認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

まなざしによるケア(1)

認知症の人は相手の表情や態度に敏感である

みなさんは認知症の人と接する時に、しっかり相手の目を見ているでしょうか。

認知症の人だから・・・」と、あまりそんなことには気を払わずに接している人も多いかもしれません。

以前は私もそれほど意識はしていませんでしたが、今では「認知症の人だからこそ、相手の目をしっかり見ながら接しなければいけない」と感じています。

認知症になると多くの人に、程度の差はありますが、少しずつ言葉の意味が分からなくなってきたり(失語)、言葉の意味がすぐに想起できないといった症状が出てきます。

そんな場合、こちらがいくら丁寧に説明しても、本人は理解できずにますます混乱してしまったり、不安になったりしてしまいます。

すると、本人は相手が話している内容ははっきり分からないけれども、話のニュアンスだけでもつかもうと、必死に相手の話しっぷりや素振り、表情などを伺うようになります。

また、自分の置かれている状況が分からないといった場合にも、周りにいる人や相手の様子からその場の状況や雰囲気を探ろうとします。

おそらくこれらのことは、必ずしも本人が意識的に行っている訳ではないと思います。

ある意味、社会の中で生きていくための自己防衛的な、本能的な働きなのかもしれません。

これは、認知症が進行していく中で、言語機能に比べると、視覚や情動を司る機能は比較的後期まで保たれやすいということもあります。

そのため認知症になると、接する相手のことをよく見て、その表情や態度、雰囲気を敏感に察知したりするのです。

そして相手が自分に対して「どんな感情を持っているのか」ということを探ろうとするのです。

みなさんは、相手が「何を考えているのか」「どんな気持ちなのか」ということを探りたい時、相手のどこに一番注目するでしょうか。

誰かと会話をしている時、相手の本音や感情というのは、話の内容はもちろん、言い回しや言葉尻、口調、話している時の仕草や表情にも表れてくると思いますが、その中でもおそらく「目」に一番注目するのではないでしょうか。

なぜなら「目は多くのことを語る」ということを、人は経験的にも、本能的にも知っているからです。

そこで今回は、「認知症ケア」において「相手の目を見る」ということが、いかに大切であるかということについて、当たり前なことかもしれませんが、改めて考えてみようと思います。

 

「相手の目を見ながら会話をする」ということは

そもそも「相手の目を見ながら話をする」「相手の目を見ながら話を聞く」ということは、人が社会生活を円滑に営んでいくうえでは欠かせません。

もし誰かと会話をしている時に相手の目を見なかったら、それは「礼を欠くこと」になります。

そのため、相手の目を見ながら話をしたり聞いたりするということは、最低限のマナー・エチケットであり、普段から皆さんも意識せずに行っていることだと思います。

では、どうして会話をしている時に相手の目を見ないと「礼を欠くこと」になるのでしょうか。

昔から日本では「目は口ほどにものを言う」といわれます。

これは、目は「顔の表情」だけでなく「心の表情」も表すものだからでしょう。

人は目という「心の窓」を通して「心の動き」や「本音」が表れます。

そのため人は、意識的にも無意識的にも「目の表情」によって、相手に多くのメッセージを発しているのです。

そして相手は本能的に、そして即座にそれらのメッセージを察知します。

では、会話をしている時に相手の目を見ないということは、どういうメッセージを相手に発することになるのでしょうか。

それはおそらく「あなたには私の本音は言えません」ということだろうと思います。

すると相手は同時に、

「あなたに言えないやましいことがあるんです」

「あなたのことは信用していません」

「あなたのことなんか気にかけていません」

「あなたのことなんかどうだっていいんですよ」

といった印象も受けるかもしれません。

つまり、会話している時に相手が目を見てくれないということは、その人に対する不信感・不安感のもとになり、本人に少なからずストレスを与えることになりかねないということです。

逆に言えば、会話をしている時に相手の目を見るということは、

「あなたのことを見てますよ」

「あなたのことが大事で気にかけていますよ」

「あなたのことを信用していますよ」

というメッセージも同時に発することになり、それだけで相手に安心感を与えることができるのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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高齢者ほど「和式生活のススメ」(15)

前回は、「寝たきり」状態から回復された高齢者に共通していたのは「できるだけ早期からトイレの使用を始めていた」ことと、「『絶対に良くなる!』という気持ちを持ち続けていた」ことであるというお話をしました。

そして「できるだけ早期からトイレの使用を始めていた」ことが回復に結びついた理由として、「廃用症候群」の予防や、そこからの回復にとって一番のカギになるのは、身体を起こしたり、立つことで「抗重力筋群」をいかに活動させられるかということであり、トイレを使うようになれば、この大事な「起きて」「立つ」という機会が、自然に生活の中に確保されるようになるからでしょうとお話ししました。

今回はその続きになります。

 

