前回は、レビー小体型認知症では非常に多彩な認知症症状が出現するけれども、その中には他の認知症疾患でも認められるものが少なくないため、レビー小体型認知症の症状や治療について理解することは「認知症」全体を理解するうえで非常に役に立つというお話をしました。
そしてレビー小体型認知症の診断基準を紹介したうえで、一番の中核症状である「意識の変容」についてお話ししました。
今回はさらに「意識の変容」について前回お伝えしきれなかった点からお話を始めようと思います。
「意識の変容」は認知症疾患ではありふれた症状
「意識を失ってしまって救急車で病院に搬送され、検査を受けても何の問題もなかった」というのはレビー小体型認知症の方でよく聞かれるエピソードです。
しかもそれを何回も繰り返し、麻痺などの身体的な症状がほとんどないといったケースでは、重度な「意識の変容」によって起こる「一過性の意識消失発作」である可能性が非常に高いと思われます。
ただそこまで症状がひどくなくても、認知症疾患の方では「意識の変容」を有している場合がほとんどだといっても過言ではありません。
高齢者施設などに行くと、ボーっとしている人やウトウトしている人がいかに多いかに驚かされます。
実はそういった方の多くが「意識の変容」のために覚醒度が落ちて、ボーっとしたりウトウトしているのだと考えられるのです。
ボーっとするのは高齢者では「当たり前」のことだと思われがちですが、決してそうではありません。
認知症の症状が全くないと高齢の方でもシャキッとしていて、表情も受け答えも実にはっきりしており、動作も素早かったりします。
また「意識の変容」の治療が上手くいってシャキッとすると、家族の方が「やっぱり前はボーっとしてたんですね」だとか「日中ウトウトしなくなりました」などとお話されるからです。
ただやはり一般的には高齢者はボーっとしたり、ウトウトするものだと思われがちなので、周りからはまさか「意識の変容」という認知症の症状のために起こっているとは夢にも思われないのでしょう。
残念ながら医療従事者も例外ではありません。
もちろん本人にも症状の自覚がないことがほとんどです。
だから是非皆さんに知っていただきたいのです。
高齢者の方がボーっとしたり、ウトウトしているのは、決して「普通のこと」ではなくて「病的」であること、そしてそれは「意識の変容」によって起こっている可能性が高く、そのような方は何かしらの認知症疾患が始まっている可能性が高いということをです。
そうすれば認知症が進行してしまう前に診断を受けて、早期に治療を開始できるかもしれません。
認知症は早期であればあるほど治療効果が得られやすいからです。
「意識の変容」が他の認知症症状を引き出したり増強させる
「意識の変容」について皆さんに広く知っていただきたい理由がもう一つあります。
それは実はこの症状が他の様々な認知症症状を引き出してしまったり、出現している症状を増強したり修飾しやすいからです。
実際に治療によって「意識の変容」が軽減されると、他のもの忘れや易怒性、幻覚・妄想といった症状も自然に軽快し、落ち着いてくるということを多く経験しています。
誰でも覚醒度が落ちてボーっとしている時には正常な認知や思考、判断が難しくなると思います。
そのような状態では何かを言われたり、行っていたとしても「覚えていない」ということが起こり、それが「もの忘れ」と表現されたりするのです。
また誰かに何かを言われても、しっかり理解して判断し、理性的に行動することが難しくなるため「怒りやすくなる」ということもあるでしょう。
それがひどい場合にはあたかも日中起きているのにも関わらず、まるで夢の中にいるような精神状態になって幻覚や妄想に発展することもあります。
そのためレビー小体型認知症では「意識の変容」の治療が最優先されるのです。
「意識の変容」に対する治療が最も中核となる
レビー小体型認知症の症状の中では「意識の変容」が最も中核になると先述しましたが、治療においても「意識の変容」に対する治療が最も中核となります。
レビー小体型認知症の診断基準で示された中核的特徴と支持的特徴の多くが「意識の変容」と密接に関係しており、「意識の変容」に対する治療はその他の症状に対する治療とも重複している部分が多いからです。
例えば中核的特徴として「意識の変容」の次に挙げられているのが「幻視」です。
「幻視」は日中だけでなく、特に夕方から夜間にかけて覚醒度が落ちている時に出やすい傾向があるため「意識の変容」とは密接に関係しています。
そのため「幻視」の治療のためには「意識の変容」の治療が欠かせません。
また中核的特徴として次に挙げられているのが「レム睡眠行動障害」です。
「レム睡眠行動障害」は睡眠が浅くなっているレム睡眠期に夢の内容通りに大声をあげたり、身体を動かしてしまう睡眠障害のことです。
これがあると脳も身体も睡眠中に十分休息できないため、当然翌日の覚醒度も落ちやすくなり「意識の変容」が起こりやすくなります。
そのため「意識の変容」の治療のためには「良質な睡眠」をとってもらうことが前提となるため、睡眠障害がある場合には睡眠への治療アプローチが最優先されます。
中核的特徴として最後に挙げられているのが「パーキンソン症状」です。
動作・思考緩慢や姿勢反射障害、小刻み、すくみ足といった「パーキンソン症状」として現れる心身の活動障害も覚醒度が落ちていると確実に増悪します。
そのため「パーキンソン症状」の改善のためにも「意識の変容」の治療が欠かせません。
また支持的特徴として挙げられている姿勢の不安定性、繰り返す転倒、失神または一過性の無反応状態のエピソード 、便秘、過眠、幻視以外の幻覚、体系化された妄想、アパシー、不安、うつ、といった症状も「意識の変容」と密接に関係していると言えます。
失神または一過性の無反応状態のエピソード 、過眠は「意識の変容」の症状そのものですし、姿勢の不安定性、繰り返す転倒は「パーキンソン症状」によるものです。
中でも「便秘」は「意識の変容」の症状を大きく左右するものでもあります。
この「便秘」と「意識の変容」の関係は切っても切れないほどであり、次回以降詳しくお話しします。
さらに幻視以外の幻覚、体系化された妄想、アパシー、不安、うつなどは「幻視」同様に覚醒度が落ちている時に出やすいものです。
このように「意識の変容」は、レビー小体型認知症の症状と治療にとってはまさに「要(かなめ)」だといっても過言ではないのです。
次回は「意識の変容」の具体的な治療方法についてお話しします。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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