前回は、認知症になると自律神経障害を発症しやすく、その中でも「便秘」が高頻度で合併することや、パーキンソン病やレビー小体型認知症では明らかな「パーキンソニズム」が現れる何年も前から「便秘」症状が先行して出てくることがあること、「便秘」があると認知症の症状が悪化してしまうので認知症の治療では「便秘」の治療が最優先されることなどについてお話ししました。
今回はその他の「自律神経障害」についてお話しいたします。
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⑥自律神経障害がある
・便秘がちである(3日以上出ないことが多い)
・頻尿や失禁がある
・体温調整が上手くいかない。多汗や寝汗、うつ熱や微熱がある
・手足が冷たくなる(冷え性)。逆に手足が火照る(暑がり)
・片手だけ霜焼けがある
・血圧が不安定。起立性低血圧がある
・フワフワするようなめまいがある
・動悸がすることがある
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前回は「自律神経障害」の中で最も合併しやすい「便秘」についてお話ししましたが、「便秘」は自律神経の交感神経が優位になると胃腸の活動が抑制されて起こりやすくなります。
その逆に副交感神経が優位になると胃腸の活動が促進されるので排泄も促されます。
「自律神経障害」があると、交感神経と副交感神経の切り替えが上手くいかなくなって両者の働きのバランスが崩れてしまうため、排泄がスムーズにいかなくなり「便秘」や「頻尿」といった症状が出てくるのです。
そして「頻尿」があるとトイレが間に合わずに「失禁」しやすくなります。
また認知症疾患の進行によって病変が脳の前頭前野や大脳基底核に及ぶと「過活動膀胱」も起こりやすくなり、それによって「頻尿・失禁」が出現することもあります。
「失禁」が起こるその他の原因としては、まず認知機能の低下によってトイレの場所や動作が分からなくなったり、そもそも尿意便意に無関心になったりすることが挙げられます。
また、「パーキンソニズム」が進行してうまく歩けなくなったり、動作が遅くなったりするとトイレが間に合わずに「失禁」してしまうこともあります。
また男性に多い前立腺肥大症や、糖尿病の方に合併しやすい糖尿病性神経障害などがあって膀胱に「残尿」しやすくなると、「残尿」によって膀胱に尿を溜められる容積が減って二次的に「頻尿・失禁」が起こりやすくなったりもします。
前立腺肥大症については、高齢男性では高頻度に合併(50歳で30%、60歳で60%、70歳で80%、80歳では90%とも言われる)するため、「頻尿」の症状がある場合は泌尿器科への受診もお願いしています。
次に挙げる「自律神経障害」の症状は「体温調節困難」になります。
「体温調節困難」の具体的な症状としては多汗や寝汗などがあります。
人間は汗をかくことによって体温が上がりすぎるのを防いでいますが、その調節を担っているのが自律神経になります。
そのため自律神経が障害されて交感神経が働きすぎると発汗異常が起こり、汗を異常にかいたり、夜間何度も着替えることになったりします。
逆に副交感神経が働きすぎると皮膚の血管が拡張して低体温になったりします。
低体温になると「手足が冷える」と表現されたりしますが、上半身や顔だけ汗をかいているのに、手足だけ冷たいという人もいます。
自分がいる環境や気温に合わせて体温調節が上手くできなくなるため、布団を掛けて寝ているだけで身体に熱がこもって「うつ熱」になったり、夜になるといつも決まって微熱が出るという方もいます。
あるケースでは、クーラーがかかって室温は適温に保たれているのに、毎日夕方になると微熱が出たりしていましたが、実はベッドが窓際にあって毎日夕日が寝具に直接当たっていたのが原因だったこともありました。
また片手だけ霜焼けになっている方がいましたが、この方はその後パーキンソン病と診断されました。
パーキンソン病では、一側の手や足から固縮による手の使いづらさや震えなどの症状が出始めることが多いのですが、この方の場合は「自律神経障害」が一側から始まり、その側だけ体温調節が上手くいかずに冷えすぎてしまって片手だけ霜焼けになってしまったのです。
最後に挙げる「自律神経障害」の症状は「血圧調整困難」になります。
「血圧調整困難」の症状として典型的なものに「起立性低血圧」があります。
人間は本来、起きたり立ち上がったりする時には、血圧が下がり過ぎないように交感神経がうまく働いて血圧を維持しています。
「自律神経障害」があると、それがうまくいかずに心臓から送り出される血液量が少なくなって血圧が下がってしまい、しばしば意識を失ったり転倒を起こすこともあります。
これが「起立性低血圧」ですが、この症状がある場合は、起き上がる時に身体の向きを変えながらゆっくりと時間をかけて起き上がるようにしなければいけません。
また「起立性低血圧」がある場合は、失神には至らなくても、身体がふわふわと揺れているように感じる「浮動性めまい」が出たりします。
特に高齢者では下肢の血液を上方へ送るポンプの役割を果たし「第二の心臓」とも言われる「ふくらはぎの筋肉」が衰えやすいということも「起立性低血圧」が起こる一因になります。
さらに降圧剤や利尿剤といった内服薬によっても「起立性低血圧」を引き起こすことがあります。
また失神が食後に起こることも少なくありません。
食後は食物を消化するために血流が胃腸に集まっているため、脳への血流が減りやすいのです。
排便時の「いきみ」も血圧を低下させる原因になるので注意が必要です。
今回は認知症で合併しやすい代表的な「自律神経障害」の症状についてお話ししましたが、「自律神経障害」には他にも「動悸・息切れ」「だるさ・疲労感」「肩こり」「片頭痛」「焦燥感・不安感」といった多種多様な症状があるため、それが認知症の症状を多様化させている一因にもなっています。
ある症状が実は「自律神経障害」が原因だったということも少なくなく、さらにそれが認知症の初期症状であるかもしれないので「自律神経障害」の症状は軽視できないものだと思われます。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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