オムツの弊害は精神面にも及ぶ

前回お話ししたように、オムツを使うようになると、トイレを使わなくなることで、生活の中で起きたり、立ったりする機会が一気に減ってしまい、そのために全身の抗重力筋群が活動する機会も激減して「廃用症候群」を発症・進行させやすくなってしまいます。

しかし、オムツを使うことの弊害は、身体面に対するものばかりではありません。

皆さんは成人してから、オムツをつけてそこに排泄した経験があるでしょうか。

ある医療機関では、新人スタッフの教育プログラムの1つとして、患者さんの気持ちを体感するために、一晩オムツをつけて体験入院してもらうということを実施していました。

すると、なかなかオムツの中に排泄できないという人が続出したそうです。

それでも患者さんの気持ちを体感するために、頑張ってオムツの中に排泄してもらうようにすると、体験した全員が「こんなに苦痛なことはない!」という感想を持ったそうです。

見落としがちなことなのかもしれませんが、そもそもオムツをつけてそこに排泄するということには、大きな精神的苦痛を伴うのです。

それを一晩だけならまだしも、入院患者さんの多くが長期間オムツへの排泄を余儀なくされているというのが現状です。

では、そのような患者さんは実際、どのような気持ちで過ごしているのでしょうか。

おそらく「普通の感覚」のままでいたら、精神的な苦痛が大きくなってしまうため、防衛本能的に多くの人がいわば「気持ちを鈍感にして」過ごしているのではないかと思います。

するとそれに付随して、他の色々なことに対しても「無関心」になったり、「あきらめてしまう」傾向が出てきてしまい、これがいわば「心の廃用症候群」をも招いてしまいかねないのです。

したがって、オムツの弊害は身体面だけにとどまらず精神面にも及んでしまうと言えます。

 

回復された人は「絶対に良くなる!」という気持ちを持ち続けていた

前回ご紹介した通り、もう1つ寝たきり」の状態から回復された高齢者の皆さんに共通していたことは、最後まで「絶対に良くなる!」という気持ちを強く持ち続けていたということです。

やはりまずは「気持ち」が大事なんだと思います。

しかし、ずっと前向きな気持ちを持続させていくというのはとても難しいものです。

とりわけ身体の自由がきかないような高齢者だったら、それはなおさらではないでしょうか。

そんな困難を乗り越えて回復された高齢者の皆さんが共通して「できるだけオムツを使わずにトイレを使っていた」というのは、この「オムツによって心が受ける悪影響を最小限にしていた」ということもあったからではないかと思います。

自分のことや周りのことに鈍感になったり、無関心にさせてしまうような、さらには前向きな気持ちも萎えさせてしまうような「オムツの弊害」から可能な限り「免れていた」ということです。

そんなこともあって「絶対に良くなる!」という気持ちを最後まで持ち続けることができたのではないでしょうか。

 

前向きな気持ちを持ち続けるためには

ただ回復には、年単位の期間を要することも少なくありません。

そうすると、前向きな気持ちを持続させるのがさらに難しくなります。

それでも前向きな気持ちを持ち続けることができたのは、本人に「どうしてもやりたいことがあったから」というケースも多いのです。

ただ単に「良くなりたい」と思うよりも、「歩けるようになりたい」「家に帰りたい」「家族と暮らしたい」「子供の世話をしたい」「趣味や仕事をやりたい」といった具体的な目標があった方が、回復へのモチベーションを維持しやすくなるからではないかと思います。

さらに「具体的で小さな目標を重ねていく」ということも大事になります。

例えば「車椅子に座っていられるようになる」「自分で食事が食べられるようになる」「10秒間立っていられる」「居室の入り口からベッドまで歩けるようになる」など、少し頑張れば実現できそうな短期目標をこまめに設定していくのです。

はじめから大きな目標ばかりを追っていたら、なかなか報われずにやる気が落ちたり、息切れしやすくなってしまうからからです。

そして1つ1つ小さな目標を達成していきながら、その都度周りの人たちと喜びを共有するのです。

これはやる気を上げたり、前向きな気持ちを持続させていくには非常に有効です。

もちろんそのためには、家族や医療・介護保険スタッフなど、周りにいる人たちの協力が欠かせません。

「回復へ道のり」は、周りの人たちとの「協同事業」であるとも言えるでしょう。

認知症がある人だったらなおさらですが、高齢者が心身ともに回復していくためには「頑張るのは本人ではなく、周りにいる人たち」である場合がほとんどだからです。

「声掛け」だけでも良いのです。

本人に運動や動作を促したり、励ましたりすることはもちろん、良くなった点があれば「ここが良くなりましたね!」と是非本人に伝えてあげてください。

良くなっても、本人が気付かない場合が非常に多いからです。

そして「すごいですね!」「良かったですね!」とこちらが驚いたり喜んだりすると、それが励みになって本人はますます「頑張ろう!」と思ってくれます。

しかし同時に「頑張りすぎない」「頑張らせすぎない」ということも大事になります。

日によって当然体調や意欲は波を打ちますし、なかなかうまくいかないということもあるでしょう。

そのたびに一喜一憂していたら疲れてしまって、長続きしなくなります。

調子の良い時に頑張ればいいのであって、調子が悪い時には休んでもいいのです。

時に2~3日休んだとしても、決して「やめない」ということが大事だからです。

そういった意味では、小さな目標を重ねつつも、あせらず長いスタンスで取り組むという姿勢も大事なのです。

これらが「前向きな気持ちを持続させるためのコツ」ではないかと思っています。

 

