認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

⑦前頭葉症状がある【認知症チェックリスト】(前)

前回までは、もの忘れを除いて認知症になると出現しやすい症状⑥の「自律神経障害がある」についてお話ししました。

今回からは「前頭葉症状がある」についてお話しいたします。

 

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前頭葉症状がある

・態度が横柄で、気遣いができなくなった 

・怒りっぽくなった。スイッチが入ると目が座って手が付けられない。しばらくするとケロッとしている 

・疑い深くなった 

・食べ物の好みが変わって味が濃いもの、特に甘い物やお菓子などが好きになった 

・早食いや食べこぼしがある 

・空気が読めなかったり、場にそぐわない言動が見られる 

・相手に違和感や変な印象を与えるようになった 

・化粧や身だしなみに気を配らなくなった 

・着替えない 

・風呂好きだったのに嫌がって入浴しなくなった 

・よくトイレを汚す 

・自分が変だという認識(病識)がない

・同じような言動を繰り返し(常同行動)、止められると怒り出す

・時刻表的行動がある(毎日同じ時間に同じ店で同じ席に座り同じ物を注文するなど) 

・1つの行為や物事にこだわり、執着する(物を集める、同じ物を買う、ごみ屋敷、クレーマー、ストーキングなど)

・善悪観念が欠如し、悪いことをしても何とも思わない(万引きなど) 

・多動で落ち着きがない 

・子供っぽくなった 

・going my wayな性格に輪がかかった

・感覚過敏(においや味、寒暖など)や痛覚過敏(血圧測定で痛がるなど)がある

・無気力で引きこもりがちになった

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前頭葉は大脳の中でも大きな部分を占める人間らしさや社会性を発揮するための特に大事な部位であり、思考や自発性、理性、感情、性格などを左右しています。

そして人間は成長するにつれてこの前頭葉が発達し、生きていく上で色々と「我慢」ができる「大人」になっていきます。

そのため前頭葉の機能が障害されると、社会生活を送るうえで困ってしまうような症状がたくさん出てくるのですが、それらを「前頭葉症状」と呼んでいます。

この「前頭葉症状」は「注意障害」、「遂行機能障害」、「社会的行動障害」の3つに大きく分けられます。

「注意障害」の症状としては、ボーっとしていたり、1つのことに集中できずに他に注意が逸れてしまったり、物事を忘れるなどがあります。

また「遂行機能障害」があると、計画して効率的に仕事ができなかったり、物事の優先順位がつけられなかったり、段取りが悪くなったりします。

「社会的行動障害」というのは、自分の感情や欲求を抑えらなかったり、他の人の気持ちを思い遣ったりすることができないために場にそぐわない言動をとってしまったりして、社会生活を送るのが難しくなってしまうことです。

上記のチェックリストに具体的な例がたくさん挙げられていますが、前頭葉の機能が低下すると要するに「我慢」できずに「わがまま」で「子供っぽく」なってしまうのです。

そのため「前頭葉症状」が出てくると家族はもちろん周りにいる人たちが非常に困ってしまいます。

 

前頭葉症状」の典型的なものを挙げていきますと、まずは「病識の欠如」があります。

「病識」というのは自分が病気であると自覚することですが、これは客観的に自分自身の状態を把握して気を配ったり、内省するということが困難になるために起こってきます。

全般的に認知症になると病識が低下することが多いですが、特に前頭葉機能が低下している場合は病気の初期から病識が欠落しやすいため、受診や通院が困難になることがたびたびあります。

 

次に挙げる「前頭葉症状」は「無関心・自発性の低下」になります。

これがあると自身の身だしなみや清潔保持はもちろん周囲の環境や他人に対しても無関心になります。

また病状が進行すると次第に意欲や自発性の低下も顕著になってきます。

すると何もせずにボーっとしてただ座っていたり、寝ているだけのことも多くなったりします。

 

次に挙げる「前頭葉症状」は「感情・情動の希薄化とコントロール困難」になります。

これがあると感情が希薄になったり情感の機微に鈍感になって他人の気持ちを思い遣ることが困難になるため、情緒的な交流が乏しくなります。

また自分の感情の世界だけにいてそれに左右されやすくなるため、穏やかだったかと思うとちょっとしたことでも自分の感情を自制できずに急にイライラしたり、怒って大声をあげたりするので、周りの人は本当に困ってしまいます。

 

次に挙げる「前頭葉症状」は「繰り返し行動(常同行動・時刻表的行動)」になります。

前頭葉の機能が低下すると自分の興味があることなど何か1つのことに執着し、それをやらないと気が済まないという傾向が出てきます。

そのため気が済むまで同じことを何度も何度も繰り返して行ったり、同じ行動がルーティンになって繰り返される「常同行動」や、生活が時刻表的になり決まった時間に決まった行動をする「時刻表的行動」などが現れたりします。

普通の人でも程度の差はあれ、似たような行動様式をとりがちな方が少なくないかもしれませんが、それが「病的」になっており、自分の行動を他人に邪魔されたり止められたリすると「烈火のごとく」怒り出したりするのです。

実際にあった印象的な例では、毎朝6時に必ず「すき家」に行って同じ席で同じメニューを食べるという方や、毎日午前中に決められた筋トレメニューをして昼食は10品目の食材を必ず食べるという筋肉ムキムキの方がいました。

ちなみに2人とも病名は「進行性核上性麻痺(PSP)」でしたが、PSPは神経病理学的には前頭側頭葉変性症(FTLD)に分類されることから「前頭葉症状」を出しやすい疾患になります。

また、毎日同じコースを何度も歩き回るといった「周回」も前頭葉の機能低下で現れる症状です。

これはアルツハイマー認知症(AD)で見られる「徘徊」とは異なり、FTLDでは病気がかなり進行するまで道に迷うことがないため、その点がADとの鑑別にも役立ちます。

また、さらに病状が進行すると、ずっと手を叩き続けたり、あるフレーズの言葉を繰り返し発したりなど単純な繰り返し行為が出てくることもあります。

 

長くなりましたので、次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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