前回までは、もの忘れを除いて認知症になると出現しやすい症状⑤の「睡眠障害(レム睡眠行動異常・睡眠時無呼吸症候群)がある」についてお話ししました。
今回からは「⑥自律神経障害がある」についてお話しいたします。
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⑥自律神経障害がある
・便秘がちである(3日以上出ないことが多い)
・頻尿や失禁がある
・体温調整が上手くいかない。多汗や寝汗、うつ熱や微熱がある
・手足が冷たくなる(冷え性)。逆に手足が火照る(暑がり)
・片手だけ霜焼けがある
・血圧が不安定。起立性低血圧がある
・めまいや耳鳴りがある
・動悸がすることがある
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認知症で「自律神経障害」を合併している方は少なくありません。
ただ「自律神経障害」は非常に多彩で実に様々な症状があるため、上記のリストに挙げた症状はほんの一部になります。
また「自律神経障害」は、認知症チェックリスト②の「パーキンソニズム」にも含まれるのですが、表れる症状が非常に多いことから、今回のチェックリストでは独立した項目にしました。
そのため「パーキンソニズム」を出すパーキンソン病やレビー小体型認知症では特に「自律神経障害」を合併しやすいのですが、「自律神経障害」の中でも最も出現頻度が高く、「パーキンソニズム」や精神症状も含めて認知症の症状を全体的に悪化させてしまうのが「便秘」になります。
近年「パーキンソン病は腸から発症する」ことが分かってきました。
手足の震え、小刻み歩行、すくみ足、動作緩慢などの「パーキンソニズム」が出現した時が、パーキンソン病の始まりだと思われがちですが、実はその何年も前から「便秘」などの症状が先行して出ている場合が少なくありません。
臨床的には若い時から「便秘」がちだったという方も多く、実は睡眠障害と同じように明らかな「パーキンソニズム」が出現する20年も前から始まっているとも言われています。
パーキンソン病やレビー小体型認知症では、「レビー小体」と言われる異常なαシヌクレインという特殊タンパクが脳に蓄積します。
パーキンソン病もレビー小体型認知症も「レビー小体」が原因で発症するため、これらは「レビー小体病」とも言われますが、パーキンソン病では「レビー小体」の蓄積が脳幹部に限局しているのに対し、レビー小体型認知症では脳全体に拡がっています。
しかし「レビー小体病」の発症は脳からではなく、実は「レビー小体」が初めに蓄積するのは腸の「消化管上皮細胞」であり、そのために腸の活動が障害されて「便秘」の症状が先行して起こりやすくなるのです。
そして腸粘膜に蓄積した「レビー小体」が次第に迷走神経を上行して脳などの中枢神経系に拡大していき、それに伴って様々な症状が出現してくるのです。
また、そもそもパーキンソン病では腸管の透過性が亢進しており、そのために腸管に過剰な酸化ストレスがかかり、腸粘膜に「レビー小体」が蓄積すると考えられています。
つまりパーキンソン病になる方は、以前お話しした「リーキーガット(腸もれ症候群)」があり、それが原因で「レビー小体」が腸粘膜に蓄積して病気を発症するというのですから驚きです。
そもそも自律神経は、血管や内臓などの働きをコントロールしており、自分の意思でコントロールすることが難しい神経です。
この自律神経は作用が相反する交感神経と副交感神経の2つに分類されます。
交感神経は起きている時や緊張している時に優位に働き、副交感神経は寝ている時やリラックスしている時に優位に働きます。
交感神経と副交感神経は、1つの器官に対して互いに相反する働きをしており、交感神経が優位に働くと心拍が増えてドキドキし、血管が収縮して血圧が上がったり、胃腸の活動が抑制されて唾液を含む消化液の分泌や排泄も抑えられます。
一方、副交感神経が優位に働くと、逆に心拍が減るとともに血管が拡張して血圧は下がり、胃腸の活動は活発になって消化液の分泌や排泄が促されます。
副交感神経の中でも、延髄から出ている最大のものが迷走神経になります。
この迷走神経は脳神経に含まれる神経で、体性神経(運動神経と感覚神経)と副交感神経が合わさったものであり、心臓や腸などの消化管をはじめとする多くの臓器を支配しています。
腸粘膜に蓄積した「レビー小体」が、腸からこの迷走神経を上行して脳幹部まで達するとパーキンソン病に、脳全体に拡がるとレビー小体型認知症になるということです。
このようにパーキンソン病やレビー小体型認知症では、まず初めに「レビー小体」が腸粘膜に蓄積して腸の働きが障害されるため、先行して「便秘」が起こりやすくなります。
そして慢性的に「便秘」が続くと、腸内環境がさらに悪化して「パーキンソニズム」や「意識の変容」をはじめとする認知症の症状も全体的に悪化しやすくなります。
以前もお話しした通り「意識の変容」によって覚醒度が下がると、認知機能や判断力も当然落ちるため、もの忘れはもちろん幻覚や妄想などの他の症状を引き出してしまったり、今出ている症状を悪化させてしまうからです。
そのため認知症の治療においては、睡眠障害とともに「便秘」の治療が最優先されるのです。
当院では毎回診察時に便通がしっかりあるかどうかを必ず確認していますが、患者さんやご家族には「2日出なかったらイエローカード、3日出なかったらレッドカード」とお話しし、3日出なかったらすぐに浣腸をして出すように指導しています。
また色々な便秘薬も処方していますが、その方に合った薬や内服量は実際に試してみないと分からない部分があるため、可能な場合は患者さん本人やご家族に薬の調節を任せてしまうことも少なくありません。
大切なのは「便秘」になってから便秘薬を使うのではなく、毎日または隔日といったように定期的に一定の分量を内服し、できれば毎日、少なくとも2日に1度の便通を目指すということです。
もちろん便秘薬の調整が上手くいかなくて下痢をしてしまうこともありますが、「便秘」による悪影響に比べると下痢をしてでも排便する方がはるかにメリットが高いということをお話ししています。
便秘している患者さんに浣腸をして大量に排便があると、それだけで意識がはっきりして動作もスムースになるケースを何度も経験しているからです。
腸内細菌がドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質の大部分を作っているということは以前お話ししましたが、「便秘」によって腸内が「腐敗」して悪玉菌が増えてしまうと、有益な神経伝達物質の生成が減ってしまうばかりか、悪玉菌が排出する毒素が脳にも悪い影響を及ぼすことになるのです。
このように認知症にとっては大敵の「便秘」ですが、実はパーキンソン病やレビー小体型認知症に限らず、その他の認知症を伴う神経変性疾患においても高頻度に合併します。
認知症疾患の進行に伴って神経系の病変部位が拡がると「パーキンソニズム」同様に「自律神経障害」も合併しやすくなるため、当然「便秘」も出現しやすくなるのでしょう。
またそもそも腸内環境が悪くて「便秘」しがちな方が、「レビー小体病」に限らず認知症を伴うような神経変性をきたしやすくなるのだと思われます。
したがって認知症の治療はもちろん予防にとっても、腸内環境を整えて「便秘」をしないということが非常に大切になるのです。
長くなりましたので、次回に続きます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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