さいごに

このように、高齢者が「寝たきり」状態から回復するためには、まずは本人の「良くなりたい!」という気持ちが大事になると思いますが、ただ認知症がある場合では「良くなりたい!」という気持ちを持続させたり、そもそもそんな気持ちを持つことすら難しいということもあるかもしれません。

そのため、本人が回復できるかどうかは、周りにいる人たちの頑張りに掛かっているとも言えるでしょう。

しかし、認知症があって本人になかなか話が伝わらなかったり、拒否が強かったりすると、周りの人たちがどんなに頑張っても、リハビリのために身体を動かしてもらうことが難しかったりします。

逆に、どんなにしっかりしている高齢者であったとしても、「良くなりたい!」という気持ちとやる気を持続させながら、リハビリを継続していくというのは難しいものです。

それは、たとえ上記したような「前向きな気持ちを持続させるためのコツ」を実践できたとしてもです。

そのため、認知症の有無に限らずどんな人でもリハビリに長期間、無理なく取り組んでいくためには、生活スタイルや生活環境、生活習慣を、心身ともに活動性が高くなるように設定してしまうことで、生活そのものをリハビリに結びつけてしまう、というのが一番効果的な方法ではないかと思うのです。

そして、今回のシリーズの表題を「高齢者ほど『和式生活のススメ』」にしたのは、そのことを端的にお伝えしたかったからでもあります。

今回のお話が少しでも皆さんのお役に立つことができれば幸いです。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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高齢者ほど「和式生活のススメ」(14)

前回は、「和式生活」を導入することで「床上動作」を通じて日常的に全身の筋力を鍛えられるようになるため、「和式生活」は認知症高齢者の身体活動を活発にする選択肢としても十分考えられるというお話をしました。

そして実際に、日常的な「床上動作」が動作能力を飛躍的に回復させた認知症高齢者の症例についてご紹介いたしました。

今回はその続きになります。

 

「寝たきり」状態から回復された高齢者に共通していたこと

認知症のある高齢者が、ケガや病気などで入院して一旦身体状態が低下してしまうと、そこから回復するのはなかなか難しく、そのまま寝たきりになってしまったり、認知症がどんどん進行していってしまうということがよくあります。

これは入院によって安静を強いられ、心身ともに不活発な状態が一定期間続いてしまうと、それが引き金になって「廃用症候群」の「負のスパイラル」が回り出し、高齢者にとってはそこから抜け出すのが容易ではないからだというのは、これまでお話ししてきた通りです。

しかも心身ともに、いわばギリギリの状態で何とか生活しているような認知症高齢者では、ちょっとした心身機能の低下が、それまでの生活を継続困難にさせかねません。

そのため、とりわけ認知症のある高齢者にとっては、心身ともに活動的な生活を保つことで「廃用症候群」の発症を予防する、ということが一番大事なことになります。

しかし、入院してほぼ「寝たきり」状態になった高齢者が、認知症の有無に限らず、身の回りのことができるようになったり、歩けるまでに回復できたという症例も、全体的に見ればわずかですが、少なからず経験しています。

認知症がある場合では、前回ご紹介した症例のように多動で落ち着かなくなっていたり、または痛みを感じにくくなっていたりすることで、日常的に身体活動量が増えて、結果的に歩けるようになったという方も何人かいらっしゃいます。

ただ今回お話ししたいのは、認知症がない、もしくは認知症があったとしてもごく軽度の高齢者で、ほぼ「寝たきり」の状態から回復された皆さんには、どのような点が共通していたかということです。

それは何だったのかといいますと「できるだけ早期からトイレの使用を始めていた」ということと、「『絶対に良くなる!』という気持ちを持ち続けていた」ということでした。

では、なぜこれらがあることで回復できたのでしょうか。

考えられる理由について、次にお話ししていこうと思います。

 

「できるだけ早期からトイレの使用を始めていた」ことで

ケガや病気で入院すると、治療のためにはもちろん、痛みがあったり身体の具合が悪かったりして、どうしてもベッド上で安静を強いられることになります。

すると当然のことですが、ベッド上安静でいる期間が長くなるほど「廃用症候群」が発症・進行しやすくなり、「寝たきり」状態から脱却したり、大きく回復することが難しくなっていきます。

