認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

やっぱり認知症で多い「寝言」「イビキ」「意識の変容」

本日レビー小体型認知症(DLB)の初期と診断された患者さんも睡眠に問題のある方でした。

ご主人によると、

「イビキもかくし、すごい寝言を言うんだよ。それで寝室は別にしてる。とてもじゃないけど一緒に寝られない。起きてるんじゃないかと思うほどはっきり言うんだよ」と。

同席された息子さんのお嫁さんも、

「20年程前に一緒に同じ部屋で泊まったことがあるんですが、一緒に寝ていて寝言がすごかった」と。

さらに、

「実は主人も寝言をすごい言うんです」

ということでした。

そしてご本人は、

「(寝言のことは)全然分からない。覚えてない」と。

このようなことは診療の中では日常的なので、特にもう驚かないのですが、夢や寝言などの睡眠時の症状がもう20年前から出ていたことが診断の補助になると同時に、睡眠時の症状が長年積み重なって発症に至った可能性が高いということも想像できました。

また、寝言を言ったり、ひどい場合は自分の声で起きて行動してしまったりすることを覚えている方もいますが、この方のように自分では全く分からなかったり、覚えていないという方が大半なので、イビキや寝言、レム睡眠行動障害といった睡眠時の症状の有無については、一緒に寝ている方に確認しないと本当のところは分からないと思います。

 

ちなみに、この方の画像診断では、頭部MRIの所見は軽度海馬の萎縮がある程度でしたが(DLBなどのパーキンソン病関連疾患では大きな所見がないことが特徴)、SPECT検査(脳血流シンチグラフィー)では全体的に血流低下の傾向があり、特に両側後頭葉の血流が低下していたこと(DLBでは視覚を司る後頭葉の血流が落ちる傾向がある。そのため錯視や幻視などが起こりやすいとされる)、そして何よりもMIBG心筋シンチグラフィー検査(交感神経節後線維である心臓交感神経の障害を判定し、神経変性疾患に伴う自律神経障害を評価する検査で、パーキンソン病とDLBを含むレビー小体病で陽性になる)とDATスキャン検査(線条体におけるドパミントランスポーターの分布を可視化する検査で、ドパミン神経の変性・脱落を伴うパーキンソン病やDLBで陽性になる)が共に陽性になったため、DLBの診断に至りました。

 

うちの先生は「診断にはアナムネ(症状の経過を含めた既往歴の問診)が大事だ。アナムネだけで診断できることもある」とよく言っています。

今回も明らかなパーキンソン症状があることに加えてイビキがあること、そして大きくはっきりとした寝言を言うという症状が20年前にはもう始まっていたということが、DLBを疑う大きな要因になりました。

 

ちなみに治療としては、まずは就寝前に抑肝散1包を始めることにし、さらに全体的に症状を整える作用のあるサプリメントをご紹介しました。

本当は息子さんにも抑肝散を飲んでもらいたいところですが、それは次回以降お勧めすることになりそうです。

 

今回もう1つお話ししたいことは、この病気になりやすい「気質・器質」というものが確かにあり、それが「遺伝しやすい」ということです。

この「気質・器質」については今後詳しくお話しすることになるかと思いますが、特にパーキンソン病(PD)の5~10%くらいは血縁者に発症者がいて家族性に起こることが知られており、PDと同じレビー小体病であるDLBや、進行性核上性麻痺(PSP)や大脳皮質基底核変性症(CBD)などのPD関連疾患も含めて、もし血縁者に発症者がいたら、それらの病気のことを一応念頭に置いておいた方が良いかもしれないということです。

 

さらに、診察の続きの中でご主人が、

「食事が終わるとすぐに居眠りするんだよ」と。

そしてご本人も、

「そう、急に眠たくなるんです」と。

前回までのお話でも触れましたが、おそらくこの方にもDLBの主要な症状の1つである「意識の変容」があり、食後に睡眠ホルモンのオレキシンが低下して眠気が誘発されることで、一気に覚醒度が落ちて居眠り状態になっている可能性が考えられました。

 

昨日も80代の高齢者が運転する車が、後ろから小学生と中学生に次々に衝突するという事故がありました。

今回は幸いにして皆さん軽傷でしたが、現場は見通しの良いゆるやかなカーブだったにも関わらず起こった事故であり、しかも5人目に衝突するまでブレーキをした痕跡がないということでした。

そうすると、やはりこの80代の方には「意識の変容」の症状があり、何かしらの要因で一気に覚醒度が落ちてしまって、事故が起こるまで一時的に意識がなくなっていたのではないかと疑わざるを得ません。

事故が起こる直前の記憶がはっきりしているのかどうかが、この症状の有無を推察する1つの指標になるかもしれませんが、これについてはニュースでは報じられておらずはっきりしません。

この方の普段の生活の様子を聞いて、ボーっとしたり、一点を見て固まっていたり、よく居眠りしていたりといったことなどがあれば、すぐに判断できるのですが・・・。

いずれにしても認知症の症状の1つに、この「意識の変容」の症状があることが広く世間に認知され、高齢者の自動車免許更新可否の判断基準として早く採用されることが望まれます。

 

例えば、家族など一緒に過ごす時間の長い方に問診をするであるとか、一定時間ビデオを観たり、単調な作業をしている間に覚醒度が落ちないか観察したり、食事を摂らせて眠気が誘発される時間帯に検査を行うなどがすぐに思いつくところですが。

この症状は脳波検査などではなかなか検知できず、医療機関でも「意識の変容」について熟知しているところはまだまだ少ないようなので、早急に広く実態調査が行われ、この症状が検査・診断できるようになってほしいです。

 

近年、飛躍的に進んでいる自動車の事故防止機能のさらなる向上にも、もちろん期待するところですが、今すぐ始められることとしては、運転手本人やその家族、知人などが「意識の変容」の症状について知り、この症状が出ている疑いが少しでもあれば「運転しない、運転させない」という毅然とした対応をすることだと思います。

そして何よりも、これ以上「意識の変容」が疑われる症状が原因で自動車事故が起こり、未來に向かって大きく羽ばたく夢や希望が失われなることがないようにと願うばかりです。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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