認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

認知症を「悪く」させるには③

前回は「相手のできないことや間違いを指摘して怒る」と認知症を悪化させるので、その逆である「相手の良い点を見つけてほめる」ことが認知症の症状を落ち着かせる「良いケア」であること、また「相手の良い点を見つけてほめる」ことは意外に難しいけれども、それに努めることが自分自身の成長にもつながり、自分が落ち着いて対応できるようになると相手も落ち着いてくるというお話をいたしました。

今回は「認知症にとって好ましいケア」についての続きと、家族がそのようなケアをすることが難しい場合の対応などについてお話しいたします。

 

これまでお話ししてきたように、認知症の方に対してはできるだけ「不安」や「不快」の気持ちを煽るような言動は避ける必要があります。

特に心掛けたいのは、頭ごなしに「ダメ!」「違うでしょ!」などと相手が「否定された」と感じるような言い方は避けるということです。

たとえ相手が間違っていたとしても「そうだよね~」と同調しながら話題を変えたりし、できるだけ相手を刺激しないことが大事です。

 

特に前頭側頭葉変性症や他の認知症疾患でも病気が進行して病変が前頭葉まで及んできた場合では、「我慢」することや「人を思い遣る」ことが難しくなってくるため、どんどん「going my way」的になっていきます。

ひどくなると周りにいる人のことは全く関係なくなって「自分がやりたいことだけ」をやりだし、それを止められたり邪魔されようなものなら「烈火のごとく怒り出す」という状態になるので、こうなると家族は本当に困ってしまいます。

ただそこまで症状がひどくなくても、すぐに怒ってしまったり、落ち着かなくなるという症状がある方の場合は、不穏の「引き金」になったり「スイッチ」が入ってしまうような何かしらの「キーワード」や「フレーズ」があることが少なくありません。

そのようなキーワードやフレーズがないかどうかをいま一度確認し、もしあるのであれば決して使わないようにすることが大事です。

 

また決して突き放した言い方はせず、「大変だね。頑張ってるよね」「本当に良くやってるよね。こうするともっと良いかも」などとねぎらいの言葉をかけたりしながら、こちらが寄り添う姿勢を示すことも大事なのだと思います。

コミュニケーションの際、相手に伝わる情報の半分以上が「非言語的なもの」だといわれますので、相手に安心感を与えられるように、笑顔で穏やかに動じない態度で応対することが大事なのだと言えます。

 

短期記憶障害が強いような方の場合は「忘れっぽいこと」も利用できます。

「財布がない!」「盗られた!」などと怒って爆発したような時は、何気なく話題を変えて本人が忘れるのを待ったり、それがダメなら相槌をつきながらサーッとその場から立ち去る。

しばらくすると本人は、さっきのことなどはすっかり忘れてケロッとしているということもよく聞きます。

 

また環境依存性(=被刺激性)の症状(目先のことにすぐ注意を奪われる)がある場合もそれを利用できます。

不穏で落ち着かなくなった時に、本人が好きなことや興味があるものをサッと見せたり、渡したり、「あっ!○○だ!」などと大きな声を出して注意を逸らせるのも一つの方法です。

 

ただ本人を介護している方がこれらのことをしっかり理解してくれたり、うまく対応してくれるようなケースばかりかというと、もちろんそうではありません。

逆に本人に対して、いわば「油に火を注ぐようなやりとり」ばかりしてしまって、どんどん症状を悪化させている場合もあります。

 

よくあるケースは、高齢者夫婦の2人暮らしで、一方が認知症を発症している場合です。

介護する方は相手が少し忘れっぽくなっていることは理解していても「認知症」であることはなかなか理解できない。

たとえ理解していたとしても、ついつい怒ってしまったり、間違いを指摘したり、嫌味を言ってしまったり・・・などと、長年培ってきた関係性のまま言いたいことを言って相手を「しゅん」とさせたり、怒らせて言い合いになってしまったり、ということを繰り返してしまう。

よく先生が言うのが、そのようなやり取りを繰り返していくうちに「キャッチボールのボールがだんだん重くなって、しまいには鉛のボールになってお互いが倒れてしまう」ということです。

 

このような場合は早急な対応が求められますので、息子さんや娘さん、ケアマネさんなどをお呼びし、病状説明とともに診察室でミニカンファレンスをすることもしばしばあります。

ちなみにこのようなケースは高齢夫婦に限らず、娘さんや息子さんと二人暮らしというパターンでもよく見られますが、介護者と認知症になった本人とのいわゆる「依存」関係が強いケースで多いかもしれません。

 

そんな場合は、とにかく二人だけで一緒にいるような時間をできるだけ作らないようにすることが大事です。

例えば日中は頻回にデイサービスなどを利用したり、また家族でもヘルパーさんでもいいのでとにかく第三者が入る時間を作るといったように、積極的な介護保険サービスなどの利用も勧めます。

そして将来的に他の家族との同居を模索したり、施設入所も視野に入れて今後のことを早急に検討してもらう、といったことを認知症の治療と併行して行っていきます。

 

認知症患者さんの生活環境が整って「穏やか」に生活できるようになると、本人も「穏やか」になってくることをよく経験します。

本当に認知症医療にとって治療とケアは両輪なのです。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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