そのためだと思いますが、まず「寝たきり」状態から回復された皆さんに共通しているのは、ベッド上安静でいる期間を可能な限り短くしていたということです。

入院して「寝たきり」を強いられる場合、身体の状態や治療のために、トイレで排泄できずにオムツやバルーンを使用せざるを得ないという場合が多くあります。

しかし、主治医の許可が出たらすぐに、もしくはどうしてもオムツをつけるのが嫌でどんなに具合が悪かったり、強い痛みがあったとしても、とにかく介助をお願いしながらでもトイレを使用するようにしていたという人がほとんどなのです。

トイレを使用するようになると、「寝たきり」状態に比べて身体活動量が一気に増加します。

そのため、丸1日ベッド上で「寝たきり」でいる状態と、1日1回でも身体を起こして、しかも立位になる機会がある状態とでは「廃用症候群」の進み方に雲泥の差が出てくるのです。

また、地球上にいる生物はすべて「重力」という大きな負荷の中で暮らしていかねばなりません。

これは人間とっても同様で、私たちが生活を営んでいくためには、いかに「重力」に抵って身体を動かせるかということが、常に大きな課題になっています。

そして、人間の身体を「重力」に抵って支えたり、動かしていく上で大きな役割を果たしているのが「抗重力筋群」になります。

そのため、「廃用症候群」の予防やそこからの回復のためには、「抗重力筋群」をいかに働かせて鍛えることができるかということが一番大事になるのです。

当たり前のことですが、「抗重力筋群」を活動さえて鍛えるためには、体幹や下肢に自分の体重を「荷重する」ということが不可欠になります。

つまり、生活の中でいかに「起きて」「立つ」機会を持てるかということです。

身体を起こせば体幹を支えようと、自然に体幹の「抗重力筋群」が働いてくれます。

立てば身体全体を支えようと、自然に体幹と下肢の「抗重力筋群」が働いてくれます。

そのため、トイレを使うようになれば、この大事な「起きて」「立つ」という機会が、生活の中で自然に確保されることになるため、「抗重力筋群」の維持や筋力向上がしやすくなるのです。

したがって、「寝たきり」状態から回復された高齢者の皆さんにとっては、まさしく「早期からのトイレ使用が回復への『命綱』だった」とも言えるのです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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高齢者ほど「和式生活のススメ」(13)

前回は、高齢者やパーキンソン症候群のある人ではお尻の筋肉が衰えやすく、お尻の筋肉が衰えてくると、歩く時に腰や膝が曲がった姿勢になって、すり足や小刻み歩行、動作緩慢などの「パーキンソン症候群」が増強しやすくなったり、さらには腰痛や膝痛、首痛の原因になることもある、ということをお話ししました。

そのため、お尻の筋力をしっかり保つことが若さを保つ秘訣であるとも言え、お尻の筋肉を鍛えるには、日常的に床からの立ち座り動作に代表される「床上動作」を頻繁に行う「和式生活」が適しているということや、お尻の筋肉を効率良く鍛えられる体操についても2つご紹介しました。

今回はその続きになります。

 

認知症高齢者の身体活動を活発にする選択肢に「和式生活」も

認知症になると、自分の身体の健康管理がおろそかになりやすく、病気になっても病状を悪化させやすくなったりするので、周りが気付いた時には大ごとになっている、ということも少なくありません。

これは認知症が進行していくと、自分の身体の状態に無頓着になりやすくなるため、身体に何かしらの不具合があってもそれに気付けなくなったり、気付いたとしてもそれを周りの人に訴えるなど、適切な対応ができなくなってくるためです。

これは運動機能についても同様で、認知症になると身体の動きが悪くなってきても、そのことをしっかり認識して注意深く行動するということが難しくなるため、ますます転倒しやすくなったりするのです。

また「身体を動かさないとまずいな」と自戒して意識的に身体を動かすといったことも難しくなりますし、さらに、その場その場の感情で行動するようになってくると、身体が動きにくいのでいつも「動くのがおっくうだから」ということになって、ますます動かなくなってしまいます。

ちなみに認知症の初期にも、急に生活が不活発になることがあります。

それは、認知症の初期に「うつ症状」が出てくることがあるためですが、「うつ症状」があると何をするのにも意欲がなくなってしまい、心身ともに引きこもりにがちになって活動量が激減してしまうのです。

このように認知症になると、心身ともに「廃用症候群」が発症・進行しやすくなってしまいます。

そのため認知症になったら、半ば強制的であっても、できるだけ本人が心身ともに活動的に過ごせるような生活環境や生活スケジュールを設定しまうことが不可欠だというのは、今までお話してきた通りです。

そして今回のテーマである「和式生活」も、導入することで「床上動作」を通じて日常的に全身の筋力を鍛えられるようになるため、認知症高齢者の身体活動を活発にする選択肢としても十分考えられるのではないかと思うのです。

この「床上動作」を日常的に行うことによって、実際に動作能力が大きく向上した症例がありますので、次にご紹介します。

 

