症」だけでなく、心身の健康全体にも大きな害を及ぼしている可能性が高いと言えます。

そこで今回は「レビー小体型認知症」からは一旦離れて「睡眠不足」による脳への影響についてお話ししたいと思います。

 

「睡眠不足」だと脳にアミロイドβが蓄積しやすくなる

認知症疾患で一番多いアルツハイマー病は、脳にアミロイドβといういわゆるタンパク質のゴミが溜まっていき、それによって脳神経が変性・脱落して徐々に脳の萎縮が起こり発症すると言われています。

したがって、いかにアミロイドβを脳に蓄積させないかがアルツハイマー病の予防および進行を防ぐカギになるのですが、実は脳のアミロイドβは寝ている間に掃除されて脳から排出されています。

頭蓋骨と脊柱管の中は脳脊髄液という液体で満たされており、脳と脊髄はその中でプカプカ浮いているような状態で存在しています。

脳脊髄液は絶えず循環しており1日に約500ml産生されるので、1日に約3~4回入れ替わっている計算になるそうです。

脳の表面に蓄積されたアミロイドβはこの脳脊髄液と一緒に洗い流されて排出されるのですが、深い眠りの時間帯であるノンレム睡眠期に特に多く排出されることが知られています。

そのため「睡眠不足」や、眠りの質が悪いと脳のアミロイドβがうまく排出されずに蓄積されやすくなるため、そのような生活が長年続くと当然アルツハイマー病を発症しやすくなるわけです。

 

「睡眠不足」は脳機能を大きく低下させる

また「睡眠不足」があると何をするにも反応が鈍くなって、身体がいつも通りに動かなくなってしまいます。

「睡眠不足」だと脳の情報処理スピードが緩慢になるため、筋肉に指令が伝わるのが遅くなり、細かい動作が難しくなったり、動作が鈍くなったりするのです。

実際に「睡眠不足」が脳にどのような影響を与えているのかについて整理しますと、

・記憶や学習能力の低下

・集中力の低下・注意維持困難

・認知・判断機能の低下

・創造性・論理的思考能力の低下

・感情制御機能の低下

・行動抑制機能の低下

・意欲の低下

・自己評価の低下

・精神的ストレスの蓄積

などがあるとされています。

お気づきだと思いますが、これらはすべて「認知症」の症状としてよく知られているものばかりです。

「記憶や学習能力の低下」は「もの忘れ」や「新しいことを覚えられない」という認知症の代表的な症状ですし、「集中力の低下・注意維持困難」、「認知・判断機能の低下」、「創造性・論理的思考能力の低下」などは認知症の中核症状そのものです。

「感情制御機能の低下」は、認知症になると感情のコントロールが難しくなって「キレやすくなる」「怒りっぽくなる」など「易怒性」が高まることが少なくありません。

「行動抑制機能の低下」は、認知症になると感情だけでなく行動の抑制も難しくなって、周りのことなど考えずに「Going my way」的な行動も目立ってくることがあります。

「意欲の低下」は、認知症になると「何もやる気が起きない」という状態になって「引きこもり」になる方も多くいらっしゃいます。ひどくなると「アパチー」という状態にもなります。

「自己評価の低下」は、認知症の初期に「何かおかしい。こんなこともできなくなったのか」などと自分のことをまだ客観的に顧みることができる時期に、これが原因で「うつ」になりやすいことが知られています。

「精神的ストレスの蓄積」は、認知症になると上記のような症状によって毎日解決できない問題が増え、日常生活や人間関係でうまくいかないこと、金銭面や将来の不安などが大きなストレスになるばかりか、思考が「堂々巡り」してしまってさらにストレスが溜まりやすくなります。

つまり「睡眠不足」で脳の機能が落ちている状態というのは「認知症」の方の脳状態と酷似していると言えるのです。

そのため「認知症」の方が「睡眠不足」になるとさらに症状が悪化してしまうことはもちろん、「認知症」でない方でも「認知症」に似た脳の状態になってしまうわけです。

そのような状態が続くと当然「認知症になりやすくなる」のではないでしょうか。

したがって「認知症」の方に限らず「脳」の健康を保つ上では「睡眠の質」をいかに高く保つことができるかがカギになるのだと思われます。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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