認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

認知症を「悪く」させるには①

皆さんは「認知症になったら悪くなるばっかりで、良くなることなんかない!人生の終わりだ!」などと思っていないでしょうか。

私もかつてはそう思っていました。

しかし日々の診療を通じて、実際に認知症の症状が改善していく方を何人も経験していくうちに、私自身「認知症は決して良くならない病気ではないし、予防もできる」と思うに至りました。

そして実際に認知症が良くなる例を何人も経験できたことによって、やっぱりこういう対応が良くて、こういうやり方は悪いのだということを改めて確認することができました。

前回、認知症医療にとって投薬治療とケアは両輪であり、どちらが欠けてもうまくいかないということをお話しいたしましたが、実際は適切な生活習慣やケアを取り入れるだけでも認知症が改善される例が少なくありません。

そこで今回は、私が経験の中で学んだ「認知症の方に対する好ましいケア」についてお話ししていこうと思います。

 

認知症の方に対する好ましいケア」を理解するには、まず「認知症を悪くさせる方法」を知ることが手っ取り早いと思います。

患者さんのご家族にもよくお伝えしている「認知症を発症させたり、症状を一気に進行させてしまうような悪いケア」の代表的なものは、

・一人にして構わないでいる(無関心・放置)

・引きこもりにさせて刺激のない生活を送らせる(社会との隔絶・心身の不活性化)

・できないことや間違いを指摘して怒る(不安感の増強・感情の逆なで)

などがあります。

実はこのような家族の不適切なケアが原因で、認知症の症状を引き出してしまったり、悪化させてしまっている例がとても多いのです。

そのような不適切なケアをしていると、いくら症状に合った薬を使ったとしても、なかなか思うように効果は得られません。

 

では認知症の方にとってはどんなケアが良いのかというと、つまり今挙げたような「悪いケア」の逆のことをすればいい訳です。

それが認知症の方にとっての「良いケア」になるのです。

実際、薬が変わらないのにケアが改善されただけで認知症の症状が良くなった例もあります。

それだけ認知症にとって適切なケアというのは大事なのです。

 

認知症のある方(や疑いのある方)を一人にして構わないでいたり、引きこもりにさせて刺激のない生活を送らせてしまうと、どうして悪いのでしょうか。

まず、いつも一人でいて他人との交流があまりない生活を送っていると、「異変」に気付くのが遅れてしまうのはもちろん、毎日の生活に変化がなくなると精神的な活動も不活発になり、認知症の発症や進行に直結してしまうからです。

いつも家にいてボーっとTVを観て、うつらうつらしているような方は要注意です。

 

また身体的には、軽い運動はもちろん外出もあまりしなくなってしまうと、身体活動が不活発になるため、体力・筋力低下が進んでしまいますし、身体を動かすことは心の活性化にもつながりますので、心身ともにどんどん不活発になる悪循環に陥ってしまいます。

一旦この悪循環に陥ってしまうと、なかなかそこから抜け出すのは難しい。

そうすると歩行や立位での動作が不安定になり、高齢者にとっては健康寿命を大幅に短くしてしまいかねず、一番注意しなくてはならない「転倒・骨折」のリスクも高まってしまいます。

 

そうならないためには、毎日のように他人と交わる機会を作ることと、身体活動を伴うような生活習慣を持つことが大切です。

とにかくできるだけ1人にさせない、自分の部屋にいさせない、家にいさせない。

そして買い物でも家事でも良いので、何か役割を持ってもらうということも大事でしょう。

その方の得意なこと、好きなことを是非活かしてあげてください。

 

ただ、今は高齢者で独居生活を送っている方も少なくないので、そういう方の場合は、家族の方がいるのであればできるだけ頻繁に訪問することが大事です。

仲の良い近所の方や、友人、知人の方でも構いません。

それだけで本人の「変化」に気づきやすくなりますし、心身ともに活動機会が増えることになります。

またそういう方がいないのであれば、デイサービスや訪問サービスなどの介護保険サービスを積極的に利用してください。

日常的に他人との交わりや身体を動かす機会になり、心身の活動を保つこともできます。

 

次に認知症を悪化させる対応として最たるものが「本人のできないことや間違いを指摘して怒る」ことです。

昔の健康だった頃の状態を相手に求めて「違うじゃない!」「何でこんなことも分からないの!」などと。

本人を何とかして良くしたいと願う熱心な介護者や家族が、かえってこのような言動をとってしまう、ということも少なくありません。

これは本人に対するいわば愛情の裏返しだと思うのですが、できないことを求められると本人はもっとつらくなり、それが大きなストレスとなって病状を進行させてしまうことになるのです。

 

うちの先生はよく「努力をするのは患者さん本人ではなく介護する家族の方だ」と言っています。

すべては認知症という病気の症状だと思えるかどうか。

今まで良いことも悪いことも、楽しいこともつらいことも一緒に乗り越えながら長い時間人生を歩んできた、自分のことを一番分かってくれているはずの愛すべき夫・妻・父・母…をいわば一旦あきらめることができるか。

それはとてもつらいことで、大きな心の葛藤を伴うことだと思います。

しかしそれを乗り越えることが、実は本当の認知症治療のスタート地点に立つことになる、とも言えるのです。

前回も少しお話ししましたが、大切な方の状態を一歩引いて客観的に観察し、その情報を治療やケアに活かす姿勢を持てるようになると、相手の認知症症状がぐっと改善し、治療の効果も目に見えて上がってきます。

自分が冷静になって落ち着いて対応できるようになると、相手も落ち着いてくることが多く、いつも一緒にいる身近な人であればあるほど、本当に相手は「自分を映す鏡」でもあるということが分かってきます。

 

長くなりましたので、次回に続きます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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