日常的な「床上動作」が動作能力を飛躍的に回復させた症例

施設入所をしており、伝い歩きだったら何とかトイレまで行くことができる90歳過ぎの方がいらっしゃいました。

高齢で身体の動きも徐々に悪くなっていましたが、認知症症状が出現・進行して、理解力や注意力の低下が目立ってきたこともあり、ある時転倒して大腿骨頚部骨折を受傷してしまいました。

この方は幸いにも入院して手術が上手くいき、もとの施設に戻ることができたのですが、ただ入院によってさらに認知症が進行してしまいました。

退院時の動作能力としては、介助があれば何とか立てるという状態であり、そのため一人で立ったり歩いたりするのは難しく、ベッドから車椅子への移乗はすべてスタッフの介助が必要でした。

しかし本人はそのことを理解できず、さらに多動で落ち着かないという認知症症状も前景化していたため、頻回に一人で立ち上がろうとして、ベッドや車椅子から転落する事故が続くようになりました。

ただ本人にとっては、それがかえってリハビリになり、数か月後には危ないながらも手すりに摑まれば一人で立ったり、何とか伝い歩きができる状態にまで回復することができました。

しかし、そのうちに昼夜を問わず、居室のベッドから一人で立ち上がり、壁を伝いながら歩いて廊下まで出てきてしまうということが頻発するようになり、それに伴って転倒事故も増えてしまったのです。

そのためまずは、本人が休む時にはベッドの高さを一番低くしてみたのですが、ベッドが低くて一人では立ち上がれなくなりましたが、それでも立ち上がろうとして、今度は床に転落する事故が起こるようになりました。

施設では、ベッドの両側にすき間なく柵を設置するなどして本人の行動を「抑制」することはもちろん、本人の動きを監視して知らせてくれるセンサーマットの設置も禁止されていたため、スタッフはどのように対応したら良いか対応に苦慮したのですが、最終的には居室ではベッドの代わりに布団で休んでもらうという「お座敷対応」をすることになりました。

布団で休むようにすれば、一人で立ち上がることもできず、布団と床の高さがほぼ同じになるので転落する心配もなくなると考えたからです。

するとこの対応がとても上手くいき、しばらくは転倒・転落事故はもちろん、危ない場面も見られなくなったのですが、ただ本人は相変わらず布団から起き出して、床の上をお尻でずって歩いて廊下まで出てきてしまったり、立ち上がることはできないけれど何とか四つ這いから立ち上がろうとする行動は続いていました。

するとまた数か月後には、一人で廊下まで歩いて出てくるようになってしまったのです。

そこで本人の動作を確認してみたところ、一人で布団から起きて床の上で四つ這いになり、そこから洗面台や机などにつかまって何とか立ち上がれるようになっていたのです。

その後もさらに動作能力が向上していきました。

そして数週間後には、何と一人で床から立ち上がってトイレで排泄することもできるようになったのです。

現在この方は90歳半ばとなり、認知症も強いままですが、もうほとんど転倒することがなくなり、施設で元気に暮らしています。

転倒・転落防止対策として、そもそも一人で立ち上がれないようにすればいいのではないかと、いわば「苦肉の策」として行った「お座敷対応」が、かえって本人に「床上動作」を毎日反復して行わせることになり、結果的にそれが、認知症で大腿骨頚部骨折術後の90歳を超えた高齢者であっても、飛躍的に動作能力を回復させることになったということです。

そして、これこそがまさに「床上動作」のリハビリ効果そのものではないかと感じているところです。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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高齢者ほど「和式生活のススメ」(12)

前回は、入院で体力が落ちた施設入所者が退院して施設の生活に戻ると、基本的に他の入居者さんと同じように全体の予定に合わせて毎日生活するようになるため、半ば強制的に必要な「生活動作」を繰り返し行うようになって、いつの間にか入院前の身体状態まで戻っているということが多く、これこそが「生活動作」を活用したリハビリの本骨頂ではないかというお話をしました。

また、特に認知症高齢者の心身機能を維持・回復させるためには、日常的に「できるだけ心身の活動性を高く保つ」ことが不可欠であり、リハビリとして「生活動作」を有効に活用していくためには、リハビリスタッフから「生活スタイル」や「生活環境」について、具体的なアドバイスをもらうのも効果的だというお話もしました。

今回はその続きになります。

 

高齢者やパーキンソン症候群のある人はお尻の筋肉が衰えやすい

高齢者では加齢とともに歩行時に膝がやや曲がったままになって前傾姿勢になったり、足の運びもすり足で小刻みになり、動作が全体的に緩慢になってきたりします。

これらはすべて「パーキンソン症状」と言われているものであり、特に認知症を伴う変性疾患の多くで合併しやすく、症状も顕著化しやすい傾向があります。

このような「パーキンソン症状」が出現している病態のことを「パーキンソン症候群」と呼んだりもしますが、「パーキンソン症候群」のある人では「股関節周囲筋群や下部体幹筋群」が衰えやすく、これらの筋群を鍛えるには「床上動作」が適しているというのは、これまでお話ししてきた通りです。

