認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

発達障害傾向の強い方に特徴的な診療経過(中)

前回は「認知症」の投薬治療を受けている本人や介護している家族で「発達障害」傾向が強かったりすると、その時その時の症状に振り回されて処方薬を自己判断で勝手に調節してしまうことも多く、そうすると薬の効果を適切に評価できなくなるばかりか、「認知症」の症状が「波を打って」しまって安定しないことが多いというお話をしました。

今回はその続きになりますが、そういったケースでは大概「良くなった点」は医療者側から聞かないと言ってくれないことが多く、「悪い点」や「自分が大変だったこと」だけを強調される方が多いという印象があります。

医療者側がそれらの「訴え」をまともに信用して薬を増やしてしまったりすると、さらに症状を悪化させかねないので、実際はどうなのかをしっかり確認しながら「訴え」に振り回されないように注意しています。

主治医が求めているのは、前回の処方薬によって「認知症」のどんな症状が「改善したのか」「悪化したのか」「変わらなかったのか」についての客観的な情報であり、それがないと次の手が打ちにくいからです。

ちなみにそのようなケースの場合は主治医の判断であらかじめ症状に応じた頓服薬を処方しておいたり、調節してもいい許容量を決めておくなど一定のルールを決めた上で、本人や家族に調節をお任せすることもあります。

 

また以前お話ししたように「発達障害」傾向のある方は「薬剤過敏性」も持ち合わせていやすいのですが、「過敏」なのは実は「薬」に対してだけではなく、自分の置かれている「環境」に対しても「過敏」なことが多いのです。

例えば、その日の「天気」や「気圧」はもちろん「便通」の有無や自分の「体調」などに対しても「敏感」なのですが、「近くにいる人の言動や態度」に対してもとても影響を受けやすいのです。

周りにいる家族などが落ち着かずに「ああでもない、こうでもない」と言って本人の間違いを指摘したり、本人が分からないのに理屈を説明してさらに本人を混乱させて動揺させたり、大きな声で怒ったり、不機嫌な態度を見せたり、無視したりすると間違いなく「認知症」の症状が大きく波を打って悪化してしまいます。

特にいつも一緒にいるような相手は自分を映す「鏡」でもあり、こちらの感情が波打っていたりすると相手も落ち着かなくなり、それがまた自分に伝わってきて・・・というようにお互いの感情がどんどん波打っていってしまうのです。

そのため「認知症」治療のためには、介護している家族にそのことを理解してもらって協力して頂くことが不可欠なのですが、実はその場に応じて患者さん本位に自分の言動をコントロールして理性的な対応をしていくことが困難な家族も少なくないのです。

 

認知症」になる方の多くが自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害ADHD)といった「発達障害」傾向の特性を持っているということはお話ししました。

夫婦のどちらか一方が「発達障害」傾向の特性を持ち合わせていて一方がそうでない場合、高い割合で離婚してしまうそうですが、どちらか一方が「発達障害」傾向の特性を持ち合わせている場合、もう一方もそのような特性を持ち合わせているということが少なくありません。

そのような場合は夫婦の気質の凹凸がしっかりかみ合っていることが多く別れにくくなります。

よくあるパターンとしては、夫はASD傾向が強くて職人気質で真面目で口数が少ないけれども、妻は反対にADHD傾向が強くて社交的でおしゃべりでチャキチャキしているといった夫婦です。

もちろんその反対のケースや似たもの夫婦で同じタイプの気質同士の方がしっかりかみ合っている場合もあります。

皆さんの周りにも思い当たるご夫婦の方がいらっしゃるかもしれません。

このような「発達障害」傾向の強い凹凸夫婦の一方が「認知症」に移行していった場合、もう一方の主介護者になる配偶者にも何かしらの「発達障害」傾向の特性があるために、いくら好ましいケアなどについて説明しても「暖簾に腕押し」で、先ほどお話ししたような「認知症」である相手の感情を「波打たせる」ようなやりとりを続けてしまうことが多いのです。

そうするといつまでたっても同じことの繰り返しで、なかなか「認知症」の症状が改善しないばかりか、どんどん進行していってしまいます。

 

実際にこんなケースがありましたのでご紹介します。

レビー小体型認知症」の男性で奥様と2人暮らしの方がいるのですが、「幻覚・妄想とそれに基づく行動化」の症状があってとにかく家にいても落ち着かずに外に出てしまって転倒を繰り返していました。

それで他院で治療してもらっていたけれども、なかなか良くならないので当院へ受診に至ったというケースです。

この方は「レビー小体型認知症」の診断基準にも含まれている「薬剤過敏性」がとりわけ強いために、先生は薬の微調節には特に気を配っていたのですが、それでもなかなか症状が改善せず、奥様から頻繁に「困っている」と電話があったり、症状についての詳しいFAXが届いたりしていました。

しかし数か月経っても同じことの繰り返しなので「どうもおかしいな」と思っていたら、実は奥様がその日の症状に合わせて薬を飲ませたり飲ませなかったり、自己判断で薬を調節していたのです。

奥様には介護負担を減らすために本人のデイサービスに行く回数をできるだけ増やしたり、ショートステイの利用を勧めたりしましたが、「家でできるだけ看てあげたい」という奥様の希望が強く、初めのうちはなかなか受け入れて貰えませんでした。

それがある時本人が尻もちをついて腰痛で動けなくなり、さらに「認知症」の症状も「爆発」してしまったことがあり、その時を機にようやく施設へのショートステイを利用し始めることになって現在もしぶしぶですが定期的にショートステイを利用するようになりました。

すると家ではあれだけ大変だったはずの「幻覚・妄想とそれに基づく行動化」の症状が、施設でのショートステイ中には何事もなく「落ち着いている」というのです。

このことから、施設ではしっかり薬を飲めていること、そしておそらく周りの人の対応が「落ち着いている」から本人も「落ち着いている」のだろうと私どもは確信に至りました。

ちなみにこのケースのご夫婦は2人ともASDとADHD傾向の特性を併せ持つタイプであり、夫はADHD傾向が強く、奥様がASD傾向が強いタイプになります。

 

長くなりましたので、次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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