認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

「てんかん」から「認知症」を診る(6)~「認知症」と「てんかん」~

前回は、認知症を伴う神経変性疾患の方は「便秘」や「体温上昇」によって症状が悪化しやすく、それは「てんかん性異常放電」が誘発されやすくなるからではないかというお話をしました。

今回はその続きになります。

 

低気圧も「てんかん」を誘発する!?

認知症の方は低気圧によって症状が変動することが多くあります。

雨が降る前や台風が近づいている時などに不隠になって怒りっぽくなったり、多動になって家族が困るというのは日常茶飯事です。

実は「てんかん発作」も低気圧や台風が近づいている時に誘発されやすいことが知られています。

ではなぜ低気圧が認知症症状を変動させたり、「てんかん発作」を誘発したりするのでしょうか?

明らかな理由は分かりませんが、ただ低気圧の時には身体が少し膨張するからではないかと考えています。

また風が強い時や満月の前後でも具合が悪くなる方が少なくありません。

気圧や重力の微妙な変動がおそらく神経系に影響を与えるのだと思います。

つまり低気圧や月の引力などで身体が膨張したり、引っ張られたりすると、当然神経線維も牽引されたり、周りの細胞に圧迫されたりします。

すると、その刺激によって神経線維から「てんかん性異常放電」が生じやすくなるのではないかと思われるのです。

いわゆる「神経痛」も低気圧によって痛みが増悪しやすいことは、よく知られています。

これも低気圧になって、普段よりも気圧が陰圧になることで身体が膨張し、神経が引っ張られたり圧迫されるため、もともと障害されている神経にさらに負荷がかかり、おそらく「異常放電」が誘発されて「痛み」が出現しやすくなると考えられるのです。

実際に「認知症」や「てんかん」、「発達障害傾向」の方は、気圧や重力の微妙な変動に反応してしまうほど「過敏」な場合が多いということも言えます。

そのような方はもともと神経系が脆弱であり、神経線維に対するちょっとした刺激に対しても「異常放電」を起こしやすいのかもしれません。

 

神経線維の構造と「脱髄

ここで神経線維の構造についてお話しします。

神経繊維は主に中心部にある神経細胞の軸索と、その周りを取り囲む髄鞘(ミエリン)で構成されています。

神経線維は電気信号を伝えるものですが、電線に例えると軸索が電気を通す導線にあたり、ミエリンが電気を通さないビニール管にあたります。

ミエリンは脂質に富んだ絶縁体の役割をしており、軸索を何重にも取り囲んでいます。

ミエリンは軸索全体を覆っている訳ではなく、一定の間隔でわずかな隙間があいており、その隙間はランビエ絞輪と呼ばれています。

そのためミエリンで取り囲まれた神経線維の表面は、ランビエ絞輪でしか電気信号を伝えることができません。

ミエリンで髄鞘化されていない軸索では、軸索だけで電気信号を連続的に伝えていきますが、髄鞘化された軸索ではランビエ絞輪の部分のみを経由して飛び飛びに伝わる「跳躍伝導」をするため、電気信号の伝導速度が飛躍的に上がり秒速100m以上にもなるといわれています。

そのため病変などでミエリンが失われると、神経の電気信号の伝わり方がで遅くなったり、ショートして遮断されることもあります。

この神経線維からミエリンが失われてしまうことを「脱髄」と言いますが、これが起こると神経系の機能に様々な悪影響を及ぼすことになります。

 

てんかん性異常放電」の正体

神経系の機能に様々な悪影響を及ぼす「脱髄」は、発達段階で神経が未成熟だったり、神経変性疾患などで生じます。

脱髄」している部位では電気が放電したり、ショートしやすくなるため、電気信号がうまく伝わらなくなります。

さらに、その状態が放置されて放電やショートが繰り返されると、神経線維の障害や変性がどんどん進行していくものと考えられます。

そして、この「脱髄」による電気信号の放電が、今までお話ししてきた「てんかん性異常放電」の正体ではないかと考えています。

そのため「てんかん性異常放電」は放置せず、いかに早期から治療介入できるかが、様々な病態の進行を防いだり、発症を予防するカギになると言えるのです。

したがって、まずは「てんかん性異常放電」が原因だと考えられる様々な症状や「てんかん性異常放電」を誘発する可能性のある要因を知ることが、まずは治療や対応を始める第一歩になるので、とても重要なことだと考えています。

これまで「てんかん」と「認知症」についての関連性についてお話ししてきたのは、皆さんにこのことを広く知っていただきたかったからです。

症状に心当たりがある方は、これまでお話ししてきたような「てんかん性異常放電」を誘発しやすい生活習慣の改善を是非目指していただければと思います。

また「てんかん発作」や「てんかん性異常放電」は投薬によって、比較的コントロールしやすいものだとされています。

困っている症状や病態のベースにそれらが疑わる場合は、抗てんかん薬による治療も選択肢の1つとして検討いただければと思います。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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