その中でも特に衰えやすい筋肉が「殿筋群」になります。

「殿筋群」とは大殿筋・中殿筋・小殿筋を合わせた総称であり、お尻にある筋肉のことです。

高齢者やパーキンソン症候群の人では、特にこのお尻の筋肉が衰えやすいのです。

 

お尻の筋肉が衰えてくると

「殿筋群」の主な働きは、「抗重力筋として股関節から上の体重を支えて適切な姿勢を保持すること」と「股関節を伸展させること」になります。

もう少し具体的に言えば「骨盤が後ろに倒れないように、まっすぐに立てて保持する」とともに「曲がっている股関節を伸ばしたり、股関節を軸にして下肢を後ろに動かす」働きをするということです。

そのため「殿筋群」の筋力が低下すると、骨盤が後傾して腰が丸まりやすくなります。

すると身体の前後のバランスをとるために膝が曲がったり、背中が丸まって頭が前方に偏移した姿勢になります。

これは「パーキンソン症候群」がある人の典型的な姿勢になっています。

したがって「殿筋群」の筋力低下が、いわゆる腰や膝が曲がってくる大きな原因の1つにもなるのです。

身体の自分で試してみると分かりますが、その姿勢のままでずっといると、腰や膝、首周りの筋肉に負担が掛かり、腰痛や膝痛はもちろん首から背中にかけて痛みが出てくる原因にもなります。

またその姿勢のまま歩こうとすると、とても歩きにくくて速く歩けず、しかも余計なところに力が入って疲れやすくなるのが分かると思います。

腰や膝が曲がった姿勢では「殿筋群」が働きにくくなるため、股関節を伸展させる力が弱まり、歩行時に足で床を力強く後ろに蹴り出して身体を前に押し出す推進力が弱まってしまうからです。

そして「殿筋群」が働きにくいその姿勢でずっと過ごしていると、さらに「殿筋群」が衰えてしまって姿勢が悪くなり、歩くスピードもどんどん遅くなってしまいます。

つまり「殿筋群」が衰えると、歩く時に腰や膝が曲がった姿勢のままで、足の運びがすり足で小刻みになって動作も緩慢になる「パーキンソン症候群」が増強しやすくなり、それでさらに「殿筋群」も衰えていってしまうのです。

これでは、以前お話しした「廃用症候群」を加速度的に進行させてしまう「負のスパイラル」がどんどん進んでいってしまうことになります。

逆に言えば、お尻の筋力をしっかり保つことが若さを保つ秘訣であるとも言えるのです。

 

若さの秘訣はお尻の筋力を保つこと

筋肉を効率良く鍛えるには、できるだけ強くそして頻繁にその筋肉を活動させれば良いのですが、「殿筋群」の場合は、股関節を大きく曲げ伸ばしする運動をすれば良いのです。

この股関節を大きく曲げ伸ばしする運動を自分の体重をかけながら行えるのが、床からの立ち座り動作に代表される「床上動作」になります。

したがって、お尻の筋肉を鍛えるには、日常的に「床上動作」を頻繁に行う「和式生活」が適しており、高齢者の人が「和式生活」を送ることは、姿勢や動作を若々しく保つにも適しているのです。

ちなみに床からの立ち座り動作のほかに「殿筋群」を効率良く鍛えられる体操がありますので、以下に2つご紹介いたします。

 

①股関節のスクワット

普通のスクワットは、膝を曲げ伸ばしすることを意識して行うため、膝を曲げた時に上から見ると、膝が足先より前に大きく出てしまいます。

股関節のスクワットは、この点が普通のスクワットとは異なり、膝を曲げた時に上から見て膝が足先より前に出ないようにします。

また、背筋はできるだけ伸ばしたまま行います。

そのため、ちょうどかがんだ時の姿勢が、スキージャンプ選手がジャンプ台を滑降している時の姿勢と同じような感じになります。

そして「1・2・3・4」でゆっくりかかんで、「5・6・7・8」でゆっくり身体を伸ばしていきます。

1セット10回を目安にして行い、まずは1日2~3セットを目安にして行うと良いでしょう。

どうしても身体の動きが分かりにくい場合は、鼠径部に自分の手を置き、かがんだ時に自分の手を押しつぶすようにしてみてください。

また、スクワットをしている時に、膝から下の下腿が常に床と垂直になるようにイメージすると良いでしょう。

もちろん体操の時に身体が不安定になる場合は、何かにつかまって行うようにしてください。

 

②バレエの立位姿勢で両膝を閉じる

まず両足の踵をつけて立ち、両方の足先をできるだけ大きく開きます。

足先を開けば開くほど運動の負荷が上がります。

また、身体はまっすぐ伸ばし、特にお尻が後ろに突き出ないようにします。

この姿勢は、ちょうどバレリーナがまっすぐ立っている姿勢に似ていると思います。

この姿勢をとるのが難しい場合は、何かにつかまって身体を支えたり、足先を開く角度を狭くしてください。

そのまま「1・2・3・4」で両膝を閉じる方向に力を入れ、「5・6・7・8」で脱力します。

1セット10回を目安にして行い、まずは1日2~3セットを目安にして行うと良いでしょう。

この運動は、殿筋群はもちろん大腿後面にある筋群を強く活動させる運動になりますので、歩く前に行うと、今まで使っていなかった殿部から両大腿後面の筋群をより強く使いながら歩けるようになるのが実感できると思います。

また、下肢と腰が今までよりもしっかり伸びて、足先で床を後ろに蹴り出しやすくなるので、歩行スピードも上がると思います。

特にこの運動は、立位や歩行時に下肢がO脚傾向で、膝や腰が伸びきらないような人では有効だと言えます。

 

お尻の筋肉を鍛えるために、2つの体操を是非ご活用いただければと思います。

ただ実際に体操をしてみて、痛みが出たり、負荷が強すぎるような場合には、実施を控えるようにしてください。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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高齢者ほど「和式生活のススメ」(11)

前回は、リハビリを効果的に進めていくには「負荷量」の設定が大事であり、本人ができるかできないかのギリギリの「負荷量」で動作・運動していけばいくほど、得られるリハビリ効果が大きくなるというお話をしました。

その点、床からの立ち座り動作に代表される「床上動作」は、高齢者にとっては全身の筋力とバランス能力を要求される比較的難易度の高い動作になるので、日常的に行うリハビリとしても適切な「負荷量」の運動になりやすいというお話もしました。

今回はその続きになります。

 

入院で体力が落ちた施設入所者が退院して施設の生活に戻ると・・・

前回も少し触れましたが、日常生活の中でリハビリとして「生活動作」を活用していく場合、動作・運動の「負荷量」はどうしても専門的なリハビリに比べると小さくなってしまいます。

そのため、当然ながら1回の動作・運動によって得られる効果も小さくなってしまうのですが、その分生活の中で何度も繰り返して行っていくことで十分カバーできますし、それ以上の効果が得られることもあります。

実際に、そのことを実感させられるようなことがたびたびあるからです。

例えば、施設に入所している人が病気になって数週間から数か月間入院することがよくあります。

すると、施設では日中は車椅子で起きて生活していたり、介助で歩いてトイレに行っていたような人でも、入院中はどうしても治療のためにベッド上で安静を強いられることになります。

すると入院中はベッド上で寝ている時間が長くなるので、たとえリハビリを受けていたとしても、施設に帰ってきた時には体力が落ちてしまって、車椅子に長く座っていられなくなっていたり、起立や歩行が介助でも難しくなっていたり、というようなことがよくあるのです。

それが退院して施設に帰ってくると、朝は着替えに始まってトイレに行き、食事は毎食デイルームで座って食べて、その後も他の入居者さんとデイルームで過ごすようになって・・・というような日常生活を送るようになります。

もちろん、その人の体調や動作能力に応じて日中の過ごし方は変わってきますが、施設では他の入居者さんとの共同生活になるため、基本的に全体の予定に合わせて毎日生活するようになります。

すると、入院で落ちてしまった体力が徐々に回復してきて、いつの間にか入院前の身体状態まで戻っているということがよくあるのです。

これは施設の生活スケジュールに合わせて、半ば強制的であっても必要な「生活動作」を繰り返し行っていくことの効果に他ならないと考えています。

そして、これこそが「低負荷・少量」であっても「頻回」に実施できる「生活動作」を活用したリハビリの本骨頂ではないかとも思うのです。

したがって、高齢者が体力や動作能力を回復させるためには、専門的なリハビリを受けるというのも確かに有効ですが、「日々どのように過ごしていくか」ということこそ、大切にしなければならないと思っています。

 

数か月デイサービスをお休みした認知症高齢者がデイサービスを再開すると・・・

これは、在宅生活をしている高齢者でも同様なことが言えます。

今回の新型コロナウィルス騒ぎで数か月デイサービスをお休みしたら、ボーっとして発語も少なくなってしまったけれども、デイサービスを再開したら徐々に元の状態まで回復してきたという認知症患者さんが少なくないからです。

高齢者が病院や家にいてずっと寝てばかりいたり、一人でボーっと過ごしていたら、それこそ坂道を転げ落ちるように「廃用症候群」が進行していってしまうでしょう。

ましてや認知症のある高齢者だったら、それはなおさらです。

やはり身体的にも精神的にも、不活発な状態でいたら「使わない機能」は「すぐに衰えてしまう」ことになるのです。

そのため、認知症高齢者の心身機能を維持・回復させるためには「できるだけ入院させない」「できるだけデイサービスなどを利用してずっと家にいさせない」ことが大切であり、それによって日常的に「できるだけ心身の活動性を高く保つ」ことが不可欠なんだと言えます。

 

「生活動作」を有効に活用するために

また、「生活動作」を活用したリハビリを効率良く実施していくために、リハビリスタッフからアドバイスをもらうのも良いでしょう。

そうすれば、本人が実際はどこまでできるのか、現在の身体の状態や動作能力を確認してもらえるとともに、具体的な介助方法や杖・シルバーカーといった適切な歩行補助具の選定、安全に居室内を移動できるような動線を確保するために伝い歩きできるような家具の配置や手すり・福祉用具の導入などについて、的確な助言をもらえるからです。

そういった意味では、日常生活の「生活動作」がすべて効果的なリハビリにつながるように、本人ができる動作を最大限に活かせるような「生活スタイル」や「生活環境」について提案することも、リハビリスタッフに課された大きな役割の1つではないかと思っています。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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高齢者ほど「和式生活のススメ」(10)

前回は、「床上動作」は認知症高齢者で衰えやすい「股関節周囲筋群」や「下部体幹筋群」を鍛えてくれるため、専門のリハビリスタッフも「床上動作」を利用した運動療法をよく実施しているというお話をしました。

そして、実際に専門のリハビリスタッフが行う「床上動作」を利用した運動療法の進め方についてご紹介し、その時に特に気を付けなればならないのが「姿勢」であり、抗重力筋群の神経筋活動を賦活する運動療法を実施する際のキーワードが「まっすぐ伸ばして荷重する」ことである、というお話もしました。

今回はその続きになります、

 

本人ができるかできないかのギリギリの「負荷量」での運動が効果的

前回もお話しした通り、リハビリを効果的に進めていくには「姿勢」に気を付けるということがポイントになりますが、もう1つポイントになることがあります。

それが運動療法を実施する際の「負荷量」です。

本人にとっての動作・運動の「負荷量」は、大きすぎても小さすぎてもいけません。

専門的なリハビリでは、限られた少ない時間と回数で最大限の効果を得るために、その人ができるギリギリの「負荷量」を見極めながら実施する動作・運動を選択するとともに、「負荷量」が適切になるように、身体を支えられるような「環境設定」や「介助量」を微調節していきます。

つまり本人の能力に対して、身体を支えられるような「環境設定」や「介助量」が、過剰になりすぎないよう必要最低限にしていくということです。

そうすることで、例えば「立位保持」の練習では、まっすぐな姿勢を保持するために必要な体幹や股関節、膝関節周囲の筋活動を最大限に促し、本来あるべき適切な神経筋活動を最大限に引き出すことができるようになるからです。

当然ながら、リハビリによって体力や動作能力が回復していけば、それに応じて「負荷量」も増やしていかなければなりません。

過剰な「環境設定」や「介助量」によって、本人の能力よりも動作・運動の「負荷量」が小さくなってしまったら、せっかくの運動療法も効果が減弱してしまいます。

そのため専門的なリハビリでは、毎回その人が「ギリギリできるかできないか」というところの「動作・運動の選択」とそれを「実施する際の負荷量の調節」が大事になります。

そして、本人ができるレベルのものよりも、ほんの少しだけ難易度が高い動作・運動をしてもらうようにするのです。

そうすればするほど、得られるリハビリ効果が大きくなるからです。

そのため、これができるかどうかこそが担当するリハビリスタッフの「力量」だとも言えるほどなのです。

 

高齢者にとって「床上動作」は動作・運動の「負荷量」としても適している

しかし、このような専門的なリハビリは、本人に対して少なからず身体的・精神的な負担を強いることになります。

同時に、運動療法の実施に伴うリスクも高くなるため、常にそれらのリスクに配慮した対応が求められることになります。

そのため、このような専門的なリハビリを在宅で日常的に行うことは困難であり、現実的ではありません。

その点「生活動作」を活用したリハビリは、「低負荷・少量・頻回」で実施していくものなので、安全でリスクが少なく、取り組みやすいと言えます。

確かに、1回の動作・運動によって得られる効果は、専門的なリハビリに比べると小さくなりますが、生活の中で何度も繰り返して行っていくことで十分カバーできますし、それ以上の効果が得られることも実際にあるほどです。

とはいっても、本人にとって動作・運動が簡単で「負荷量」が小さすぎるというのもあまり効果的ではありません。

その点、床からの立ち座り動作に代表される「床上動作」は、高齢者にとっては全身の筋力とバランス能力を要求される比較的難易度の高い動作なので、日常的に行うリハビリとしても適切な「負荷量」になりやすいのです。

もちろん本人の状態に応じてですが、もし「床上動作」が難しすぎたり、安全性に問題があるのであれば椅子や台を利用したり、家族が随時介助して行ってもらうのも良いでしょう。

いずれにしても高齢者にとっては、日常的に「床上動作」を繰り返していくことで、体力の維持・向上を十分に期待できますので、是非「床上動作」を活用していただければと思います。

 

次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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